障害者の自立支えたい ALS患者の村下さん(富山)センター開設 重度訪問介護に特化

訪問介護事業所を設立し、自薦ヘルパーのサポートで暮らすALS患者の村下さん(左)=富山市内

 筋肉が徐々に動かなくなる難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の村下秀則さん(32)=富山市=が8月に重度訪問介護に特化した訪問介護事業所・自薦サポートセンター「ALSリレーション」を開設した。ヘルパーを利用者自身が選び、雇用する「自薦ヘルパー」を活用し、自身を24時間介護する体制を整え、自立に向けて同月半ばから1人暮らしも開始。事業所として自薦ヘルパーの普及を目指しており、「重い障害があっても自立して生きたいという人を支援したい」と意気込む。 (社会部・室利枝)

 村下さんは2017年8月にALSと診断された。現在、会話はできるものの、体はほとんど動かすことができず、常時介助が必要だ。ヘルパーが長時間付き添い、生活全般の援助や外出支援を行う重度訪問介護を利用し、在宅生活をしている。

 過去には複数の重度訪問介護事業所から「対応できない」と断られ、契約できた事業所でも、ヘルパーの時間が合わず希望通りの派遣を受けられないことがあったという。「自分と同じように困っている人がいるはず」。一念発起し、重度訪問介護に特化した事業所設立を目指した。

 自薦ヘルパーは、必ずしも資格や経験は必要としない。ただ、求人や採用、教育などは利用者が行わなければならない。責任やリスクが伴う半面、ライフスタイルに合った生活ができ、家族の介護負担も減らせる。「障害があっても、好きな時に好きな場所に出掛けたい。ヘルパーがいれば、それが実現できる」と言う。

 開設から1カ月たち、利用者は村下さんのほか3人。脳性まひなどいずれも重度障害者だ。ヘルパー7人のうち6人が村下さんの専属で、残る1人は他の利用者宅を訪問している。自薦ヘルパーの活用を検討している利用者もおり、今後、採用募集や事業所設立のサポートも手掛ける。

 「自立生活を目指す人に、24時間介護を実現した自分の経験を伝えたい」と、12月に講演会の開催を企画。1人暮らしを始めた一軒家を活用し、自薦ヘルパーによる介助を宿泊体験できるサービスの提供も検討している。

 最近、新たな夢ができた。障害者の立場で地域社会や制度を変えるため、いつか市議選に出たいという。7月の参院選でALS患者の舩後靖彦氏が当選したことに刺激を受けた。「病気になったからこそ、分かったことがたくさんある。後ろを向かず、前に進む」

 ■県内 利用3市のみ 重度訪問介護サービス

 県内市町村の今年3月の重度訪問介護利用状況を北日本新聞が調べたところ、利用者がいるのは富山、高岡、黒部の3市のみだった。1人当たりの平均利用時間は月22時間から633時間と大きな開きがあった。

 重度訪問介護などの障害福祉サービスは、希望する利用者の心身の状況を基に市町村が障害支援区分を認定し、必要なサービス量を決める。

 県内の重度訪問介護利用者は富山市18人、高岡市4人、黒部市1人。1人当たりの平均利用時間は富山市が月254時間、高岡市は22時間。黒部市は2015年から24時間介護を受けている男性がおり、633時間に上った。

 実施していない中には、「希望者がいない」という自治体がある一方、「現状では受けられる事業所がない」という声もあった。

 県によると、重度訪問介護の指定事業所は県内52カ所。多くは高齢者向けの訪問介護がベースで、障害者に特化した所は少ないという。小規模事業所が多くマンパワーにも限界があり、県障害福祉課は「看板は掲げていても、利用者1人に長時間かかわる重度訪問介護に対応できない所もある」とみる。

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