関西人はストライカー向き? 育成関係者が証言する日本代表を多数輩出する“3つの理由”

環境、指導者、文化。この3つが揃ったとき、サッカーの育成はうまくいくのかもしれない。これまで数々の日本を代表するアタッカーを生み出し、「攻撃に関西出身の選手が入ると、アクセントになる」と言われる“関西の育成”について、関係者の証言をもとにそのルーツを追う。

(文=鈴木智之、写真=Getty Images)

なぜ良いアタッカーは関西から生まれるのか?

本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、乾貴士、宇佐美貴史、南野拓実、堂安律……。FIFAワールドカップ2018メンバーや森保ジャパンのアタッカーの顔ぶれを見ると、あることに気がつく。関西出身者がずらりと顔を並べているのだ。そこで、一つの説を唱えたい。それが「関西人、サッカー向いている説」だ。

近年、育成年代の取材を続けていると、「攻撃に関西出身の選手が入ると、アクセントになる」という指導者の声を聞くことがあった。

なぜ関西出身のアタッカーに良い選手が多いのだろうか?

大阪で30年にわたり、公益財団法人日本中学校体育連盟やトレセン、クラブチームなど、あらゆるカテゴリーで指導を続け、大阪の中体連委員長を務める小谷泰氏(FC.Liens)は「いくつか理由はあると思います」と前置きし、柔らかな関西弁で言う。

「これは大阪だけかもしれませんが、日常生活に駆け引きがあるんです。買い物に行くと、値段が書いてあるにもかかわらず、『これ、ナンボになんの?』という声掛けから始まります。サッカーも駆け引きが大事なスポーツですよね。常に、『相手は何を考えているんやろう』『こう言うたら、こう言い返そう』と考えているのが大阪人なので、そこはサッカーに通じる部分かもしれません」

相手の裏を取る、逆を突く、空気を読んで対応を変える。どれもサッカーに必要な要素である。日常からそのような環境に置かれることで、無意識のうちに身につけていくのかもしれない。小谷氏は続ける。

「指導者のキャラクターもかなり影響しているでしょうね。関西の指導者は変わっているというか、こだわりを持つおっちゃんが多いんです。人と違うことをしようとする指導者を排除せず、相手を認めつつも、試合になると、『この相手にどうやったら勝てるんやろう?』と考えるんですよね。それでいて閉鎖的ではないので、みんな仲が良いですし」

先日、大阪の高校が主催したフェスティバルを取材したが、静岡のベテラン指導者が「県内のライバル同士が一緒にフェスティバルを開催するなんて、静岡では考えられない」と大阪の風通しの良さに驚いていた。

みんなで育成しようという風土

「みんなで選手を育成しようという風土がありますね」とは、大阪府茨木市を拠点にジュニアとジュニアユースのクラブを持つ、NPO法人スポーツネットワーク大阪・レオSCの安楽竜二監督だ。ちなみにこのNPOは大阪府内に4つのクラブチームを持ち、クラブ同士は仲間でもあり、試合で対戦するライバルにもなるという不思議な関係だ。

「リーグ戦でうちが負けた相手が全国に出たら、素直に頑張ってほしいと思います。変なライバル関係みたいなのは、僕の周りではないですね。仲良くやろう、みんなで育成しようという風土はあると思います」(安楽氏)

サッカー選手に必要なのは個性とイマジネーション。そしてチームスポーツを成り立たせるためのコミュニケーションだ。小谷氏は言う。

「僕は中学校の教師をしていますが、大阪には、目立ってやろう、おもしろいことを言ってやろうと常に思っている子が多いんです。出る杭が打たれることはなく、おもしろいことを言ったり、目立つやつはすごいと一目置かれます。『おまえ、おもろいやんけ』の精神で、自己主張をするのに、抵抗のない子が多い気がします」

これは、非常にアタッカー的なメンタリティだ。多くの日本人は、みんなの前で何かをするのは恥ずかしい。例えば、講習会やイベントなどの質問コーナーで、「誰か質問がある人?」と聞くと、他の都道府県では最初は「誰が手を上げるかな」と顔色をうかがうケースが多いが、大阪では最初から活発に手が上がり、持論を展開する人も少なくない。

「僕は地区トレセンと大阪府トレセンで25年ほどチーフコーチをしていたのですが、インストラクターの中には『大阪はやりにくい』とこぼす人もいましたね。インストラクターなので、JFA(日本サッカー協会)に倣って指導のアドバイスをしますよね。他の都道府県であればそのまま進んでいくところを、大阪や関西の指導者は『俺はこう思うんやけど』『こうなったらどうするん?』とか、いちいち言ってくるんですよ(笑)。相手の言うことを鵜呑みにしないというか、まず自分の考えがあるんですよね。それも大阪、関西の特徴なのかもしれません」(小谷氏)

日本最大級の施設の恩恵

ここまで関西、とくに大阪人の気質から「サッカーに向いている説」を述べてきたが、環境の充実も見逃せない。言わずとしれた、J-GREEN堺こと堺市立サッカー・ナショナルトレーニングセンターの誕生である。2010年にオープンしたJ-GREEN堺は天然芝ピッチ5面、人工芝ピッチ11面、フットサルコート8面に、宿泊施設も備えた、日本最大級のサッカー施設だ。

ジュニアから大人まで、男女さまざまなカテゴリーの選手が一同に介し、常にどこかのグラウンドで練習や試合が行われている。J-GREEN堺は大阪府の堺市にあり、兵庫、京都、奈良、滋賀、和歌山などからアクセスしやすい。多くの大会が開催され、全国からJ-GREEN堺にチームが集まってくる。大阪のチームからすると、外に出向かなくても強豪チームが来てくれるので、効率的に試合ができる。

練習に使えるグラウンドが豊富にあるのも、大きなメリットだ。近年、多くのプロを輩出している大阪の興國高校は学校のグラウンドが小さいため、練習の大半をJ-GREEN堺で行っている。J-GREEN堺がなければ200人を越える部員を抱えることも、充実したトレーニング環境を構築することも難しかっただろう。興國高校の内野智章監督は言う。

「J-GREEN堺ができたことで、小中高の公式戦のほとんどが人工芝になりました。土のグラウンドは天候の影響を受けやすく、イレギュラーバウンドもあるので、ゴール前にボールを放り込んで点を取る作戦が有効だったのですが、J-GREENができてから、しっかりとコンセプトを身につけてボールポゼッションをするチームが結果を出すようになりました。関西のサッカーの質は間違いなく向上したと思います」

「J-GREEN堺の誕生が、関西サッカー界に与えた影響は計り知れない」。取材を進める中で、何人もの指導者から聞かれた言葉だ。

環境、指導者、文化。この3つが揃う関西から良い選手が次々に出てくるのは、必然なのかもしれない。果たして、これからどんな関西出身のアタッカーが出てくるのか。興味は尽きない。

<了>

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