佐々木朗希は「江川卓」奥川恭伸は「松坂大輔」 名将・渡辺元智氏が語る2人の剛腕

侍U18でW杯に臨む大船渡・佐々木朗希(左)、星稜・奥川恭伸【写真:荒川祐史】

「佐々木くんはどれも一級品」「奥川くんは低めにコントロールができる」

 30日に韓国・機帳(きじゃん)で開幕した「第29回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」(全試合テレビ朝日系列・BS朝日・AbemaTVで放送)。この大会で悲願の世界一を狙うのが、野球日本代表「侍ジャパン」高校代表だ。これまでの最高成績は準優勝。初めての世界の頂点に向けて韓国の地で熱い戦いを繰り広げ、スーパーラウンド進出を決めた。

 この侍ジャパン高校代表で最も注目を集める存在が、佐々木朗希投手と奥川恭伸投手の両投手。2004年にワールドカップの前身となる「AAA世界野球選手権大会」の高校日本代表を監督として率いた元横浜高校監督の渡辺元智氏も、この2人の能力を「10年、20年に1人の投手」と絶賛する。今大会、試合を中継するテレビ朝日の解説も務める渡辺氏がFull-Countのインタビューに応じて、2人の逸材について語った。

 1998年、松坂大輔投手(現中日)を擁して甲子園春夏連続優勝も果たしている渡辺氏。そんな名伯楽の目にも、2人の投手は逸材だと映っていた。「奥川くんは実際に甲子園でも見ましたし、佐々木くんも(春の)合宿で見ましたし、壮行試合でも見ました。2人ともそう簡単に打てるピッチャーではないです」と語り、それぞれの特徴について印象を口にした。

 佐々木は最速163キロ、そして奥川は最速154キロと類い稀なる才能を見せる。その中で渡辺氏が感じる、それぞれの良さとはどこにあるのか。

 まず、甲子園で準優勝した奥川だ。「奥川くんは低めにコントロールができるところです。投手の生命線はアウトコース低めにストレートをコントロールできるかどうか。ストライクを取れるコントロールがあっても、高校生といえどコーナーに決める、ストライクを取れるピッチャーというのはそうはいない。奥川くんはそれを持っています」。奥川の最大の武器はコーナーに投げ分ける制球力。154キロを誇るストレート以上に、渡辺氏はそのコントロールを高く評価した。

 その一方で、佐々木はどうか。「佐々木くんはどれを見ても一級品です。たとえ間違ってストレートが真ん中にいっても、そう簡単には打てません。そういう強みがあります。10年、20年に1人の投手ですから、この2人の選手がベストコンディションでいったならば、そんなに打たれるとは思いません」。世界一を目指す今回のワールドカップ。やはり世界一の鍵を握るのは、この2本柱だという。

「佐々木くんは江川卓を彷彿とさせる。ストレートがマウンドとホームの真ん中くらいからグーンと浮き上がってくる」

 渡辺氏は1998年に松坂大輔を擁し、甲子園で春夏連覇を果たした。“平成の怪物“と呼ばれた松坂と、佐々木と奥川。高校当時を比較し、そのポテンシャルの高さに太鼓判を押す。

「どちらかというと奥川投手は松坂に似ている感じがしますね。田中マー君とかね。松坂も実はコントロールに秀でていました。特にストレートとスライダー。奥川くんも高速スライダーを外角に放れますし、松坂もストレートを外角低めに投げて、それと同時に高速スライダーをストレートと同じようにアウトコースに決められます。そのあたりは非常に似ています。奥川投手はアウトロー、低めへの絶妙なコントロールがある。そこはどちらかというと松坂に近いと思います」。150キロを超える真っ直ぐと高速スライダー、そしてそれを操るコントロール。奥川は松坂に近いと指摘した。

 では、佐々木が彷彿とさせるのは誰か。渡辺氏は意外な人物の名前を挙げた。「私が(昭和)48年に選抜で優勝した時、作新学院に江川卓という“昭和の怪物”がいました。その江川さんを彷彿とさせる。ストレートがマウンドとホームの真ん中くらいからグーンと浮き上がってくるんです。それが目線に近づいてくるので、みんなそれを振ってしまうのです。佐々木投手もストレートがそういう感じで来るんです」。江川卓のストレート。渡辺氏は“令和の怪物“と称される佐々木の姿に“昭和の怪物“を重ね合わせた。

「僕らは、ずっと打倒江川で取り組んできましたけど、なかなか打てませんでした。分かっていても手を出してしまう。その当時を思い出しました。やっぱり凄いピッチャーだな、と。現段階ではほとんどの高校生がボール球にも手を出してしまうくらい、高めに威力があります。こういう投手はなかなかお目にかかれないですね」。1973年、江川卓を見たときの衝撃と同じだけのインパクトが佐々木にはあったという。

「佐々木投手、奥川投手は非常に楽しみです。彼らが将来、日本のプロ野球を背負う大投手になることは間違いないでしょう」と語った渡辺氏。横浜高から松坂大輔や成瀬善久、涌井秀章ら好投手を育て上げた名伯楽は、佐々木と奥川に歴史に名を残した大投手と遜色ない才能を見出していた。

 オープニングラウンドでは登板はなく、スーパーラウンドに向けて調整を進めてきた佐々木と奥川。ともにブルペンでの投球練習を再開し、スーパーラウンドでの復活が見えてきた。渡辺氏も絶賛する2人の逸材。初の世界一を目指す侍ジャパン高校代表の2本柱のここからのピッチングに注目だ。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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