水産業の国際展示会で「持続可能性」掲げるブースが続々

マルハニチロの展示ブース。サステナビリティを大きくアピールした。

水産業の課題認知と、関連企業・団体の持続可能性への取り組みが広がっている。東京ビッグサイトで21-23日に開催された「第21回ジャパン インターナショナル シーフードショー」。水産業の発展と「水産日本の復活」を目指す一大展示会に、国内外の水産関係の840社が集まった。今年は大企業だけでなく、最新のテクノロジーを利用したスタートアップ企業や組合などの団体も持続可能性を掲げ、展示や講演を行った。(サステナブル・ブランド ジャパン=沖本啓一)

完全養殖マグロはトレーサビリティが確保されている

水産メーカー大手のマルハニチロは長期ビジョンにサステナビリティを組み込み「マルハニチログループは、いまよりももっと『サステナブルな企業グループ』へ」を掲げる。ブースでも持続可能性を大きく打ち出した。1日目に特に来場者からの問い合わせが多かったのは、今年初めて展示した完全養殖マグロだという。

「今の市場では安くて良いだけでは続かない。水産の大手として(他社に)先立ってサステナビリティへの取り組みを進めないと、資源の枯渇といった課題にもつながってしまう。世界各国で調達する水産原料を認証の取得ができるよう作り変えている。そういった原料を冷凍食品や加工食品に利用し、アピールしていきたい」(同社広報IR部の吉川修平氏)

ASC認証を取得したニッスイの黒瀬鰤

同じくグローバルで大手のニッスイは、認証品の認知を高めるブースを展開した。ASC認証を取得した黒瀬鰤や、MSC認証のスケソウダラをミンチ状にした業務用の「おさかなミンチ」を展示。同社の企画開発課の木村亮太氏は「『サステナビリティ』がポイントになり、お問合せを頂くケースは昨年に続き多いと感じる。時代が変わるに従い、持続可能性への取り組みを通して製品をアピールすることが必要になっている」と話した。

水産養殖×テクノロジー:水産業の労働問題に向き合う

「UMITRON CELL」の実機を体験できるブース

スタートアップ企業のUMITRON(東京・港)の藤原謙CEOは元JAXAの技術開発員という経歴を持つ。同社は「持続可能な水産養殖を地球に実装する」をミッションとして掲げ、2016年に「テクノロジーを生かし、食の持続可能性に取り組むために創業した」(藤原氏)という。

「UMITRON CELL」は水産養殖場で利用するスマート給餌機。これまでの給餌機では一般的に、給餌を自動で行う場合、給餌機の本体を手動で直接操作してタイマーをセットする必要があり、毎回の給餌量の調整もできなかった。同製品ではスマートホンを使用して遠隔の操作で給餌量や給餌タイミングの操作が可能。天候不良時などの危険な労働環境を大幅に改善するほか、ムダ餌を減らし環境負荷を低減するとともに、トレーサビリティの向上に資する。愛媛県愛南町の養殖場などに導入されている。

セミナー、講演も

東京海洋大の松井准教授の講演に来場者の関心は高かった

東京海洋大の松井隆宏・准教授が講演を行っていたのは日本かつお・まぐろ漁業協同組合の出展ブースだ。講演タイトルは「IUU漁業とは」。IUU漁業とは、Illegal, Unreported and Unregulated漁業の略称で、密漁などの違法漁業を意味する。松井准教授はIUU漁業に関するデータやその影響、日本へのIUU水産物の流入状況などを詳細に解説した。それによればIUU漁業による経済的な影響は非常に大きく「長期的には水産資源の保護が消費者にプラスに働く。短期的に、IUU水産物であることを知らずに食べることは消費者にとって損をしている可能性がある」という。一方で「IUU漁業由来ではないことを証明するラベルに対する、消費者の限界支払意思額は180円程度」という実験結果も示した。

展示会1日目には15本の同時開催セミナーが行われた。そのタイトルには「国際的に通用する水産エコラベルの活用に向けて」「IoT、AIで目指す水産養殖の課題解決」「世界養殖連盟:日本市場における持続可能な養殖水産物の可能性」「水産ビジネスとしてのサステナビリティの取り組み方、そのメリットとは」といった、持続可能性をテーマに据えたものも目立った。

水産業の課題:絡まった糸を解きほぐせるか

責任あるまぐろ漁業推進機構には現在、グローバルで904隻のマグロ漁船が登録されている。船の数を制限管理することで資源の枯渇を未然に防ぐ

水産資源の管理のため、まぐろ漁業の船数の調整などを行う一般社団法人、責任あるまぐろ漁業推進機構の展示では「今のマグロ漁の大きな課題はメバチマグロの漁獲量減少」と説明。「クロマグロのように絶滅が危惧される深刻な状態ではないが、漁獲量の調整といった対応は必要な状況」だという。その要因のひとつは、まき網漁による育ち切っていない個体の乱獲だ。長期的に現在の状況が続けば、水産資源の枯渇にもつながる。「素群れ(すむれ)操業などの漁法なら乱獲にはつながらないが、船頭の経験やスキルに漁が大きく左右され、導入してもらうことが難しい」と解説する。

日本かつお・まぐろ漁業協同組合のある組合員は「どのように課題に関係しているかによって課題の解釈が異なり、方針決定や基準策定の議論が混迷するケースがある。ステークホルダーの中で問題が複雑化し、解決への道筋がなかなかまとまらない議論はもつれた糸のようなもの。解きほぐしていくことが必要だ」と言い「それでも持続可能なかたちで、安心、安全な食を消費者に届けたいという思いは水産業を生業とする関係者に一致している」と語った。

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