島キクジロウ&NO NUKES RIGHTS「憲法で踊れ、漆黒の闇が明けるまで」

ニュー・ウェイヴ育ちなりのアプローチ

──まず、2人の出会いは?

島:大学のサークルで一緒だったんですよ。

亜子:サークルの同級生。大学1年の春に出会いました。

島:宙也もいた。宙也は当時からバッキバキに髪の毛立てて。東京の奴って髪の毛立ててるんだーって思った(笑)。俺なんかパンチパーマだったもんね。

──宙也さんも復活後のアレルギーの「Eos〜暁の女神」という曲の中で“九条を守れ”って歌詞を唄っています。

島:そうかぁ! 彼も凄い意識してるからね。考えてる。

──前作『ROCK'N'LAWYER宣言』では、宙也さんはゲストで参加してましたね。

島:うん、1曲、ツイン・ボーカルで唄ってもらったけど、最高だった。

──大学のサークル、凄いメンバーで楽しかったんだろうなー。

島:ホントに強烈なキャラクターが集まっとって、とんでもなかった。

亜子:でもキクちゃんとは一緒にバンドやってないしね。当時のバンドで対バンしたこともなかった(笑)。

島:1、2回はあるでしょう(笑)。

亜子:あったかな? っていう程度(笑)。

──その後、the JUMPS、ZELDAと各々活動していくわけですが、対バンしたりは? 『アトミック・カフェ』には2バンドとも出てましたよね。

島:一緒に出たってことはないんだよね。ZELDAのライブは見てたけどね。会ったら挨拶はするし(笑)。

亜子:仲悪かったわけじゃないし(笑)。

──じゃ、今一緒にやっているのは、どんな感じの流れで?

島:俺が42歳で弁護士を目指すことにした時、音楽もやり続けるぞって、そんな確固たるものはなかったのね。ロック弁護士になろうと思ったんだけど、それは音楽をやらなくてもいいわけでしょ。ロックンローヤー(lawyer=弁護士)ね(笑)。ロックな弁護士になって、国とか権力を相手にハデにやってやろうって(笑)。

——以前は、バンドは企画(『JUST A BEAT SHOW』ほか)も含めて活発でしたよね。で、弁護士になって音楽を継続してやるって確固たるものはなかったということですが、やっぱり続けていくわけで。続けるきっかけは?

島:司法試験に合格した後、修習で10カ月間、高知に住んだんだけど、そこでなんとなく音楽活動も始めちゃってさ。こっちに戻って間もなく、弁護士になって3カ月ぐらいで原発事故が起きた。それで反原発の集会で唄わないかって誘いがいくつかあって。最初は弾き語りでやってたんだけど、一人じゃ寂しいからthe JUMPSのドラムだった吉田(吉田スパイシー雄三)を誘って。パーカッションやってよって。吉田も同じ大学のサークルだったの。次はサックスの福島ピートも呼んで3人でやって、やっぱり音が多いのは楽しいなって。その後、ライブに吉田が来られない時があって、それじゃ亜子を呼んじゃおうってジャンベで参加してもらって。その時が初めてだよね、一緒に音出したの。

亜子:そう。ホント一緒に音出したのは初めて。

──長い付き合いなのに(笑)。

亜子:私がしばらく音楽を離れていて活動を再開し始めたタイミングとちょうど合ったんです、誘いがあったのが。

島:亜子のジャンベがなかなか気持ち良くて。そしたらピートが「次は吉田さんと亜子さん、2人に来てもらいましょう」って言いだして。そういうのもありだなって俺も思って。さらにthe JUMPSの最初のギタリストのクロス(the LEATHERS)にも声かけたりして、なんとなく気持ちいいサウンドができていった。最初からバンドやるぞ! って気持ちでやっていたらこうはならなかったと思う。形を決めずに自然に始めたから良かったんだね。

亜子:私は音楽活動を再開してからはドラムも叩いてたんです。でもキクちゃんから誘いがあった頃には、パーカッションが面白くなってきてて。

──パーカッションは島さんとやるようになってから本格的に始めたんですか!?

亜子:再開後に始めたんです。だから最初はパーカッションをずっと極めてきた方々のようにはいかないけれど、そこはニュー・ウェイヴ育ちなので(笑)、気持ちからイケル。このバンドはそれがOKで、そこが大事だったので。そうしたらどんどん面白くなっていって、アコースティック・パンクだ!って。

島:ZELDAも後半はパーカッシヴなバンドになっとったもんね。

亜子:そうそう。

島:ZELDAはメンバーみんなが興味あることに自由に向かって行くバンドだったよね。

亜子:そうそう。だから私自身、こっちに行くのは自然なんだなって。

スピリットがロックな日本国憲法

——私も同世代なんでニュー・ウェイヴ育ちって分かります。島さんもニュー・ウェイヴ育ちでしょうけど、何よりThe CLASHの影響が大きいですよね?

