白雨には遠く

 明るい空から降る夏の雨を「白雨(はくう)」と呼ぶ。夕立の別名という。大粒の雨が地面に激しくたたきつけられて、しぶきが白く見えるからなのか。雨の呼び名は数ある中で、指折りの美しい言葉だろう▲不意に白雨が落ちてきて、道行く人々が早足になるさまはいくらか夏らしくもあるが、晩夏にいきなり襲ってくる大雨には、季節感も何もあったものではない。前線に暖かい空気が流れ込んだためという。県内はきのう、非情に、いや、非常に激しい雨に見舞われた▲佐世保市江迎町などを流れる江迎川は氾濫し、現場で記者が撮った1枚を見れば、茶褐色と言ったらいいのか、泥の川はなんとも見定めがたい色をしている▲各地で崖崩れも起こり、交通も乱れに乱れた。落雷で信号が「止まれ」の赤のまま変わらなくなり、特急や普通列車の合わせて40本が運転を見合わせたりしたという。浸水した所があり、避難指示や避難勧告の出された所がある▲きょうもまた油断はできない。大雨はまだ続き、短時間のうちに降る雨もかなりの量が見込まれる。そうなれば土砂災害の危険度も増す▲濁流の泥の色といい、土砂が崩れた山肌の茶色といい、雨のもたらす色は風情ある「白」と全くもって懸け離れている。白雨の景色は胸にしまって、ともかく雨のやむのを祈るほかない。(徹)

© 株式会社長崎新聞社