シトロエン C3 エアクロス SUV試乗|ブランド初のコンパクトSUVをテスト

シトロエン C3エアクロス 走り

流行りのSUV市場に現れたフレンチコンパクトSUV

グローバルでSUVが流行っている昨今、シトロエンもそこに乗り遅れるかとC5 エアクロス SUV、C3 エアクロス SUV(以下C3 エアクロス)と立て続けに発売。日本にも導入が開始された。C3 エアクロスは先行して発売された別ブランドのDS3 クロスバックに近いポジションではあるが、あちらはEV化も見据えた新型の新世代プラットフォームCMPを採用。

こちらのC3 エアクロスは旧来からあるプラットフォーム(PF1)をキャリーオーバーした。つまりハッチバックのC3をベースにSUVテイストに仕上げたのだ。従ってそれほど期待せずテストに連れ出したのだが、いやいや、このC3 エアクロス、侮れない魅力にあふれたクルマだった。

ハッチバックのC3をSUVテイストに

シトロエン C3エアクロス 外装

走り出す前に少しだけC3 エアクロスについて振り返っておこう。シトロエンのSUV第二弾としてデビューしたこのクルマに搭載されるエンジンは、1.2リッターピュアテックと呼ばれる3気筒ターボで6速ATが組み合わされる。出力は110ps/5,500rpm、最大トルクは205Nm/1,750rpmで発生。トランスミッションのギア比も含めてC3とまったく同様で、車重は約90Kg(ベーシックグレードで比較)重くなっている。

シトロエン C3エアクロス 外装

今回のテスト車は上級グレードのシャインにオプションを組み合わせたシャインパッケージで、パノラミックサンルーフ、グリップコントロール、17インチアロイホイール、マッド&スノータイヤ(テスト車にはハンコックKINERGY4S 215/50R17スノーフレークマーク付き)を装備。

このグリップコントロールはPSAグループの他車、例えばプジョー 3008などにも搭載されているもので、スノーモード、マッドモード、サンドモードなどを備え、それぞれが路面状況に応じてトラクションを最適化する機能だ。また、5%以上の勾配の下りで30Km/h以内に速度を自動コントロールするヒルディセントコントロールも装備。「重量増とコスト増になってしまう四輪駆動を持たずともトラクションコントロールを路面状況に合わせて使い分けるスマートなソリューションだ」とプジョー・シトロエン・ジャポン マーケティング部シトロエンプロジェクトマネージャーの水谷 昌弘さんは評価していた。

ボディサイズは全長4,160mm、全幅1,765mm、全高1,630mm、ホイールベースは2,605mmで、C3と比較すると全長で165mm、全幅は15mm大きくなり、全高は135mm高く、またホイールベースも70mm長くなっている。

車高の高さは見晴らしのよさ

シトロエン C3エアクロス 外装

エクステリアの様々な箇所にアクセントカラーが配されたC3 エアクロスに近づくと、コンパクトながら骨太なSUVらしいテイストが感じられる。少々ノーズが高いのが気になるものの、これは近年のシトロエンのデザインモチーフであり、それ相応の個性を放っている。

クルマに乗り込むと、その雰囲気はC3そのままだが、ヒップポイントが高いことから見晴らしの良さはC3 エアクロスに軍配が上がる。また、左右のボンネットの峰があるので、車幅もつかみやすく好印象だ。

センターパネルにあるスターターボタンを長押しすると、少しだけ身震いをしながらエンジンは目覚めた。アイドリング中は3気筒だからといってその音や振動が気になることはなく、エンジンそのものに意識が行くことはない。古いメルセデスのようにジグザグに切られたシフトパターンをDに入れ、不思議な形のサイドブレーキを解除。ゆっくりとアクセルを踏み込むと、意外にもC3 エアクロスは軽快に走り出した。

シトロエン C3エアクロス 走り

快適な乗り心地ときびきびとした走り

特に驚いたのは乗り心地の良さだ。SUVテイストに仕上げると若干車高が上がり、かつ、重量増となるためサスペンションは固めのセッティングで、妙な突き上げ感やバタつきを感じるものだが、それが全くないのだ。更にいうと、C3よりもしなやかさが増しているような印象さえある。この要因はマッド&スノータイヤによるところもあるだろうが、それ以上に、サスペンションがしなやかにショックを吸収するさまが手に取るようにわかるのだ。

確かにスピードを上げていくとタイヤの表面の硬さやバタつきを感じることもあるが、それでもこのしなやかさは変わらず、このコンパクトなボディには似合わない快適性を提供してくれる。

シトロエン C3エアクロス 外装
シトロエン C3エアクロス 内装

街中での取り回しも容易だ。高い視線を利して周囲はよく見え、また、ドアミラーはボディにマウントされているので、かなり視界もよい。かつ、Cピラーにはめ込んであるスクリーンが、意外と視界を確保してくれるので後方左右の見晴らしも良いといえる。

シトロエン C3エアクロス エンジン

パワー等を数値だけで見るとあまり走らないようなイメージも抱きかねないが、決してそういうことはない。今回のテスト中一度として“非力”という言葉は浮かばなかった。確かに3000回転を超えると3気筒らしいエンジン音が室内に侵入してくるが、それはこのセグメントであればどのクルマであっても同じこと。それよりもいかにストレスなく回転が上がり、かつ思い通りの加速が得られるかのほうが重要だ。その点においてもこのC3 エアクロスは期待に応え、6速ATは積極的にシフトダウンし加速を手助けする。

