暑さ対策、非常事態でも万全対応 東京パラ、成功の鍵は「満席」とIPC会長

2018年3月、インタビューに答えるIPCのパーソンズ会長=韓国・平昌(共同)

 国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドルー・パーソンズ会長(42)=ブラジル=がこのほど共同通信の電話インタビューに応じ、8月25日で開幕まで1年を迎えた東京パラリンピックの暑さ対策として、非常事態の場合も「代替案を準備している」と万全の対応を約束した。大会成功の鍵として「チケット完売で満席」を目標に掲げ、史上最高と呼ばれる2012年ロンドン大会を超える記録的な盛り上がりを期待した。 (共同通信=田村崇仁)

  ―詳細な競技日程が発表され、マラソンの開始時刻を午前6時半に変更した。

 「東京の夏が本当に暑いのは理解している。暑さ対策は選手が最高の環境で競技し、健康を守る上で最も重要なテーマだ。パラアスリートには体温調節が難しい選手もいる。専門家による気象データを踏まえた対策で、耐久レースのマラソンとトライアスロンのスタート時刻は30分繰り上げた。国際競技連盟や国際オリンピック委員会(IOC)とも協議し、正しい決断をしたと思う」

 ―車いすテニスなど屋外競技では日中の試合で懸念の声も出ている。

 「これ以上の大きな日程変更は現時点では考えていない。もちろん日中の屋外競技では馬術やアーチェリーも時間を配慮したが、パラリンピックは原則として五輪より時期的には当然涼しくなる。不測の事態に対応する準備も進めているが、車いすテニスはセット間の休憩もあり、入念な準備で対処できるはずだ」

 ―チケット価格は家族などグループ向けで最低500円と五輪と比べて手頃な設定となった。

 「教育的価値も高いパラリンピックは家族で観戦できる大会だ。できるだけ家族連れで多くの子どもたちを会場に呼び、熱狂的な雰囲気を実現させたい。パラリンピックを仲間と楽しんで観戦し、障害者に対する見方を家族で、そして社会全体で変える機会にしてほしい」

 ―ロンドン大会を超えることは可能か。

 「チケット戦略や競技場の雰囲気など全ての分野で成功したロンドン大会を超えるレガシー(遺産)を残すことは十分可能だと思う。日本は官民やメディアが一体となり、都市の交通網やホテルのバリアフリー化も改善されてきた。重い身体障害がある新人議員2人も当選し、国会でも環境整備を進んでいる」

 ―1年前の準備は。

 「組織委員会を中心とした取り組みに自信を持っている。国民の関心も高まっており、想像を超えたレベルだ。車いすテニスの国枝慎吾(ユニクロ)や上地結衣(三井住友銀行)ら大会の顔となる選手が機運を盛り上げ、企業や国も支援している。パラリンピックで人々の意識を変える千載一遇のチャンスだ」

2019年8月25日、東京パラリンピック開幕1年前のイ ベントに参加した車いすテニスの国枝慎吾(中央左)と上地結衣(同右)の両選手ら=8月25日午後、東京・代々木公園

 ―聖火リレーの国内での採火式は47都道府県で実施される。

 「五輪の熱狂を引き継ぎ、全国で盛り上げるのは素晴らしいアイデアだと思う。ロボットが走ることでも、新たなテクノロジーを使った提案でも何でも前向きに検討したい。伝統と革新が融合した聖火リレーを期待している」

 ―近年は競技力が飛躍的に向上し、陸上男子走り幅跳びのマルクス・レーム(ドイツ)ら五輪を目指す選手も出てきた。

 「それはアスリートの本能だと思う。限界を設定せず、彼らは常により大きなチャレンジを選ぶ。ルールが許すのであれば五輪とパラリンピックの融合は意義がある。最も大事なのは公平性の観点だろう。現時点では五輪とパラリンピックが同じ都市でこの順番で開催されているのがベストのモデルではないか」

 ―難民選手団は前回のリオデジャネイロ大会で初めて結成された。

 「東京大会でも継続して結成する方針で枠組みと予算を承認した。現在は国際機関と協力して選手の出場資格を精査しており、おそらく4~8人規模になるだろう。規模は拡大する見通しだ」

 ―検討課題としていた韓国、北朝鮮の南北合同チーム結成については。

 「これは実現すれば、夏冬のパラリンピックを通じて初となるが、現時点で何もリクエストがない。両国の国内パラリンピック委員会(NPC)と3者協議を含めて進展がない。もちろん提案があれば検討する構えはある」

 ―海外のパラリンピック選手は戦争で障害を負った元兵士も多い。

 「米国や英国は軍出身者が多いが、先天的な障害や交通事故などが原因の選手が大半の日本と違いはない。どんな背景がある選手を育成するかは各国・地域の事情にもよる。全ての参加選手が公平に同じ夢と権利を持っている。IPCはどんな選手にも同じ環境で戦える場を守り続けたい」

 アンドルー・パーソンズ氏(ブラジル)国際パラリンピック委員会(IPC)副会長、ブラジル・パラリンピック委員会会長などを務め、南米初開催の2016年リオデジャネイロ大会を成功に導いた。17年9月のIPC総会でクレーブン氏(英国)の後を継いで第3代会長に就任。20年東京大会の準備状況を確認する国際オリンピック委員会(IOC)調整委員会の委員でもある。42歳。

笑顔で写真撮影に応じる、IPCのドゥエーン・ケール副会長(手前)と特別親善大使の(後列左から)稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さん=8月25日午後、東京都渋谷区

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