子どもを守るための「送迎バスの中」で運転手が性犯罪 保育施設から解雇されても被害者の心の傷は消えず

写真はイメージです。文中に登場する人物とは一切関係ありません

犯行現場は中郷昌則(仮名、裁判当時74歳)が運転する保育施設の送迎バスの車内でした。被害者は保育施設に通う子どもです。犯行は子どもを自宅に送り届ける途中に行われました。その時車内は二人きりで、他の子どもは乗っていませんでした。

裁判では素直に罪を認めて反省する態度を見せていましたが、警察官への取り調べを受けた際には、

「他の子には一切やってません。被害者に対しても一回だけです。単なるスキンシップで性的な意図はありませんでした」

と、半ば容疑を否認しているようにも取れる供述をしていました。

被害者の母親は、

「保育施設は辞めました。なぜ自分たちがこんな目に遭わなくてはいけないのか、と考えると悔しくてたまりません。娘はまだ自分のされたことの意味がわかってないと思いますが、大きくなってその意味がわかったときに心が壊れてしまうんじゃないかと心配です。犯人には厳重な処罰を望みます」

と話し、示談交渉を拒否しました。

事件当時、被害者は運転席の後ろに座っていました。被害者が「いつもと違う座りかた」をしていたことに気づいた彼は、

「ちゃんと座って」

と何度か注意をしました。注意をしても被害者の座りかたは改まりません。

彼は車を停めて被害者に直接注意をしに行きました。この時、被害者はシートベルトを付けていてすぐに逃げることが出来ない状況です。

「注意をしても言うことを聞かなかった。注意をしていたら、いつの間にかだんだん着衣の上から性器をさわってしまってました。それでも全然動じなかったし言うことを聞かなかったので、『もう少し触ってもいいか』と思いました」

彼はその後、被害者の下着の中に指をいれて直接性器を触り、股間に顔を埋めました。

犯行は10分間に渡って続きました。被害者は家まで着くとすぐに自分がされたことを母親に告げ、犯行が発覚しました。逮捕と同時に彼は保育施設から懲戒解雇処分を下されました。

証人尋問にやってきたのは彼と20年以上交際していたという内縁の妻でした。

「警察からの電話で事件を知らされた時には驚いて頭が真っ白になりました。20年以上付き合っていますが、被告人は幼い子どもに興味があるような人ではありません。今まで一緒にいて信頼できるし、何事にも一生懸命で几帳面な人です。今後も支えていきたいです」

と法廷で話し、今後はGPSを使って居場所を確認し監督していくことを約束していました。幼い子どもに性的関心がない、というのは本人も主張しています。

「被害者に対して性的関心はありませんでした。いわゆるロリコンというような性癖は私にはないのですが、この時だけムラムラしてしまって…。なぜこんなことをしてしまったのか自分でもよくわかりません。よくなついてくれるいい子でした」

仮に幼い子どもに性的関心を抱く性癖を持っていたとしても、そのことと実際に行動にうつすかどうかは全く別の話です。

検察官に、

「相手の気持ちを考えたりはしなかったんですか?」

と問われた際には口ごもってしまっていました。もしも考えていたならこんな犯行には至るはずもありません。

被害者の両親は、被害者が成長した後の心にどんな悪影響があるかを心配しています。また、同じ町の中に彼がいること自体にも不安を感じています。

彼ら夫婦は事件後、岡山へ引っ越すことを決めました。これで少しは両親の不安は解消されるかもしれませんが、被害者の心の傷についてはその不安が払拭されたわけではありません。

今まで犯罪とは無縁の人生を送ってきた74歳の彼がなぜいきなり性犯罪、それも子どもに対してのものを犯してしまったのでしょうか。その時、彼の心の中で一体何が起きていたのでしょうか。

性犯罪は再犯が多い犯罪だと言われています。

「なぜこんなことしてしまったか自分でもよくわかりません」

と話した彼が再犯に至る可能性は低いものではないのかもしれません。(取材・文◎鈴木孔明)

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