「いきなり!ステーキ」がいきなりオイスターに手を出したワケ

「牛肉は昔から人間のDNAの中にしっかり入っている。貝塚があるように、オイスターを食べたいというDNAもある」――。ステーキチェーンの「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長は、力強く語りました。

同社は、一部店舗で始めたオイスターメニューの販売店舗を拡大。厚切りステーキを武器に爆発的な勢いで成長してきた同チェーンが、なぜカキに手を出すことになったのでしょうか。その狙いを決算説明会の内容から探ります。


社長がアメリカで見た光景

いきなり!ステーキが5月16日から銀座6丁目店、新橋日比谷店、虎ノ門店の3店舗で販売を始めたのは、「生牡蠣」と「焼き牡蠣」。富山湾の海洋深層水をくみ上げ、洗浄・浄化しているというオイスターです。価格は1個450円、4個盛1,290円、6個盛2,520円(いずれも税別)となっています。

6月には、追加で4店舗での販売を発表。さらに8月には「オイスターバー+ステーキ赤坂 By いきなり!ステーキ」という新業態をオープンさせています。

いきなり!ステーキといえば、ぶ厚いステーキを立ち食い形式で提供するのが売りでしたが、なぜカキをメニューに追加することになったのでしょうか。8月29日に開催された2019年1〜6月期の決算説明会で、一瀬社長がアメリカのステーキレストランを見て、インスピレーションを受けた時のことを語りました。

「アメリカに何度も行くと、ステーキレストランでオイスターをやっているところが多い。オイスターバーも多いが、ステーキをやってる店はない。日本のオイスターバーも同様。であれば、いきなり!ステーキにオイスターを試しに置いてみる価値はある」

ワインと一緒に楽しむオイスターを販売することで、客単価の上昇と来店動機にもつなげたい考えです。

大幅減益の厳しい決算内容

ペッパーフードサービスの2019年度上半期の売上高は351億円(前年同期比25.6%増)、本業の儲けを示す営業利益4億円(同73.0%減)と、2ケタ増収したものの大幅な減益。期初に出した計画値に比べると、売上高は83.3%、営業利益は21.6%と、未達に終わりました。

「いきなり!ステーキ」事業のセグメント売上高は同28.6%増の302億円、セグメント利益は同26.6減の16.8億円となっています。客単価は2月を除く5ヵ月が前年同月の90%台後半と健闘したものの、客数が同70~80%台と大幅減となった結果、既存店売上高は前年同期比21.4%も減少しました。

同チェーンは、2013年に開店した銀座の1号店を皮切りに店舗数の拡大を続け、現在の店舗数は路面店342店、ショッピングセンター店130店の計472店(2019年6月末時点)。この半年間では、海外を含め82店を新規出店しています。こうした出店攻勢が売り上げ増加に寄与しましたが、2019年下半期は出店を減速させ、既存店のテコ入れを図る方針です。

「とてつもない数字であることはわかっていましたが、昨年は200店舗と公言して202店舗の出店を果たすことができました。しかしながら、本年を迎えて、店舗の拡大よりも1店舗1店舗のお客様数、売上高、利益にこだわると結果から判断しまして、途中で方針を変えたわけです」(一瀬社長)

既存店がここまで落ち込んだ事情

一瀬社長によると、昨年は店舗数の増加にコミットし、多少無理があっても売り上げに勢いがあったため、出店を継続。ロードサイド店舗を中心に拡大しましたが、一部店舗で自社同士の競合が発生しました。その反省を踏まえて「店舗間の距離を十分にとって、カニバリゼーションが起きないようにしたい」としています。

自社内で競合していたロードサイドの一部店舗は、ペッパーランチへの業態転換を進めています。いきなり!ステーキで扱っているヒレ・リブロースなどの高単価な商品を、ペッパーランチのメニューに追加する予定です。

いきなり!ステーキのロードサイド店舗では、子供連れの家族客も訪れますが、メニューやサービス面で課題が残ります。これまでに50店舗近くをローテーブル・ローチェアーに切り替え、「プラスメニュー」として子供向けのメニューを提供。しかし、客数増加にはつながらず、反省も多いという一瀬社長。「親子連れで来たら受けられる割引もやってみたい」と語ります。

他にも、肉を焼く技術が満足のいく基準に達していないなど、問題は山積み。急速な店舗拡大のシワ寄せが及んできた、いきなり!ステーキ。オイスターなどの新たな武器で、以前のような勢いを取り戻せるのでしょうか。

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