島:俺はもうね、ロックを始めた頃からThe CLASHには本当にお世話になって(笑)。メッセージ、サウンド。パンクでありながらレゲエやファンク、ジャズを取り入れたりとか。ファッションやギターの弾き方を含め、すべてを学ばせてもらいました。ジョー・ストラマーがソロになって、ワールド・ミュージックにハマッて音楽を進化させていった。そういう流れも自分の中でしっくりきたし。何しろパンク・イズ・アティテュード(態度、姿勢)だからそこは一貫しつつ、音楽的にはどんどん変化していく。ジョー・ストラマーの存在は俺の中でずっと指針なんだよね。

——どんどん変化していいっていうのはニュー・ウェイヴ育ちの感覚かもしれないですね。ルーツを深く知らなくても、カッコ良かったらやっちゃうっていう。

亜子:でもね、取っかかりはそれでいいんだけど、そこからどんどん掘りたくなっちゃうんですよ。ジョー・ストラマーもそうだったんだと思う。最初は形から入っても、でもそれだけじゃいけないんです。

——あぁ、そうですね。掘りたくなっちゃうっていう好奇心が、ニュー・ウェイヴ育ちの良さで。

亜子:ニュー・ウェイヴ育ちに限らず、掘っていくことは大事なことですね。パンクやニュー・ウェイヴのいいとこって、周りがおかしいということでもやってみるとか声を上げていいって、それは恥ずかしいことではないと。それが根底にあるから。だから反原発って声を上げることも共感できる。多感な時期を一緒に過ごしてきた幼馴染みたいなもんだから、キクちゃんが思うことは納得できる。だったら手伝うよ、私が持ってるものでいいものになるなら、って。

——恥ずかしいことじゃないって、その通りですね。誰もやっていないことをやるっていうのが、パンクやニュー・ウェイヴの立ち上がりでしょうし。

亜子:だってね、キクちゃんはロックな弁護士、ROCK'N'LAWYERになるって言った人ですからね。面白いじゃないですか。なんだそれ? って人は思うかもしれないけど、やりたいからやるっていう(笑)。

──初めてThe CLASHを聴いた頃と変わっていないのかも(笑)。

亜子:根本は何も変わってないと思います、この人は(笑)。

島:ジョー・ストラマーもそうだけど、音楽的好奇心を持ち続けられるかっていうのは大切で。唄いたいテーマやメッセージが俺にはあるけど、同時に音楽そのものに向かう好奇心も絶対に必要。それが今、凄くいい感じでできてる。メンバーと音でコミュニケーションができてるし。面白そうだから集まってきた連中と、新たな面白さがガチっと合わさっていく感じ。

──で、島さんは弁護士と音楽活動、どんな感じで繋がっているのでしょう?

島:原発関連の裁判、避難している人たちの代理人として東電や国を相手に裁判やったりしてるんだけど。避難してる先の生活だったり、一時帰宅に一緒に行って家の様子見たりとかするわけで。するとどんどん自分の中でリアリティが沸いてくる。唄いたい、唄わなきゃいけないテーマが見えてくる。そこはもう自然に、いま唄うならこれしかないっていう。

──島さんの生活から出てきた実感で。

島:うん。

──今作もそういう中から生まれた曲だと思いますが、11曲中5曲に日本国憲法の言葉がそのまま出てきます。今の憲法の言葉、美しいしポジティブですよね。

島:俺は法律の勉強を始めるまで憲法のことをほとんど知らなかったの。ロースクールに入って憲法の授業があって、すぐに憲法LOVEになった(笑)。スピリットがロックなんだよね。

──しかし憲法の条文が歌に出てくるのも凄い(笑)。

島:最初は「Dance to the 9」を思いついたんだけど、なんで思いついたかと言うと…、ラテンの曲をやりたいってのが先だったのか、9条を歌にしたいってのが先だったのか覚えてないんだけど…。たぶん同時に。「Dance to the 9」って語呂もいいしね。それでついつい、このパターンでダンス憲法シリーズを作ろうかなって。

亜子:9で味を占めた感が(笑)。

島:条文の文言がいいから、それだけで半分ぐらい歌詞ができちゃう(笑)。わりとすぐにできた曲。

亜子:キクちゃんがギターで歌だけを持ってきて、いいじゃん、ってなって。あまり考え込まず、ダンスでしょ、踊るんでしょ、だったらこうでしょ、ってどんどん音を出し合って。

