トロロッソ帯同の山本尚貴、高まるF1挑戦の思いとホンダの活躍「生意気かもしれないけれど、あそこに立つ姿は自分が見せたい」

 スーパーGTとスーパーフォーミュラで昨年ダブルチャンピオンに輝いた山本が、たびたびF1の現場に姿を現すようになった。昨年のアブダビに続き、今年は7月末のドイツGP、そして今週末のベルギーGPにも訪れるようだ。こうした動き自体が「山本のF1に対する意思表示」と取ることはできるが、それでもやはり本人の口から、いま何に悩み、何を思うのか聞いた。

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──アブダビ、ドイツと半年の間に2回、F1を見に行かれてどんな印象を受けましたか?

山本尚貴(以下、山本):まず直近のドイツですが、欧州ラウンドを初めて見て、モーターホームが並んでいてパドックの雰囲気はアブダビとはまるで違うなと思いました。でも、どの国に行ってもF1村の雰囲気や世界観は変わらず、特別なものを感じましたね。そして、決勝では日本人の誰もが興奮し感動するようなレースを目の当たりにしました。あれを見てしまうと、挑戦したいと思うのが普通ですよね。他の人のレースを見てあんなに感動するようなことは、久しくなかった。前回がいつだったか覚えがないくらいです。

 昨年アブダビで見たときもF1はかっこいいと思ったし、雰囲気がすごいと純粋に思いましたが、あのときのホンダはトロロッソが中団争いをしていた。それはそれで得るものがありましたが、ドイツではレッドブルが勝ち、トロロッソが3位に入るという歴史的な瞬間に立ち会えました。トロロッソにずっと帯同し、コースウォークから一緒だったので余計に感情移入できましたね。木曜日のミーティングにも参加させてもらい、金曜日のクルマの状況、土曜日の予選など、すべて踏まえたうえで、あの結果が見えるほどのポテンシャルはなく苦しい週末でした。トップではないチームの苦労と現実を見ていたからこそ、3位になったのは素直に喜ばしかったです。

──アブダビ、ドイツとF1に対する気持ちがどんどん強くなっているように感じます。

山本:そうなんです。まずアブダビに行き、ひとつ気持ちが上がりました。それで今年は今まで以上にF1の細かいところまで見るようになり、乗ってみたいという思いがステップアップした。そしてドイツに行くと決まって、レッドブルのシミュレーターに乗ることになり、乗り終わったときには『これで戦ってみたい』という思いに変わりました。そこでさらにひとつステップを踏んだのですが、レースでホンダがあれだけ活躍したのを見たら、スリーステップくらいバンと上がった感じです。

──レースウイークをトロロッソと一緒に過ごしたわけですが、表彰式はやはり感動しましたか?

山本:じつは表彰式には行かなかったんです。モーターホームのなかでずっと無線を聞いたり、メモをとったり、後で分からないことをチームに聞いたりできるように静かな場所でレースを見ていたのですが、残り2周くらいで表彰台に上がれそうだとなり、山本(雅史F1マネージングディレクター)さんたちとトロロッソのガレージに行きました。なのでチェッカーの瞬間とクルマが帰ってくるまでの間はガレージで一緒に興奮を味わえたんです。

 でも、みんなが『表彰台に行くぞ!』となった輪のなかに、なぜか入っていけない自分がいた。もちろんうれしかったし、すごいなと思ったけど、ドライバーが活躍している姿を手放しで喜ぶことに気が進まなくて。おこがましいというか、生意気かもしれないけれど、あそこに立つ姿は自分が見せたいって思っちゃう。ドライバーが喜んでいる姿を見るのは、ちょっと悔しいみたいな。いまは舞台が違うけれど、まったく足がかからないようなところではなく、チャンスを掴めるところにいるから、余計そういう思いが芽生えたのかもしれません。

──表彰台に上がった彼と、シートを争う状況になるかもしれないという気持ちもあったのでしょうか?

山本:これが自分の後輩だったり、自分とはまったく関係のないカテゴリーであれば、表彰台の下に行ってみんなと一緒におめでとうと喜べたでしょう。でも、自分がいま目指しているカテゴリーの表彰式を見て、そこで拍手を送れるかというと送れない。そこはドライバーになっちゃったのかもしれないですね。F1は『やるか、やられるか』の世界です。世界各国からドライバーが集まっているなかで、シートは20席しかなく、そのうち本当に数席しかないものを争っているので、仲良しこよしではないとあらためて思いました。

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 昨年の11月以降、山本尚貴の気持ちは時間の経過とともに大きく変化していったようだ。だが、アブダビ時点で、なぜ彼は『心の底からF1に乗りたい』と言えなかったのか? そうした心の葛藤は、悩み抜いた末にどのような結論に達したのか? そして、いま、F1に挑戦する覚悟はどれほどのものか? このインタビューは一部を抜粋したものだが、『オートスポーツ』最新号(No.1514)では、そんな山本の素直な気持ちが語られている。

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