アウディ Q8試乗│特別な休息がとても似合う流麗でエレガントなフラッグシップSUV

自動車ジャーナリストの今井優杏さん

極めて流麗でエレガントなアウディの新しいフラッグシップSUVに、いざ試乗!

アウディから新しいフラッグシップSUVの登場だ。その名もQ8と、数字からもブランドの頂点であることをむ〜ん!と漂わせているのだが、実物もまたちょっと凄い。率直に「大きい!」と見た目からして感じさせるし、どこかこれまでの同社SUVシリーズにはなかった迫力すらまとっている。

そう、これはクーペライクなルーフラインを備えた新デザインの賜物ではないかな、と考える。

アウディのSUVシリーズにはすべて頭に“Q”が付き、Q2、Q3、Q5と、コンパクトからミドルを網羅。さらにフルサイズではQ7と、顧客のニーズに答えるきめ細やかなラインナップを誇る。

その上に君臨するモデルQ8は、四輪駆動から来る勇ましさやどっしりとした存在感はそのままに、Q7よりも30mm車高を下げた。さらに全長は75mm短く、全幅は25mm広く取られている。つまり、ワイド&ローが数字上からしても実現されているということだ。そのディメンションの中で、ショルダーラインより上をリアエンドに向けてシュッと傾斜させることによって、4ドアクーペのようなドラマチックさを手に入れている。

Audi Q8 55 TFSI quattro debut package S line
Audi Q8 55 TFSI quattro debut package S line

また、アウディおなじみのシングルフレームグリルは八角形をモチーフとしていて、これが今後のQモデルの、文字通り「顔」になるのだという。

既視感を与えつつも先進を感じさせるのは、この表情に依るところも大きい。

試乗車には新色であるその名も「ドラゴンオレンジ」という大仰な名の付いたボディーカラーをまとうモノが用意されたのだが、夏の日差しの下でのギラッと感たるや! なんかもう、近づきがたいほど、なのだ。

というわけでルックスは極めて流麗でエレガント。ではその走りは?

盛夏を逃れるようにして向かった長野・白馬村にて、公道試乗が実現したのでレポートしたい。

どの領域でもナチュラルに制御されているコースティング

Audi Q8 55 TFSI quattro debut package S line

エンジンは3.0リッターのV6ガソリンターボエンジン「TFSI」が最初に導入される(と、しれっとプレス向け資料に書いてあるから、今後たとえばディーゼルなんかのパワートレーン追加も見込めそうだと個人的には推測している。TDIは日本でもすでに「40」ではあるけれどQ5にも導入されたし、本国には高出力版TDI「50」がQ8にラインナップしているからだ。…間違ってたらごめんなさい。しかしもし導入されるなら、コッチもかなり楽しみな一台になることは必至ですよ!)。

このガソリンV6ターボエンジン、欧州モノにはメジャーになってきた48Vのマイルドハイブリッドシステムがもれなく採用されていて、2tを軽く超える巨体を引っ張る燃費に貢献させている。

自動車ジャーナリストの今井優杏さん

具体的には時速55~160km/h、つまりごく常用域において、ドライバーがアクセルペダルを戻すと、エンジンを停止してコースティング(惰性走行)を最大40秒に渡って行う。ドライバーが再加速、つまりもう一度アクセルペダルを踏めば、このハイブリッドシステムがエンジンの再スタートを瞬時にサポートする。

実際にこれに試乗していると、正直コースティングもリスタートも、いつ行われているのかを把握するのはかなり困難だ。今回の試乗では白馬村の一般道はもちろんのこと、長野県から東京までのロングドライブも試したのだが、どの領域でも一体いつコースティングが行われていたのか、今振り返っても「?」となってしまう。つまり、かなりナチュラルに制御がなされているということだ。

制御もやや意図的に燃費に振ったようなマイルドな印象

Audi Q8 55 TFSI quattro debut package S line

しかし、コースティングへの切り替えはともかく、全体的に見てみれば、ボディに対して加速はややモノ足りないかもしれない。

これこそ、2tの巨体が影響しているのがありありと感じられるのだが、長い勾配の上り坂なんかで加速を足そうと思ったら、V6らしからぬモタつきをやや感じさせるフィールとなっていた。

今回、トランスミッションも新開発の8速ティプトロニック(そう、デュアルクラッチではなくてトルコン式AT!)が採用されているのだが、この制御もやや意図的に燃費に振ったようなマイルドな印象を受けた。

このティプトロニックはマイルドハイブリッドシステムの採用によって、エンジンがアイドル状態および停止状態でのコースティングする場合には、トランスミッションのクラッチが切り離されてパワーの伝達を遮断するという。エンジン停止でのコースティング中には新搭載の電動オイルポンプがコースティング終了時に速やかにギアが入るように動く、とのことだが、もしかしたらこれが何かしらのラグを生んでいる結果につながっているのかもしれない。

いずれにせよ、クルーズ中は320PS/500Nmというスペックよりもやや絞られたような、そんな印象を受けた。

Audi Q8 55 TFSI quattro debut package S line

22インチは「クルマは四の五の言わずに見た目第一!」な方にオススメ!