権利は有力な武器になり得るもの

──9条は戦争の放棄ですよね。

島:だからこそ明るく。明るいダンス・ナンバーにね。

──踊れるし、メロディも残ります。「Dance to the 21」はレゲエ調。21条は言論や表現の自由。

島:21条、これは最高の仕上がりになった。

──まさにはパンク・ロックがずっと唄ってきたことなんじゃないかっていう。

島:13条もそうだよね。憲法ってロックだなって思った時、一番にキタのが俺には13条で。13条は個人の尊厳って条文なんだけど、「全て国民は個人として尊重される」っていう。それって凄いことでさ。自民党の改憲案は、「全て国民は人として尊重される」って書いてるんだよ。一文字減っただけで意味は一緒でしょって思うかもしれないけど、「個人」と「人」は違う。人として尊重されるなんて憲法に書く必要ない。個人として尊重されるってことが凄いことなんだよね。集団の中で個人は埋没しないし、集団のための犠牲にもならない、多様な個人、その一人一人が大事なんだってことを、今の憲法は明確に言ってる。最初に知った時に衝撃受けたもん。そういうことを感じるきっかけになればいいね。

——自民党の改憲案の「人として尊重される」なんてどうとでも解釈できるしね。いいように解釈されちゃう。そうじゃなく「個人」っていうのはとても重要ですよね。で、アルバム・タイトル『KNOW YOUR RIGHTS』はThe CLASHの曲名から?

島:うん、もともとは自分たちのイベントのタイトルにしてたの。ホントはアルバムのタイトルは別に考えてたのがあったんだけど、こっちでいいじゃんって。

──「RIGHTS」、「権利」っていいですよね。今の時代、とても大切だと思う。

島:権利って、やたらに振りかざすのは決していいことではないけど、だけどこういう時代の中で、多数決に押し潰されないよう、それぞれに大切なことを確保するためには有力な武器になり得るもので。バンド名の「NO NUKES RIGHTS」は、原発は嫌とか被爆は嫌とか、そういうことが起こったらどうなるんだろうって不安感とか、そういうことを思うのはわがままではないし、主義主張でもポリシーでもない。当たり前の権利。権利として主張していいんだよって。権利だってことを自覚しようよって。

——権利って全ての人が持ってるものだし。

島:うん。特に沖縄とか福島とか、基地問題や原発事故で切り捨てられてる所を見ているとね。いわゆる自主避難者の人たちも、いろんなことを考えて悩んで、たくさんのものを犠牲にして決断したわけで。でも避難指示によるものじゃなく、自主的な避難だから補償も充分じゃないし、非難されることもある。でも被ばくの恐怖に晒されずに生きることはあなたの権利なんだから堂々としていいんだ、って言ってあげたいよね。国とかによって周りの人たちが、わがまま言ってんじゃないよって思わされてるとこもあるから。そうじゃないんだよって、周りの人たちも分かっていかないといけないことだし。

——いま言ったこと、3曲目の「No Nuke Justice(Dance to the 14)」でも唄ってることですよね。

島:そうだね。

──この曲は反原発の曲であると同時に、人権や差別のことが書いている14条と繋がっていて…。

島:うん。14条の平等権。

──平等権、すなわち反差別ということが反原発と繋がって。原発って差別や格差を生むもので、今の日本の問題が繋がっているってことが分かる曲。

島:原発は差別の上でしか成り立たないっていうね。そのことに気づこうよって。もともとはサブタイトルなしの「No Nuke Justice」だけだったんだけど。あのさ、「Environmental Justice」って環境問題についての言葉があって、それから「Climate Justice」って言葉に繋がって。アメリカとか日本とか先進国はジャンジャン二酸化炭素出して豊かな生活をしながら温暖化をもたらしといて、その結果、北極だったり南の島だったり二酸化炭素を出す生活なんかしてない人たちが被害を受ける。利益を享受する人たちがいて、全然関係ない人たちが被害を被る。平等に反するっていうね。そこから「Climate Justice」って言葉が出てきた。「No Nuke Justice」はそこからヒントを得た俺の造語なんだ。

──遠い国の話じゃなく、身近なことになってますもんね。

島:そうだよね。

──今、シビアな現実の話をしてますが、でも、楽しいです。扉がどんどん開かれていく感じで。だからサウンドが楽しいのも自然で。ロックンロールを基盤としつつ、ラテン、ブルース、ジャズ、沖縄民謡、アイリッシュ。

島:ゴージャスでしょ。たくさんの人にいい音で参加してもらって。

ここで変わらなければ変わる時がない

──ホーンが入ってる曲もあれば三線が入ってる曲もある。パーカッションは亜子さんと吉田さん、2人?

