障害を持つ子の親が抱える悩み「親なきあと」の備え方

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「親なきあと」という言葉をご存知でしょうか?

自分たち夫婦が亡くなったあと、障害をもつ我が子はどうなるのか――。障害を持つ子を抱える親にとって、永遠のテーマです。

少しでも不安を解消するためには、何から手をつけたらいいのでしょうか。


「親なきあと」問題とは?

「子供のことが心配なんです!!」

公民館で開催した相続の無料相談会にいらした50代の女性、金井あさこさん(仮名)はせきを切ったように切り出しました。あさこさんには、ご主人と知的障害を持ったお子さん(ハナちゃん・21歳)が一人います。ハナちゃんには判断能力がありません。生まれてから今まで、あさこさんとご主人は一日のほとんどの時間、ハナちゃんのそばを離れず生活してきたそうです。

ところが、「何がご心配ですか?」とたずねても、すぐには言葉が出てきません。やっと出てきた言葉は、「私と主人が亡くなったあと、この子はどうなるんでしょう……」。毎日漠然とした不安を抱え、気が休まる日はなかったといいます。

障害を持つお子さんの親御さんが抱える永遠のテーマ、俗にいう「親なきあと」問題です。この親なきあとの「なき」が、なぜ“亡き”という漢字を使わず“なき”と、ひらがなを使うのかをご存知ですか?

実際に親が亡くならなくても、高齢で体力的にしんどい、入院した、認知症になったなど、子供の面倒を見られなくなるケースをすべて含んだ言葉だからです。

親なきあとに備えて、今からできること

親なきあとが不安だというものの、「なにから手をつけたらいいのかわからない」と言うあさこさん。話を聞いてみると、夫婦がハナちゃんを連れて外出することはあまりないようでした。どちらかが出かけるときは、もう一方が家でハナちゃんの面倒を見ているそうです。

しかし、ご両親が面倒を見られなくなった時の心配をされているのなら、最初に始めることは、地域の人たちにハナちゃんを知ってもらうこと。つまり、地域とのつながりを持っておくことが大切です。

親同士の集まりや近隣とのお付き合い、地域の民生委員とのつながりはもちろんですが、学校や施設に通うとき、同じ道を同じ時間に通ることによって、道沿いの人は夫婦とハナちゃんの顔を知ってくれるでしょう。軽く会釈したら、あいさつを返してくれるかもしれません。また、よく行くお店やスーパーにもハナちゃんと一緒に行って店員さんたちにも知ってもらいましょう。将来ハナちゃんがひとりで外出することになった時、町やお店で困ったことがあったら顔見知りの人が声をかけてくれるかもしれません。なにかあれば助けを呼んでくれるかもしれません。

地域の人たちと触れ合うことにハナちゃんに慣れてもらう。親である、あさこさんとご主人が元気なうちに、その環境をつくる必要があります。地域の人たちとの関係こそが、いざというときに力になってくれるのです。

障害を持つ子を抱えた時、遺言書の作成が必要になる理由

そして、親なきあとを考えるなら、夫婦お互いに遺言書の作成は必須です。

例えばご主人が先に亡くなってしまった場合、相続人になるのはあさこさんとハナちゃんです。この時、遺言書がなければ、あさこさんとハナちゃんで遺産分割協議をしなければなりません。けれど、ハナちゃんには判断能力がありませんので、遺産分割協議ができないということになります。

では、どうなるのか。

家庭裁判所に成年後見人選任の申し立てをして、ハナちゃんに後見人をつけてもらい、その後見人とあさこさんで遺産分割協議をすることになります。ご主人の財産を、あさこさんとハナちゃんで2分の1ずつ相続することになります。

「2分の1ずつ相続できたら良いのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、ハナちゃんが相続した財産は、家庭裁判所の許可がないと原則引き出しができません。家庭裁判所の管理下に置かれるということです。

また、一度法定後見人を選任すると、遺産分割が終わったからといって解任することはできません。特別な理由がない限り、ハナちゃんには一生、後見人がつき、お金の管理は後見人が行うことになります。そのため、母親のあさこさんは、ハナちゃんの財産を管理することができなくなるのです。

法定後見人は、弁護士、司法書士、行政書士等の専門家が就任することが多く、仕事として請け負うので報酬が発生します。つまり、ハナちゃんが生きている間、払い続けることになります。

もし遺言書が残されており、「全財産を、妻あさこに相続させる」という内容だったなら、遺産分割協議をせずにあさこさんに全財産を相続させることができるのです。もちろん、ハナちゃんに後見人をつける必要もありません。

ご夫婦ともに、万が一の時に備えて遺言書を書くことが大切です。30代、40代でも書くのに早過ぎるということはありません。ご家族の状況に応じて遺言書の内容も異なってきますので、作成の際は専門家に相談することをおすすめします。

子供のことを心配するあまり、親御さん自身の老後や相続の準備がされないまま、親なきあとを迎えてしまうことだけは避けていただきたいと切に思います。

内にこもらず外に目を向けて

いま、障害を持つ子供の親や兄弟など親族の立場で、同じ不安をもった方々への情報提供や個別相談等を行っている団体があります。団体のメンバーは、法律、金融、住まい等のプロの集まりで、残された我が子が笑顔で暮らしていける、そんな社会を目指して活動しています。

外に目を向けることで、いろんな情報を得ることができます。さまざまな選択肢の中から状況に応じて、その時に適した制度等を使い分けていただければと思います。

<文:税理士 藤原由親>