<ブレーク盤> SPiRiTRiAL『SPiRiTRiAL』 ハードロックに、様々なジャンルや時代の音楽を融合

SPiRiTRiAL『SPiRiTRiAL』

 伊藤威明、勝谷健人、丸岡勝の3ピースによるフルアルバム。ジャンル的にはハードロック/ヘヴィメタルに分類されるバンドだが、実際に聴いてみると随分と聴きやすくて驚いた。

 インスト2曲を含む全11曲は、確かに重厚なサウンドが全編にあり、英語詞も多いが、1曲目『Divide The World』は80年代後半のニューミュージック系にも通じるキャッチーさもある。続く『Calling』も、プログレ色が強いのに、ピアノとドラムが絡みながら盛り上がっていく様子は、大御所バンドのLIVEを観るようだ。5曲目『My Decision』も、90年代のデジタルロックや近年のUKロックが絶妙に味付けされていて面白い。最も印象的だったのは8曲目『She』。和音階のピアノのイントロから始まる英語曲なのに、メロディアスな部分はオフコースっぽさを想起させる。総じて、ハードロックに様々なジャンルや時代の音楽の旨味が融合されているのだ。これは、貴賎意識なく幅広い音楽を消化しないと到達できない領域だろう。

 また、ボーカル伊藤の歌の上手さも特筆すべきだろう。杉山清貴の中音域の甘さと、根本要の高音域の鋭さ、さらにビリー・ジョエルあたりの温かさも感じられるメジャー感のある歌声なので、幅広い音楽ファンに愛される魅力がある。

 ラストは、未来に向かって進もうと誓う『Anthem』。これも、80年代のEpicレーベル風メロディーに激しい演奏、さらにハイトーン・ボーカルやコーラスワークが加わり、唯一無二の輝きを放っている。本作を聴けば、長期にわたって見聞を広めることはいずれ自分の糧になると励まされるはず。

(Black-Listed Records・2500円+税)=臼井孝

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