島:3人いるんだよ。役割分担みたいなのはあって。なんとなく亜子が仕切り役をやりつつ、それぞれ自分の音で。暗黙のうちに役割ができてるでしょ?

亜子:そうですね。このバンドってリズムが凄い大事なとこで、発想としてはロック・バンドのバランスじゃないんですよ。ロック・バンドだったらガーンって音を出す感じだけど、そうじゃなく、こう、抜き差ししていく。抜き差ししながら分厚い音になっていく。みんな各々美味しいところを、隙間産業みたいに(笑)。ドラムやパーカッションだけでなく他の楽器のノリにもなかなかキビシイのです(笑)。ボーカルにも(笑)。

──音が会話をしてる感じがして。だからリズムであると同時にメロディアスでもある。

亜子:曲によってベースになっているリズムを担う楽器が違う。パーカッションだけでなく全ての楽器がそういう感じで音が重なっていって。なんとなくと言うか必然的にと言うか、バラエティは豊かになりますよね。

──あぁ、曲そのものもそうですけど、音の出し方によってバラエティは生まれますよね。the JUMPSからの曲もいいですよねー。

島:全然違う解釈でやれてる。「Sunday」って曲はthe JUMPSではバキバキな感じなんだけど、ゆったりしたリズムにフィドルが入ったりして、全く違う曲だよね。

──「アル・バンナの夢」は?

島:ギターのクロスがうちに来て、俺が「こんな曲やりたいんだけど」って言って、クロスがその場でギターを弾いて。「こんな感じ?」「もうちょいこんな感じ」「それそれ!」って感じで作った曲の一つ。

──いいですねぇ。10代みたい。

島:だよね。友達がギター持って家に遊びに来るって、それだけで最高に楽しい。そんな感じでやれてるのが、このバンド。

──アル・バンナって?

島:前作にも中東をテーマにした曲があったんだけど、これもシリアが舞台。イスラムのいろんな国にムスリム同胞団っていうのがあるんだけど、シリアでは1982年に消滅してるの。全員殺されちゃって。アル・バンナは同胞団を創設した人の名前。今、シリアは凄い悲惨な状態だけど、イスラム同胞団がいたらどんなふうに考えたのかな? ってことを想像しながら作った曲。PANTAさんに褒められたよ。「イスラムのことを唄ってるのは俺だけかと思ってたけど、ここにいた」って(笑)。

──凄い(笑)。最初にアレルギーの曲で“九条を守れ”って歌詞があるって言いましたが、FORWARDにも9条を取り入れた「戦争の放棄」という曲があるんですよ。

島:へー、いいね。

──声を上げてくれるのが嬉しいです。今の世の中、表現に対して閉塞感があると思う人もいるだろうけど、声を上げる表現が出てこなかったら、もっと閉塞感はあると思う。

島:この状況を大事にしなきゃいけないよね。ここで変わっていかなかったら変わる時がないよ。しっかり議論して、こういう社会にしたいってことを言ったほうがいい。

──ところで最後、「まだ見ぬ自由へ(Dance to the 97)」は、まだ続くかと思ったらスッと終わっちゃう曲で。いや、そこがいいんですけど。

島:えぇ、終わり? ってね(笑)。あれはね、Queenの1枚目のアルバムにイントロだけで終わっちゃうような曲が最後に入ってて。で、次のアルバムにその曲の完成版が入ってるんだよね。そんなイメージ。

──じゃ、NO NUKES RIGHTSも次のアルバムを期待していいってことで。

島:もちろん。

亜子:ちょっと次も作りますよー、って。

──じゃ、最後に今作についてひとこと。

島:あくまでもロック・バンドなんで、音楽としての多様性やオリジナリティを意識してやってます。メッセージはストレートで回り道せずに。でも音楽だけでも楽しめる。今回はそれが最高の形で表現できたと思ってます。

亜子:私は彼が唄うメッセージを、とても音楽的にしたいってことだけを考えてやってるんですね。良質な音がいろんな人に届いてほしい。若い人、同世代の人。何歳になってもいろんなことをやっていい、新しいことを始めていいっていう、励みになれば嬉しいです。

──あ、あと11月までツアーが続きますね。

島:全カ所全員で廻るってわけじゃないんだよね。5人で行くとこもあれば3人や2人、俺だけってとこもあって。それでも全然いける。ロック・バンドって、「メンバーが欠ける」っていう引き算で考えがちなんだけど、俺たちはもともと一人でスタートしたバンドなんで、足し算の発想。各地で地元の知らないミュージシャンにサポートしてもらったりして演奏するチャック・ベリー方式も楽しい。毎日いろんな形でやれる。それも含め、自分でもめちゃくちゃ楽しみです。

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