<レスリング>【特集】東京オリンピック出場枠獲得にかける(15)…男子グレコローマン60kg級・文田健一郎(ミキハウス)

(文=布施鋼治)

文田健一郎(ミキハウス)

 「代表権は必ず持ち帰る」-。2年ぶりに世界選手権に出場する男子グレコローマン60㎏級の文田健一郎(ミキハウス)は力強く宣言した。「去年出ていない分、挑戦者の立場というか、もう一度スタートからしっかり闘っていきたい」

 文田は初出場となった一昨年の同選手権で、日本の男子選手としては34年ぶりに優勝を遂げ、その存在を大いにアピールした。しかし、昨年5月に左膝内側の靱帯を痛め、出場予定だった翌月の全日本選抜選手権を棄権。3ヶ月近くマットを離れた。

 「治療は電気を通すなどのリハビリがメーンだったけど、こんなに長くレスリングから離れたのは初めて。不安しかなかったですね」

 結局、10月の世界選手権は前年度の全日本選手権決勝で文田を撃破した“ライバル”太田忍(ALSOK)が出場したが、太田は2回戦で敗れてしまう。試合結果を聞いた時、文田は信じられない気持ちでいっぱいになった。「世界はそんなに甘くないと、あらためて思いました」

ライバルを破り、2年ぶりの世界選手権出場を決めた文田健一郎(ミキハウス)=撮影・矢吹建夫

 けがをしている間、レスリングに対する価値観は大きく変わった。「自分にはレスリングしかないということが、本当に分かりました。自分が輝ける舞台はマットの上だけ。僕からレスリングを引いたら何も残らない(苦笑)」

 その後、11月のU23世界選手権で復帰して優勝。再び上昇気流に乗り、12月の全日本選手権と今年6月の全日本選抜選手権で太田を連破。世界選手権出場の切符を自力でもぎとった。この階級は「世界より日本を制する方が難しい」という声もある。文田も「本当にそう言われてもおかしくないほど、忍先輩は強い」とうなずく。

 「もしかしたら、国内で勝ち抜く方が難しいかもしれない。ただ、世界選手権は時差があったり、異なる気候の中で減量して試合を臨んだりしないといけない。そういうことを含めたら、海外の方が大変かも」

アジア選手権敗北の失敗は繰り返さない

 今大会は、昨年の世界選手権で優勝しているセルゲイ・エメリン(ロシア)をマークしている。「すごくローリングがうまい選手で、(別の大会で)忍先輩もやられている。僕は闘ったことがないけど、アジア選手権で得た課題をセルゲイにぶつけたい」

リ・セウン(北朝鮮)のグラウンド攻撃に屈した4月のアジア選手権=撮影・保高幸子

 今年4月のアジア選手権では2回戦でリ・セウン(北朝鮮)と激突。最初にパッシブをとられグラウンドの守りに。そこからローリングを狙われた際、その動きに合わせ相手の上に乗ろうとしたが、失敗し逆に2回も回されてしまった。3-5でまさかの敗北。文田は、もう二度と同じ失敗はしたくないと誓う。

 「切らずに安易に乗ろうとする考えをしてしまった。きちんと切って、0-1の状況からスタンドで点を取りにいけば、また展開も違っていたと思う」

 文田は2015年に米国・ラスベガスで行なわれた世界選手権にも足を運んでいるので、オリンピック前年度の同選手権の張りつめた空気がどれほどのものであるか察しがつく。「あの時は、日本勢が全然勝てなくて…。これがオリンピック前の世界選手権かと思いました。でも、今回は楽しみで仕方がない」

 東京オリンピックは確実に近づいている。


2019年世界選手権=東京オリンピック第1次予選(9月14~22日、カザフスタン・ヌルスルタン)

男子グレコローマン60kg級代表・
 1995年12月18日生まれ、23歳。山梨県出身。山梨・韮崎工高~日体大卒。168cm。2011~13年に全国高校生グレコローマン選手権と国体グレコローマンで3連覇。2014年に世界ジュニア選手権60kg級に出場。2015年に全日本学生選手権と国体を制して台頭。2016年に全日本選手権初優勝。2017年はアジア選手権で優勝し、世界選手権を制した。2018年はU23世界選手権で優勝。2019年アジア選手権は3位。

略歴(詳細) JWFデータベース UWWデータベース 国際大会成績

男子グレコローマン60kg級・展望=制作中 / 5位以内がオリンピック出場枠獲得、3位以内は協会規定により日本代表に内定

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