子どもの「学びをつなぎ」、子どもと社会の未来を拓く先生を育てる

1927年に創設、1966年に四年制大学となって53年を迎えた文教大学。埼玉県越谷市と神奈川県茅ヶ崎市の2つのキャンパスに7学部を構える総合大学だ。1969年に私立大学として初めて教員養成を主目的とする教育学部を設置し、これまでに10,000人以上の教育者(教員・保育士)を育成してきた。そんな文教大学が、このたび教育学部の改組を決定。2020年には学校教育課程と発達教育課程からなる教育学部を新たにスタートさせる。その背景や意義、また大学がめざす教育者像について、文教大学教育学部学部長の出井雅彦教授にお話を伺った。

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「子どもの学びをつなぐ」先生を育成する教育学部へ

2020年、教育学部を改組し、従来の学校教育課程に加え発達教育課程を新設します。改組にあたり、私たちはどんな先生(教員や保育士)を育てるべきかと考えました。そこで考えたのが、「子どもの『学びをつなぎ』、子どもと社会の未来を拓く先生」の育成です。

「教科の学びをつなぐ」先生を育成する学校教育課程

まず学校教育課程では、小学校教員養成に関する学修に加え、教科を基にした9専修のいずれかに所属し、各教科の中高の教員養成の学修を積み上げます。これにより、得意とする専門教科を持ち、小・中・高の子どもの学習内容の連続性を理解し、小学校から高等学校までのいずれの学校に勤めても、「教科の学びをつなぐ」先生を育成します。

さらに、自分の目指す教師像を描いたうえで、その実現に向けた各自の科目履修を行います。例えば、「教科の指導が得意な先生」を目指す場合、小学校の先生ならば、小学校各教科の指導法の発展科目である「教科教育法Ⅱ」を、中・高の先生ならば、各専修教科の「専門科目」を選択することになります。

あるいは、「教科以外の指導が得意な先生」を目指すならば、「特別活動実践論」「国際理解教育の研究」といった科目を選択することになります。これは、学生に「先生としての得意」を身につけさせようという意図です。この力を卒業後の長い教師人生の中でより高め、成長し続ける先生になることを期待しています。

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「子どもの個性をつなぐ」「教育制度をつなぐ」先生を育成する発達教育課程

新たに設置したのが、4専修を持つ発達教育課程です。近年、教育現場では子どもの発達の多様性への対応が課題となっています。

発達教育課程の使命の第一は、「子どもの個性をつなぐ」先生を育成することです。子どもの発達の速度は同じではありません。その違いは「遅い/早い」はではなく、「個性」ととらえられます。そして、その個性に応じた教育が今求められています。

そこで、「特別支援教育専修」では、子どもの個性である発達の多様性を理解し、それに対応する教育力を身につけます。取り分け、児童・生徒期のみならず、幼児期に始まる発達のスパンでのそれを身につけさせます。本専修で学んだ学生は、特別支援学校に勤務して専門性を発揮することはもちろん、小学校での特別支援教育のリーダーシップを発揮することも期待しています。

ところで、子どもの個性には「発達の速度の違い」と別に、「内気な子」「我慢できない子」などの個別性も存在します。また、親にとって、これら子どもの個性は「大きな気がかり」でもあります。そこで、「児童心理教育専修」では、カウンセリング関連科目も含む心理学を広く学び、これらの個性をもった子どもや、子どもの成長や不安を抱える親への対応力をもった教員を育成します。

また、発達期にある子どもの教育制度も一様ではありません。そこで、発達教育課程の使命の第二は、「教育制度をつなぐ」先生を育成することです。先に述べた学校教育課程では、小学校から高等学校までの「教科の学び」を理解する先生を育てますが、これは社会要請に基づく対応でもあります。

さて、今、発達期にある子どもの教育制度について大きな問題となっているのが幼児教育と小学校の連携です。幼稚園や保育所での幼児教育と小学校での教育小学校での教科の学び)となりますが、例えば、幼稚園は教科を横断して日常生活に直結した総合的な学びが行われ、少人数での学びが多かったものが、小学校では大きな集団での活動が求められることがあるといった違いがあり、そして、これらの変化に戸惑う子どもが増えています。