パワートレインは一昔前のものなので渋滞時のストップ&ゴーの時などは若干ぎくしゃく感は否めないことは事実で、こつんというショックも感じる。しかし、そういったシチュエーションを除けば、まだまだこのチョイスは捨てがたいものだ。

C3の良いところはすべて受け継ぐ

少し背を高くしたハッチバックベースのSUVは比較的高速が苦手なクルマが多い。空気抵抗が大きくなり、かつボディが重いので俊敏に走れなくなるからだ。また、このC3 エアクロスはC3と同じパワートレインがそのまま搭載されているので、なおさらそういった想像をさせてしまう。しかし、実際に高速に乗り入れてみると、その印象は良い方に裏切られた。それも大きく。

C3 エアクロスを高速に乗り入れて最初に感じたのはC3のヒップポイントを上げたクルマだということだ。それは当たり前のことなのだが、非常に安定した高速安定性と、直進性の高さ、そしてしなやかな乗り心地というC3の良いところがすべて受け継がれており、これはまさに特筆に値する。

シトロエン C3エアクロス 内装
シトロエン C3エアクロス 内装
シトロエン C3エアクロス 内装

更に良く出来たシートがこの印象をさらに向上させる。何の変哲もないシートなのだが、きちんとホールドすべきところはホールドするなどきちんとツボを押さえたものなので、東京から京都程度なら疲労なく一気に走りきることが可能だろう。

シトロエン C3エアクロス 外装

安全運転支援システムがネック

ここまで読むと、不満のない良く出来たクルマという印象なのだが、安全運転支援システムという面のみは時代遅れと言わざるを得ない。前車追従のないクルーズコントロールやレーンキープも警告音のみ、被害軽減ブレーキは5~140Km/hで作動するが完全停止までは対応していない。

シトロエン C3エアクロス ドアミラー

この点は古いプラットフォームを使っていることから致し方ないこと。確かにいざという時の備えとして安全運転支援システムの充実は重要な要素だ。しかし、そこに気を取られすぎて、クルマの基本性能を忘れてしまってはいけない。レーンキープアシストは直進安定性が高ければ警告音だけで十分だし、単なるクルーズコントロールであっても空いた高速であれば十分活躍してくれる。前方のクルマに追いつけば、自らステアリングを操作して追い越し車線に出てそのまま追い越し、そして走行車線に戻ればいいだけなのだ。もし渋滞していたとすれば、致し方ない。自分でアクセルとブレーキ、ステアリングを操作しよう。本来クルマとはそうやって走らせるものなのだ。もし安全運転支援システムが充実することで、C3 エアクロスの直進安定性や快適性が失われるのであれば、個人的には拒否したい。そのくらい素晴らしく良く出来ているのだ。

ただし、左側のドアミラーに小さなミラーが付き、左下方部を映し出しているのだが、ドアミラーの中にあるため少々視界の邪魔になってしまっている。これは一考をお願いしたい。

あまりよくない燃費

最後に燃費を報告しておこう。今回2,300Kmほど走らせた結果、

市街地:7.7km/L(11.6km/L)

郊外:12.1km/L(15.0km/L)

高速:14.7km/L(16.4km/L)

()内はWLTCモード

という結果であった。いずれもWLTCモードよりも下回っているのはお盆休みの渋滞にあったことや、郊外路であれば比較的アップダウンのある道が多かったためと思われる。

ただし、WLTCモードであったとしてもあまり褒められた数値ではないことは確かだ。また、回せば回しただけ如実に燃費は低下する、ある意味素直なエンジンなので、高速でおとなしくおとなしく燃費を気にして走らせると20km/L程度にまでもっていくことは可能であったが、かなりストレスのかかる“作業”であることは申し添えておこう。

いずれにせよ、燃費と安全運転支援システムに関しては古いプラットフォームが最大のネックといえる。

乗れば乗るほど味が出るC3 エアクロス

シトロエン C3エアクロス 外装

さて、ジャーナリスティックにC3 エアクロスを評価すると、決して褒められるクルマではない。それは安全運転支援システムの貧弱さと燃費の悪さが要因だ。しかし、一人のクルマ好きという立場では、このC3 エアクロスの評価は高い。古いプラットフォームながらクルマの基本性能、走る、曲がる、停まるを高次元でバランスを取り、かつ、高速での移動も上級セグメント顔負けの快適性を誇っているからだ。惜しむらくは車高が若干高いため古い立体駐車場に入らない場合があることだが、それと引き換えに、高いヒップポイントによる視界の良さがあるので、そこはあきらめよう。

もし、長距離はよく走るがボディはそれほど大きくないほうがいいと考えており、かつ、安全運転支援システムよりも、快適性や高速の安定性などを重視するのであれば、一度試乗してみることを、しかも短距離ではなく、長距離をお勧めしたい。そうすれば、“するめ”のようにこのクルマの良さがじわじわと伝わってくるからだ。

[筆者:内田俊一/写真:内田俊一]

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