必要な場所に適切な支援を届けるために〜被災地取材で見えてきたメディアの課題

広島、岡山、鳥取、京都、兵庫など14府県で260人以上もの犠牲者を出した西日本豪雨災害。各地の取材を重ねる中で、幸いにも死者が出なかったことで、メディアに報道されず、ボランティアや物資の支援が届かなかったという話を、何箇所かで耳にした。広島市安佐北区、特産品狩留家ナスの栽培地、狩留家地区もそんな地域の一つだ。

自力でボランティアセンターを開設

取材に訪れたのは「狩留家集会所」。
狩留家地区社会福祉協議会の事務所も兼ねる。1974年に建築された約400平方メートルの鉄骨平屋の建物だ。
今回の取材の窓口となってくれたのは、狩留家地区社会福祉協議会会長の黒川章男さんだ。

黒川さんは、西日本豪雨直後の7月7日にボランティアセンター立ち上げの必要を感じて準備を始めた。右も左も分からないまま進めていたが、知り合いの紹介で防災士がその日のうちに黒川さんの元に駆けつけて、室内のレイアウトやボランティアセンターに必要なグッズ、ボランティアセンターの運営方法などを指導してくれた。
おかげで翌8日にはボランティアセンターを立ち上げることができたのだという。

その後、安佐北区災害ボランティアセンターが立ち上がるまで、応援物資やボランティアはその防災士や黒川さんの個人的繋がりを頼りに募ったり、手配をした。

メディア露出量の差が支援の差となる現実

集会所に貼ってある手作りの被災マップと黒川さん。

狩留家地区では、今回の災害で橋の流出7件、建物の全壊6軒、半壊3軒、床上浸水10軒、床下浸水多数があったが、それらの被災状況がメディアで報道されることはほとんどなかった。そのため、狩留家地区が被災していることを知る人は少なく、県内外から駆けつけたボランティアたちが、狩留家地区に自ら訪れてくることはほとんどなかったという。

ボランティア支援の量や、その配分がメディアの露出量に影響されてしまうのは、我々がその判断材料をメディアに頼っている限り、仕方がないことだ。
災害時の情報収集源としてSNSも期待もされるが、利用できるのが比較的若い世代に限られることや、情報の信憑生といった問題もある。

人はインパクトのある画像や悲しいストーリーに注目しがちだ。だからこそ、報道する側は使命感を持ってその内容を精査し提供すべきであり、一部の被災地だけを過剰に取り上げることによって生じる報道格差を解消していくことは、報道する側として最低限の責任といえるだろう。

どこに逃げる?適切な避難所は今もなく

浸水した狩留家集会所玄関(画像提供:狩留家地区社会福祉協議会)

今回、ボランティセンターを開設した狩留家集会所は場所的な問題も抱えている。
この狩留家集会所のすぐそばには三篠(みささ)川の支流湯坂川が流れている。市の洪水ハザードマップによると、洪水時には2~5メートル未満の浸水が予想され、土石流危険渓流にも入っているという。

画像提供:狩留家地区社会福祉協議会

今回はたまたま狩留家集会所の建物は難を逃れたが、万が一建物が流されていたら…という懸念はぬぐえない。実際、狩留家集会所付近では三篠川の氾濫は無かったが、湯坂川が氾濫したため周辺は浸水した。

実は狩留家集会所は以前、災害時の避難所として指定されていた。(※2016年に取り消されている)黒川さんは、「狩留家集会所は、洪水、土砂災害、地震発生時の避難所として適さない」と2016年に移転新築を市に求めていた。しかしその訴えは叶わないまま、7月6日、豪雨災害が起きた。

市からは、こういう状況におかれている場所(避難所に適した建物が近隣にない地域)は他にもいっぱいあるからすぐには対応できないといわれているという。
「災害が起きたときは自宅の2階に避難してください、っていうんよね。でもその後はどうしたらいいのか、ということよね」

今後も狩留家集会所の移転新築予定はない。
それでも黒川さんは「声をあげ続けることが大切」と、諦めずに交渉を続けるつもりだ。こうした声を丹念に拾い集めていくこともメディアの役割だろう。

「男の料理サロン“わっはっは”」の皆さんが作った特産品狩留家ナスをふんだんに使った料理。

取材に訪れた日、集会所では「男の料理サロン“わっはっは”」が開催されていた。月に1回集まっては地元で採れた食材を使ってみんなで料理を作るのだという。メンバーは災害直後はボランティアセンターで炊き出しもしたというが、狩留家地区では普段からこうした様々な活動によって高い地域力を誇っていたことが、今回の豪雨災害では幸いした。

質の高いコミュニティを持つ黒川さんたちに、外部からの支援が乏しかったことに対する悲壮感はない。しかし、全ての地域がこうしたコミュニティを形成しているわけではない。そうした場合に、必要な場所に、適切な支援を分配・提供していくためにメディアが果たす力は少なくない。

 

いまできること取材班
写真・文 イソナガアキコ

© 一般社団法人助けあいジャパン