Audi Q8 55 TFSI quattro debut package S line

さて、今回の試乗ではスポーティーな装備を備えたSラインと、ノーマルモデルを乗り比べたのだが、乗り心地は断然ノーマルに分がある。

Sラインにはスポーツサスペンションに22インチホイールが採用されて、これはもう、本当にメチャクチャかっこいい。

ホイールアーチの下、タイヤハウス隙間を埋めるようにドーンと鎮座まします22インチタイヤが、足元をキュっと引き締めて、それはそれは惚れ惚れするような佇まいだ。

しかし、実際に試乗してみるとやはり、ものすごいスポーツフィール!

白馬村あたりは豪雪地帯でもあり、夏のコンクリート路面には轍も荒れも多発する。そんな中での22インチ、そりゃ〜もう盛大に色々を拾ってくれてしまうのだ。

今回、試乗車にはパッケージオプションとなるアダプティブエアサスペンションが装備されていたので、コンフォート側も試してみたのだが、これを選択するとややフワフワとした人工的な柔らかさが室内にもたらされるため、乗員の好みがハッキリ分かれそうなフィールとなった。特にリアシートはこの揺れを好まない人も多いだろうから、22インチを選択するならば、日常的に後席に乗員を(とくに揺れには敏感な子供さんを)乗せない、かつ「クルマは四の五の言わずに見た目第一!」みたいなヤンエグ層(って今言わないよね)にオススメしたい。

20インチは好印象な乗り味ながら、やはり持ち味とも言えるドヤ感はスポイルされてしまう

アウディ Q8
Audi Q8 55 TFSI quattro

20インチに乗り換えれば、この印象は一転する。

スポーティなSUV、という見た目そのままに、それなりに路面状況をドライバーや室内に伝えるものの、後席の居住性をきっちり確保し、見違えるほどコンフォートだ。実はサスペンションもノーマルでは柔らかめのモノが選択されていて、減衰自体もマイルドになっている。こちらはコーナリングもより「クワトロ」の味わいをじっくりと堪能出来て、アウディらしい室内空間が実現されていた。

しかし、何度も言うが、20インチにするとやや、ルックス的にはQ8の持ち味とも言えるドヤ感がスポイルされてしまう…悩ましい。

ごく個人的にはワタクシ、独り身であるから多分買うなら22インチを選んでしまうと思うけど、家族持ちには握りこぶしで20インチを勧めてしまうと思う。あと、用途にもよる。22インチのスタッドレスタイヤはかなり選択肢が少ない。ともすればスノータイヤになってしまう可能性もある。ガチのウインタースポーツ愛好家の方で、Q8を買う予定があるなら、スタッドレスだけはインチダウンする、というのも視野に入れる必要があると思う。これは老婆心ですが。

先進的かつスタイリッシュになったインテリア

Audi Q8 55 TFSI quattro debut package S line

インテリアは先に発売されているA8以降の、最新世代のものが備わっている。大型のディスプレイが上下2面に分割されてレイアウトされているのが最大の特徴。

これにより、見た目がかなりスタイリッシュになったと同時に、ナビゲーション関係や、先述した可変ダンパーの設定などがかなり容易に、かつ直感的にタッチディスプレイにて行えるため、操作しやすくなったのは大歓迎だ。正直、前の世代のインターフェイスは使いこなすのにかなりの鍛錬が必要だったと感じていたから。

この装備でこの世代でこの価格なら、意外にお買い得

Audi Q8 55 TFSI quattro debut package S line
Audi Q8 55 TFSI quattro debut package S line

さて、最後に、注目したいのはフラッグシップモデルとは思えない価格設定だ。

実にベースモデルである「Q8 55 TFSI quattro」で992万円!なんと驚異の1千万円切り!

盛り盛り装備の「デビューパッケージSライン」ですら1千102万円と、いや、十二分に「高級車価格」ではあるけれど、ここ数年来のアウディの嘘みたいな強気な値段設定からすると、ちょっと嬉しくなってしまうプライスタグではないですか?

実際、同社ラインナップを見渡しても、この装備でこの世代でこの価格なら、意外にお買い得な選択肢かもしれない。

Q8がとても似合うグランピング施設「Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA」

グランピング施設「Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA」
グランピング施設「Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA」 日の出を見ながらヨガ体験

実は今回、アウディジャパン様は我々報道陣に向け、素敵なおもてなしをご用意くださった。

まだ出来たばかりのグランピング施設「Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA」を体験させてくださったのだ。ついでに調子に乗って人生初のパラグライダーまでご相伴に与った(楽しかった!)。

その目眩のするような特別感に、なんとQ8がベストマッチングしたことか!

こういった休日をナチュラルに選択するような人々にとってはきっと、この価格設定はオトクな選択肢になる(はず)。せめて自力で登りつめることのできるよう努力しようと朝日に向かってヨガをしつつ、邪念だらけで誓った私であった。

グランピング施設「Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA」
グランピング施設「Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA」
グランピング施設「Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA」
グランピング施設「Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA」

[筆者:今井 優杏/撮影:小林 岳夫・Audi Japan/取材協力:Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA KITAONE KOGEN]

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