まぶしいばかりのシンデレラ♪ 岡田有希子ファーストは80年代の名盤! 1984年 9月5日 岡田有希子のファーストアルバム「シンデレラ」がリリースされた日

僕は、80年代のアイドルの名盤を1枚選べと言われたら、迷うことなく岡田有希子の1stアルバム『シンデレラ』をあげる。

そう―― 今回は単刀直入に話を進めさせてもらう。今日9月5日は、今から35年前の1984年に、かの名盤がリリースされた記念すべき日である。

思えば、このリマインダーで僕が最初に書いたコラムが、岡田有希子のデビュー曲「ファースト・デイト」だった。作詞作曲・竹内まりや。コラムの中で、僕は楽曲のクオリティを評価しつつも、フリフリのドレスで歌う当時の彼女の売り方を「古い」と感じたと回想している。

事実、彼女がデビューした84年は、芸能界で “脱・アイドル” 化が進み、松田聖子・中森明菜・小泉今日子・菊池桃子・チェッカーズ・吉川晃司といった第一線のアイドルたちは皆、操り人形とは違う、自己流のスタイルを貫いていた。翌年、その流れは、放課後の女子高生がコンセプトの “モンスター” おニャン子クラブを生み出す。

だが―― デビューから5ヶ月後にリリースされたアルバム『シンデレラ』を聴いて、僕は当時古いと感じた岡田有希子の売り方が、実は確信犯だったと気づいたというのが、以前のコラムの趣旨だった。アルバム10曲中4曲を書いた竹内まりやの原点が、60年代のコニー・フランシスやシュープリームスの欧米ポップスにあり、意図的に古き良き王道アイドル路線を狙ったと――。

さて、今回はそのアルバム『シンデレラ』を掘り下げたいと思う。

作家陣は、先の竹内まりやを始め、EPO、ムーンライダーズの白井良明と岡田徹、名アレンジャー大村雅朗、同じくアレンジャー職人・清水信之、大編曲家・萩田光雄、ポプコン出身の梅垣達志、作詞家陣では三浦徳子、康珍化、吉沢久美子―― と、いぶし銀の名前が並ぶ。そう、70年代に端を発する彼らソングライターたちを潤沢にアルバムに起用できたのが、80年代の日本の音楽界だった。

同アルバムのプロデューサーは、かつて加山雄三&ザ・ランチャーズのベーシストを務めた生粋の慶応ボーイの故・渡辺有三サンである。ポニーキャニオンの名物男で、岡田有希子のデビューに当たり、山の手のお嬢様(プリンセス)路線を考案し、同じく慶応出身の後輩・竹内まりやに楽曲を依頼したのは彼である。そして、60年代の欧米ポップスにインスパイアされた王道アイドル路線が敷かれ、デビュー曲「ファースト・デイト」、続いて2ndシングル「リトルプリンセス」がリリースされる。

僕が初めて、素の岡田有希子に出会えたのは、このタイミングである。2ndシングルのキャンペーンで彼女が福岡を訪れた際、友人と2人で放課後に自転車を飛ばし、天神コアへ向かった。間近で見る彼女はテレビで観るより華奢で、高校2年の同級なのに、年下に見えた。レコードを買うと握手できる特典があり、僕は2枚買い、2回握手した。思えば、AKB48 の握手会商法は、既に80年代からその予兆はあった。

8月22日、彼女は17歳の誕生日を迎える。そして2週間後の9月5日、念願の1stアルバムがリリースされる。既出のシングル2曲に、オリジナル8曲で構成された『シンデレラ』である。

 半袖シャツじゃちょっぴり 肌寒い季節  ひと気ない砂浜には  忘れられたパラソル

1曲目の「さよなら・夏休み」は、ファンの間でもひと際人気の高いナンバーだ。作詞作曲・竹内まりや。さもありなん、同曲は「ファースト・デイト」と最後までデビューシングル候補を争った名曲中の名曲。編曲は清水信之で、瑞々しいアレンジをさせたら、この人の右に出る者はいないと言われる。竹内まりやや EPO をデビュー時から支え、「不思議なピーチパイ」や「う、ふ、ふ、ふ、」をアレンジした職人だ。