そこで、「初等連携教育専修」を設置し、幼児教育と小学校教育とに精通し、 幼小の「教育制度をつなぐ」先生を育成します。幼稚園と小学校の教員育成に関する学習はもちろん、「初等連携カリキュラム論」「幼小接続教育内容論」といった科目を開講し、幼児教育から小学校教育への移行に際する子どもの戸惑いを減らし、「幼小の学びをつなぐ」教師力を身につけます。

また、幼児教育には幼稚園と保育所という制度があり、それぞれに特徴を有しています。さらに、両方の機能を兼ね備えた「認定こども園」といった制度も拡がっています。これらの制度を「つなぐ」先生も必要であり、従来からの「幼児心理教育専修」も設置しています。もっとも、幼稚園教諭と保育士資格を取れる大学は珍しくありません。ただ、発達教育課程の幼稚園教員養成の学びでは、その制度から、小学校教育との連携を理解することになります。また、心理学をも学び、「保護者の子育て支援」にも対応できる幼児教育者を育成します。ここに特長と意義があります。

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専門性を伸ばす基礎教育と専門教育の連関、学校体験との往還

専門性の習得や向上には、その基礎となる力が必要です。そこで、基礎教育も工夫し、特に、1年次の「基礎演習」、2年次の「教育課題演習」という積み上げで、「『より良い』を目指し、課題発見し、課題解決をする力」、すなわち探求力を習得させます。「基礎演習」では、その基盤となる「文章を読み解く力」「多角的な物の見方」「論理的な思考力」などを培います。「教育課題演習」では、教育課題に関する研究テーマを設定し、課題発見と課題解決を論考します。

一連の学習では、「問いを立てる」こと、すなわち「仮説を立てる」思考の定着を大切にします。これは、後の専門教育において、「より良い教育について考える」際の基盤となります。例えば、「良い授業をつくるには、どうしたらいいか」ではなく、「良い授業とは、子どもに○○を体験させることである」と仮説を立てた上で立証する。こうした論理的思考を身につけさせるのです。

さらに、学校体験を通じた学びも大切にしています。まず、大学の学習で得た知識を教育実践力に昇華させることになります。また、大学の授業では知り得ない現状を知る機会となります。何よりも、知識の学習と現場の体験とを相互に反映させるスパイラルこそが、「どういう先生になりたいのか」という将来目標を創り、「先生となって何をしたいのか」というビジョンを明確にしていきます。

このキャリア感の醸成プログラムとして、2年次に行う「『先生の助手』体験」があります。一週間、先生の助手として、お仕事をお手伝いさせていただきながら、「先生」という仕事の大変さ、ひいては社会使命を学んできます。

市教委のご協力をいただき、指導主事の先生から事前指導を受け、この体験で「何を学ぶのか」「何を見るのか」という明確な視点を持って臨ませるようにしています。

この「『先生の助手』体験」は、13年続くプログラムで、本学の教員育成の特色にもなっています。その他、さまざまな学校体験プログラムを用意し、「先生」という仕事に対する使命感を醸成しています。さらに、「教育フィールド研究」という科目を設置し、学校体験と大学での学習を有機的に往還できるようにしています。その結果として、高い専門性の育成となっています。

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学生の「夢の実現に向かう自立力」を伸ばして得た全国上位の教員採用者数

文教大学の教員採用者数は、2018年まで、中学校教員は6年連続、小学校教員は12年連続で私立大学全国1位という実績を得ています。

しかし、私たちは数字を求めたわけではありません。長年に渡って学生たちが「先生になりたい」と志し、それを教職員がしっかりと支援してきたことで、独特の校風や学生気質が創出された結果、この数字として表れたものだと思っています。

元々、本学に入学を希望する学生は、他大学に較べても「先生になりたい」という決意が強く、意気込みが大きく違います。大学入学時から学習の動機が明確で、目標が同じ仲間が多いことから、学生は、日頃から切磋琢磨を行い、同じ目標の実現に向かって協力する傾向が強いです。また先輩たちの背中を見て、「2年生になったらこんな体験をしよう」「3年生になったらこれを勉強しよう」と動く自立性もあります。こういった風土により、学生は「先生になりたい」という目標を「『良い』先生になりたい」と高じていきます。結果、教育は優れた知識となり、体験は生きた経験になり、翻っては教員採用者数の高さへと結びつくのだと思います。

大学は学生が自発的に準備し、勉強していく場です。私たち教職員もその支援の努力を惜しみません。新しい教育学部から、子どもの学びをつなぎ、子どもと社会の未来を拓くことのできる先生をたくさん育てていけたらと考えています。

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