サントリー「ボス」、市場縮小中の缶コーヒーにあえて挑む理由

2017年に中容量ペットボトルコーヒー「クラフトボス」を投入し、異例の大ヒットを記録したサントリー食品インターナショナル(BF)の看板ブランド「BOSS(ボス)」。今年5月には家庭用の新商品を展開するなど、ブランドの拡大を進めています。

しかし、同ブランドの主力である缶コーヒーの国内市場は、コーヒーの形態が多様化する中で縮小傾向。その一方で、缶コーヒーはコーヒー市場の約6割を占める大きな柱でもあります。

こうした中で同社は今月、ショート缶の新商品を発売することになりました。ボスらしくない外見の新商品には、どんな狙いが秘められているのでしょうか。


ショート缶が売れない?

自動販売機で買うコーヒーの“定番”ともいえるショート缶。しかし、入れたてを出すコンビニコーヒーや、仕事をしながら飲めるペットボトルコーヒーの台頭に圧されています。

じわじわとシェアを減らすショート缶

サントリーBFの推計では、缶コーヒー市場は昨年に比べて94%に縮小。ボスの缶コーヒーは前年比101%と健闘しているものの、強い危機感を抱いているようです。

缶コーヒーはヘビーユーザーが多く存在し、各社が競争を続けてきた重要な市場。ところが、コーヒーの多様化に加え、「おじさんの飲み物」「缶コーヒー独特のにおいが苦手」などという声も多く、若いユーザーを獲得できていません。

サントリーBFの調査では、ショート缶ユーザーに占める10~30歳代の割合は、2011年の34.6%から、2018年には28.8%へと大きく低下。飲料全体に占める同年代の割合37.7%も大きく下回りました。同社のスタッフは「大学生に自販機に入っているショート缶のボスを見せても、コーヒーと認識してもらえなかった」と、ため息をつきます。

休憩とショート缶のカンケイ

この缶コーヒー市場をテコ入れするため、サントリーBFが9月3日から発売するのが、新シリーズの「カフェ・ド・ボス ふんわりカプチーノ」「同 ほろあまエスプレッソ」の2種です。

開発を担当したのは、29歳の福永すみれさん。ベテランが多いボスの缶コーヒー担当の中で、20代女性は珍しい存在といいます。担当になって以来、工事現場から造船所まで、缶コーヒーのヘビーユーザーがいる現場を回り、生の声を聞いてきたそうです。

新商品の開発を担当した福永さん

缶コーヒー市場(4ヵ月平均)は2011年を100とすると、一時は90を下回る水準にまで低下しました。しかし、細かく見ると、今年2~5月の4ヵ月ではユーザーが戻ってきていることがわかりました。

理由を探るためにユーザーにヒアリングをしてみると、仕事や勉強中にペットボトルのコーヒーを“ちびちび”飲むのでは、「休憩した気にならない」「仕事の切れ目がなくなって窮屈」という意見が出たそうです。

そこで、缶コーヒーの価値を「きちんと休憩するためのアイテム」と位置付けました。味も自然な甘さがありながら、飲みごたえのあるものに仕上げました。キャッチコピーは「サボるって、一人でとれる小さな休み」。

ボスブランドを率いる柳井慎一郎常務は、「短い一服をしたほうが仕事もはかどる。ショート缶で一服することの良さを広くアピールしたい」と話します。ペットボトルに流れた顧客を再び缶コーヒーに回帰させる戦略です。

缶コーヒーにも“映え”が必要

もう1つ重視したのが、インスタグラムをはじめとする“SNS映え”。昨年9月に発売したスープ「ビストロボス」は、目新しさと、レトロでシンプルな見た目が受け、女子大生らの間でかわいいと好評を呼びました。インスタグラムに上げる人が相次ぎました。

この経験を踏まえ、新商品のデザインには、従来のボスとはまったく違う、水色と緑色のレトロなカラーリングを採用。CMにもミュージシャンの岡崎体育さんらを起用し、ほっこりしたイメージを出しています。

「見た目がかわいくないと、若い人には手に取ってもらえない。親しみやすさやこだわりが感じられることも必要です」と福永さん。ビストロボスに続いて、再びインスタ上でブレイクすることを狙います。

かつては「ボスジャン」が一世を風靡し、矢沢永吉さんをCMに起用するなど、現場で働くブルーワーカーの飲み物というイメージが強いボス。ブランド創設27年を迎え、新規ユーザー獲得に大きく舵を切った新戦略は成功するのでしょうか。

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