日本の背丈

 〈一生に一度のお買い物です…十二分にご吟味ください〉。60年以上も前、1955年の広告コピーにある。「お買い物」とは住宅でも高級車でもない。白黒テレビの売り文句だった▲14インチで12万5千円。サラリーマンの初任給が9千円前後という頃、「一生に一度」とはあながち大げさに聞こえなかっただろう。それから10年後、65年の11月から日本は高度経済成長期の好景気に入る▲「いざなぎ景気」といい、カラーテレビ、クーラー、自動車の「3C」が普及した。足がつるほど戦後日本が背伸びして、本当に背丈がぐんぐん伸びる。そんな時代だったろう▲当時の庶民の目に、白黒テレビが超高級品という頃は遠い日に映ったに違いない。今の目線で見ると、「3C」を競って手に入れた頃もまた、昭和の昔語りになっている▲政府は今年1月、景気拡大は6年2カ月に及び、戦後最長になったと表明した。低成長がずっと続いた“いざなぎ超え”ながらも、アベノミクスあっての景気拡大であり、長期政権であるとみる向きは強い▲安倍晋三首相の通算在職日数が、佐藤栄作氏を抜いて戦後最長になった。「経済第一主義」は長期政権を支える柱だとしても、国民生活を下支えする柱であったかどうか。ぐんぐん背の伸びた時代に比べて、日本の背丈は測りがたい。(徹)

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