お寺離れの時代に「お寺の掲示板」をバズらせた企画の舞台裏

今年もSNSに“お寺の掲示板”が続々と投稿されています。全国各地の寺にある、仏さまや各宗祖の教え、寺院のお知らせなど伝える掲示板。そこに書かれた標語について、ユニークさや反響を考慮に入れながら賞を決める「輝け!お寺の掲示板大賞」に昨年から注目が集まっています。

標語を写真に撮り、コメントなどを添えてツイッターもしくはインスタグラムに投稿すると、10月末の締め切り後に、その内容によって各賞が授与されるという仕組みです。

掲示板大賞を発案したのが、浄土真宗本願寺派僧侶であり公益財団法人仏教伝道協会に勤める江田智昭さんです。2018年から始めた企画が、テレビや新聞、SNSで取り上げられ拡散。多くの人に知られるようになりました。今年9月26日には新潮社から書籍も出版されます。


低予算で大きな成果を上げたスピードとタイミング

「今、世間ではお寺離れが進んでいます。お寺の中には入ってもらえなくても、お寺の前にある掲示板というスペースで、少しでも一般の方々がお寺の活動や仏教に関心をもってくれる機会になればと思い始めました」(江田さん)

2018年に協会内で企画を立ち上げた時の予算は3万円。内訳は「仏教伝道協会賞」として受賞者に渡す賞金分のみです。低予算にも関わらず、江田さんの企画は寺の掲示板というものを世間に周知するための大きな効果を上げました。

「4月に発案し3ヵ月後の7月から掲示板大賞をスタートしました。SNSを使用した手軽さ、予算の少なさということもあり、協会内でもすんなりゴーサインは出ました」(同)

予算や実現までのスピード感に加え、同賞を立ち上げた時期も味方しました。

「今は注目されやすいインスタグラムやツイッターといった媒体も、これからも世間の注目を集め続けていくかは分かりません。2018年のというタイミングは、時流に企画をうまく乗せられたのだと思います」(同)

企画を開始して数週間後、まず「お前も死ぬぞ 釈尊」という掲示板が投稿され、SNSで大きな反響に。その後はテレビ朝日「タモリ倶楽部」に取り上げられたり、ダイヤモンドオンラインで“お寺の掲示板”を題材にした日刊の連載が始まるなどして、追い風になりました。成功を収めたことで、2019年に第2回の開催を決定。今年も「衆生は不安よな、阿弥陀仏動きます」「墓参り合掌した手で蚊を殺す」など、個性ある言葉が集まっています。

掲示板大賞はヒットの条件がそろっていた

なぜ掲示板大賞はここまでうまくいったのでしょうか。江田さんは、幻冬舎の創業者である見城徹さんの「ヒットの4条件」を例に出し、掲示板企画を振り返ります。4条件とは「オリジナリティがあること」「明快であること」「極端であること」「癒着があること」です。

「お寺の掲示板をSNSでシェアして表彰するというのは、“オリジナリティ”あるものでした。スペースが限られる掲示板には、仏さまの言葉をより“明快”にして伝えなければいけません。仏教界でSNSを使う企画はいままで皆無であり、昔ながらのアナログな筆書きの掲示板を、それとは真逆のデジタルなスマホで見るというところが“極端”でした。そして、企画を始めるに際して、何人かの知り合いに掲示板大賞を取り上げてもらえるメディアはないかと頼んでみました。“癒着”ですね」(同)

オリジナリティや極端といったことは、仏教界など特に伝統を重んじる世界では、眉をひそめられることがあるかもしれません。しかし掲示板大賞に限っては、これまで非難は起きていないそうです。

「各お寺の掲示板に書かれた内容については、仏さまの言葉を単純化し過ぎたり、奇をてらい過ぎたりして、非難が起きることはあります。しかしお寺の掲示板の認知を上げるということ自体は、世間がお寺に関心を持ってもらう、きっかけになります。僧侶側の意識の高まりにもつながります」(同)

費用対効果が良く、保守的な業界において波風を立てず、世間の関心を高めることに成功した「輝け!お寺の掲示板大賞」。今年も10月末まで募集中です。あなたの近所のお寺にも、心に響く言葉が書かれているかもしれませんよ。

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