避難所「行かない」 九州北部大雨で江迎川氾濫 長崎県佐世保市江迎町

避難所で、大雨の被害を伝えるテレビを見る地元住民。多くの住民は「行かない」という選択をした=28日午前9時55分、佐世保市江迎町の江迎地区公民館

 8月27日から29日にかけ、九州北部は猛烈な雨に見舞われた。27日は長崎県佐世保市江迎町で江迎川が氾濫。町内2086世帯5176人に避難指示が出された。しかし市によると、避難所を利用した人は最も多いときで60人(28日午前10時)。多くの市民は、避難所に「行かない」という選択をした。危険が迫っているのに、なぜなのか。避難の現状を探った。

 濁った川の水が道路に流れ込み、騒然となっていた。27日午前11時20分、江迎川は氾濫危険水位に達し、江迎町の数カ所で氾濫。車は立ち往生し、店舗も水浸しになった。川沿いに暮らす男性(75)は「膝まで水につかりながら、必死で逃げた。避難するのが5分遅かったら、どうなっていたか…」と声を震わせた。
 市は11時40分、江迎町に避難指示を発令。町内に避難所を4カ所開設し、防災無線やホームページなどで周知した。しかし、利用者は午後6時で30人、午後9時で36人しかいなかった。
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 なぜ避難所に行かなかったのか-。当事者に尋ねると、ある男性(77)は「過去に氾濫したときも無事だったので、今回も大丈夫だと思った」。女性(71)は「大きな災害を経験したことがないので、危機感がなかった」と話した。
 「近年は避難指示や勧告が多く、慣れてしまっている」。防災システム研究所(東京)の山村武彦所長はこう指摘する。指示や勧告が出ても、必ずしも被害が発生するわけではない。そのため「今回も大したことはない」「自分は大丈夫」などと考える「正常性バイアス」がかかり、避難をしないケースがあるという。
 避難所ではなく、「自宅」に避難した人もいた。川の近くで美容室を営む女性(69)は「避難所に行くには、川の近くを通る必要があるので危ない。自宅のほうが避難所よりも高台にあって安心だった」と説明する。
 山村所長は「高層階や川から離れた場所に住んでいる人は、避難所に行く必要はない。そもそも、家ごとにリスクは異なるので、地域一帯に避難指示を出す方法は不十分」と指摘。「災害時にどんな危険があり、どこに避難すればいいのかを、家ごとに考えるべきだ」と訴える。
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 佐世保市は昨年7月の西日本豪雨を受け、市民の防災意識を高める取り組みを進めている。本年度からは、自治協議会が独自に防災計画を作る取り組みを支援。危険箇所や避難場所、防災訓練の内容を自ら考えることで、「自分たちの地域は自分たちで守る」という意識を浸透させる狙いだ。
 ただ、自治協議会からはこの取り組みを負担に感じるという意見もある。市の関係者は「『防災は行政の仕事』という考えは根強い。行政機関が市民一人一人を守ることはできないので、地域の協力は必要」としている。

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