野球の18歳以下(U18)ワールドカップ(W杯)が8月30日、韓国・釜山郊外の機張で開幕した。
高校日本代表が世界の強豪相手に、どんな活躍を見せるのか。29回の歴史を誇る同大会だが、日本が高校日本代表で臨んだのは2004年から。
過去の最高成績は準優勝だから「今年こそ世界一」をが関係者の悲願であり、合言葉だ。
今回の代表メンバーを見ると、多彩な投手力がセールスポイント。中でも圧倒的な注目を集めているのが岩手・大船渡高の佐々木朗希と石川・星稜高の奥川恭伸両投手である。
アマチュア球界からプロの世界に向かう時、よく使われる表現に「10年、20年に一人の逸材」というフレーズがあるが、今年の場合は当てはまらない。二人とも「10年、20年」の中で並び立つ金の素材だからだ。
佐々木の名を、一躍全国区にしたのは今春に開催されたU18候補による代表合宿だった。
岩手に大谷翔平(花巻東OB、現メジャーリーグ・エンゼルス)以上の剛腕がいるという評判はすでに立っていたが、この合宿で何と163キロのストレートを投げ込んだ。
過去に160キロ台を計測した高校生投手は大谷以外いない。
190センチを超す長身ながら、左足を高くあげる投球フォームにもバランスを崩すことがない。
しなやかな腕の振りでスライダー、フォークボールも駆使するから、高校生レベルで攻略は難しい。
夢だった夏の甲子園大会出場は、県大会決勝で未登板という意外な結末で叶えられなかった。
近年、議論が活発になってきた球数制限の問題や佐々木自身が成長過程にあって、骨密度がまだ不十分などの理由で決勝戦の登板は見送られた。
こうした起用法にはプロOBの張本勲氏らが不満の声を上げれば、現役のメジャーリーガーであるダルビッシュ有(カブス)が「若者の将来を酷使で潰してはならない」と反論するなど、球界全体を巻き込む大論争となったのは記憶に新しい。
いずれにしろ、佐々木の素材が素晴らしいからこそ、これだけの騒ぎになったのは間違いない。
その甲子園で人気も話題も独占したのが奥川だ。
大阪・履正社高との決勝戦こそ打ち込まれて準優勝に終わったが、見事な投球にはプロのスカウトたちも驚きの声を上げた。
中でも圧巻は3回戦の智弁和歌山戦。優勝候補の一角に挙げられていた強打の智弁和歌山打線を相手に奪った三振は23。
延長14回をタイブレークの末に制した165球は、高校野球史に残る名勝負の主役にふさわしいものだった。
最速154キロは佐々木に劣るものの、球威、コントロール、スタミナ、フィールディングなど、総合力では佐々木以上という評価を得ている。
甲子園大会が終了した時点で、ある在京プロ球団のスカウトは「奥川は5、6球団、佐々木は3、4球団が指名するのでは」とドラフトの見通しを語った。
佐々木には春、夏の甲子園など大舞台で強豪校と戦った実績はない。体も発展途上なら連投の際には故障のリスクもはらんでいる。
これに対して奥川には元ヤクルト、楽天などで指揮を執った名伯楽・野村克也氏が「腕の振りが(楽天入団当時の)マー君にそっくり。即戦力でいける」と、田中将大(ヤンキース)並みの高評価を与える。
プロに入った場合、1年目から活躍しそうなのは奥川だろう。2、3年かけて鍛えたら大化けしそうなのが佐々木、というのが大方のプロの見立てのようだ。
剛腕二人がタッグを組んで臨む世界大会。直前の大学日本代表との壮行試合に先発した佐々木は1イニングを2奪三振、ストレートはすべて150キロ台を計測するなど大器の片鱗をのぞかせたが、この試合で右手中指に「血マメ」を作ってしまったのは気がかりだ。
奥川も甲子園の疲労が考慮されて実戦から遠ざかっている。
まさにぶっつけ本番。ベストコンディションではなくても“怪物君”たちはどんな結果を残すのか。
W杯の決勝は9月8日の予定。帰国しておよそ1カ月後の10月17日には、運命のドラフト会議が待っている。
荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル
スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。