「表現の自由」とヘイト根絶 盛り込めるか禁止規定

 ヘイトスピーチ対策法3年、現状と課題(4)

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 ヘイトスピーチ対策法の施行により、人種や属性など、本人にはどうしようもできないことを理由とする差別は、決して許されないことが3年の間に浸透してきた。それでも、いまだに横行し、なくならないヘイト。根絶に向け、明確な禁止規定がない点を指摘する声も大きい。

 ▽外国人差別なくす実効性に疑問

 ことし5月29日、差別に反対する運動や外国人支援に取り組む複数の人権団体が、国会内で集会を開いた。

 報告者はジャーナリストの安田浩一氏ら4人。安田氏は冒頭、5月28日の川崎市児童殺傷事件で「犯人は在日韓国人」「川崎は在日が多いから」などのデマや推測がネットに出回ったと怒りを込めて指摘した。「批判されるべきは犯罪で、国籍は関係ない。凶悪事件や災害のたびにヘイト書き込みが繰り返される。対策法ができても差別は野放しだ」と話した。

 日本在住の外国人を取材している安田氏は、愛知県豊田市の団地で毎朝ごみ捨て場を掃除する日系ブラジル人の男性が「少しでも汚れていたらブラジル人のせいにされるから」と話したことを紹介し、こう続けた。「なぜごみ捨て場が汚れているだけで外国人のせいにされるのか。これが私たちの社会だ。日本社会が外国人住民を追いやっている」

 移民政策に詳しい国士舘大の鈴木江理子教授(社会学)も集会で登壇し発言した。「本人の努力ではどうすることもできない外国人という属性を理由にする差別に対して、実効性のある取り組みがされていない。啓発活動や人権相談など、今までやってきたことだけでは疑問がある」。そう指摘し、入管難民法改定に基づいて政府が定めた「総合的対応策」の見直しや、新たな法制度の必要性を力説した。

集会の様子

 最後に登壇した師岡康子弁護士は、ヘイトスピーチ対策法と違って障害者差別解消法やアイヌ施策推進法には差別禁止規定が盛り込まれていることに触れ、「ヘイトを法的に止める手だてがない。次の一歩として、禁止規定が必要だ」と述べた。

 参加者約150人は「外国人人権基本法と人種差別禁止法を制定せよ」と政府に求める決議文を採択した。

 ▽ドイツではすでに禁止規定導入

 ヘイトの禁止規定は、既に海外では導入されている。ナチスのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)への反省からヘイトに刑法が適用されるドイツでは、フェイク(偽)ニュースによる国外からの選挙干渉や難民へのヘイトを背景に17年10月、「ネットワーク執行法」が施行された。明白な違法投稿について会員制交流サイト(SNS)に24時間以内の削除を義務付けるもので、制裁金は最高5千万ユーロ(約60億円)だ。
 

 一方、日本の国会では、禁止規定や罰則を設けることに対して、与野党で意見が割れている。

 5月31日、対策法成立に尽力した与野党の国会議員が記者会見を開いた。当時、参院法務委員会に所属した4人は、それぞれの立場から「法を力に、現に存在する『差別と分断』をなくしていくため、今後も取り組みが必要だ」と訴えた。それぞれの発言を紹介する。

 西田昌司氏(自民党) 条例やガイドラインを設ける自治体も増えてきた。選挙演説でヘイトスピーチをやる人もいた。社会的に認められない行為だと国民に認識してほしい。表現の自由の観点から、対策法でヘイト根絶を目指すべきだ。

 矢倉克夫氏(公明党) ヘイトデモ禁止の仮処分が出るなど、司法でも成果が出ている。今後も不断の努力が必要だ。引き続き対策法でヘイト根絶を目指すべきだ。

 有田芳生氏(立憲民主党) インターネット上の人権侵害には、今の法では限界がある。さらなる法整備を進めるべきだ。

 仁比聡平氏(共産党) さらなる法整備が必要。根絶を目的にし、禁止規定を置くべきだ。

ヘイトスピーチ対策法成立から3年が経過し、記者会見する(左から)立憲民主党の有田芳生氏、自民党の西田昌司氏、公明党の矢倉克夫氏、共産党の仁比聡平氏

 現行の対策法は、憲法が定める「表現の自由」の観点から、禁止規定や罰則を設けない理念法だ。理念法では止められないヘイトに対し、川崎市では、禁止規定と刑事罰を盛り込む条例案が議論されている。ヘイト根絶に向け、国は理念法から禁止法へ舵(かじ)を切ることはできないのだろうか。(共同通信ヘイト問題取材班、終わり)