この欄で同じ著者による中学生向けの詩の入門書『詩を書くってどんなこと?』(平凡社)を取り上げた。その大人向け、あるいは応用編となる本書もまた心に響く一書だ。
全15章の各章で1人の詩人に焦点を当て、関連の作家や作品をやさしい語り口で読み解きながら、詩の持つはたらきと力、詩がもたらす喜びと救いを繊細な筆致でつづっている。
中原中也、宮沢賢治、八木重吉といった詩人だけではない。正岡子規、神谷美恵子、須賀敦子、柳宗悦といった名も上がる。著者にとって詩情から生み出された言葉はすべて詩であり、詩情を抱く人こそが詩人となる。
紹介される作品はそれぞれどこか深いかなしみを宿している。肉親との死別、不治の病、理不尽な差別、底知れぬ孤独など、詩人の抱える困難が詩情の源泉となっている。
「詩は人が耐えがたい『かなしみ』を、今を、また明日を生きるための『糧』に変じるものだ」と著者は記す。その悲しみは未知の他者とつながる拠りどころともなる。「人は、悲しみの深みにあるとき、他者に向かって広く、そして深く開かれている」。さらにその悲しみによって人の世を超えた「彼方の世界」や人類の心の古層にもつながっていくという。
こうした詩の捉え方は、東日本大震災と「ある個人的な出来事」をきっかけに詩との交わりを始めた著者の原体験に基づくものだろう。だからか、本書そのものが詩情から生まれた言葉によって記されているように感じる。
詩を味わうために、読むだけではなく、書くことを強く勧めているのも本書の特徴だろう。最初は4行詩、5行詩でいい。1人の詩人に1作品を選んで自分だけの詩歌集を編み、そこに自筆で自作の詩を書き添えることを提案している。
「詩を深く味わいたいと感じるのは、詩が自分の中から生まれ出ようとしているからなのかもしれない」。それは「真の自分に近づいていく道程」だという。
気になりながらもよそよそしい存在だった詩が少し近くなる。
(NHK出版 1700円+税)=片岡義博