 あんなに焼けた素肌も 色あせてきたら  制服に戻る時が 目の前に近づいてる

同曲は夏の終わりを綴った切ないナンバーで、同アルバムを象徴するコンセプチュアルソングとなっている。歌詞は物語仕立てで、高校生の等身大の恋愛模様が綴られている。メロディも世界観も、どこか懐かしい。

そのアレンジャー清水信之が、自ら作曲も担当したのが、3曲目の「彼はハリケーン」である。作詞は朋友の EPO。これもひと夏の恋を綴ったナンバーで、グループ交際で訪れた海の家での、ちょっと危険な恋の予感が描かれている。

 ひと夏の風をふるわせて  私の髪に口づけた 彼はハリケーン  砂浜で巻き込まれたなら  危険と知ってたはずなのに

同曲は、岡田有希子自身のお気に入りの一曲で、コンサートでは必ず披露された。亡くなる3日前の最後のコンサートでも、アンコールの1曲目で歌っている。危険な恋と知りつつ、遊び上手な彼に惹かれる優等生・岡田有希子のホンネが垣間見えるようで、意味深なナンバーでもある。

 スクール通りの 白い喫茶店からね  帰りのバス停 とてもよく見える

4曲目は一転、恋に恋する奥手な女子高校生たちの心情が綴られた「丘の上のハイスクール」。作詞は康珍化、作・編曲は大御所の萩田光雄である。

 まだかなって思う  そわっそわってしてる  女の子たち 待ってる  好きな彼

アルバム『シンデレラ』は、全編が17歳の高校2年生・岡田有希子の等身大の世界観で綴られている。どこか懐かしいが、楽曲は少しも色褪せていない。例えて言えば、ドラマ『あすなろ白書』のオープニングに登場する古き良きキャンパスを彷彿させる。特定の年代を描いたというより、誰の心の中にもある普遍的な “ノスタルジー感” を投影しているのだ。

 ひときわ 人目を引くフォームの  あの人を また今日も  見つめている  コートの片隅で ときめく  私に気づくかしら

そして―― 同アルバムで最も人気の高い楽曲が、7曲目の「憧れ」である。作詞作曲・竹内まりや。テニス部の少女の視点で、憧れの先輩への思いを綴った珠玉のナンバーだ。詞・曲ともノスタルジー感にあふれ、極めてクオリティの高い作品に仕上がっている。

 あなたの視線 感じるたびに  うまく打てなくなるの  Shy な私  短いスコートが風に  ひるがえる姿  どうぞ 見ないで

ちなみに、竹内まりや自身、中高時代と軟式庭球部に所属しており、同曲には彼女のリアルな思い出も投影されているかもしれない。まるで私小説のようなディテール感のある詞がその証左だ。

 憧れは女の子を  きれいにしてくれる  いつの日か夢がかなうと  信じてるの

―― さて、このコラムもそろそろ終わりに近づいている。

最後に紹介するのは、9曲目の「ソネット」である。同曲はファンの間で「憧れ」「さよなら・夏休み」に次ぐ、同アルバムの人気ナンバーと言われる。作詞・吉沢久美子、作曲・梅垣達志。梅垣さんは第2回のヤマハポプコンの入賞者であり、同アルバムの作家陣の層の厚さを思わせる。

 秘密だけど 誰かに話したい  けれど口にしたらこわれてしまいそう

アルバム『シンデレラ』のプロダクションノートを見ると、当時、ディレクターを務めた飯島美織(現・国吉美織)さんが手探りで作家陣を集めた経緯が伝わってくる。だが、不思議と出来上がったアルバムを聴くと、見事な世界観で統一されている。先に述べたように、同アルバムは誰の心の中にもある、普遍的な “ノスタルジー感” で構成されているからだろう。

 透き通った 大切な恋だから  両手で 抱きしめているの  オレンジの花ひとつ 髪にさしていると  しあわせになれると いうけど

―― シンデレラには後日談がある。

同アルバムのリリースから16日後、岡田有希子は3rdシングル「Dreaming Girl 恋 はじめまして」をリリースする。そして9月末には大阪と東京でファーストコンサートを成功させ、10月には『ザ・ベストテン』への念願のランクインを果たし、年末にかけて怒涛の新人賞レースに参戦する。

1984年12月31日、TBS『第26回 輝く!日本レコード大賞』最優秀新人賞受賞。彼女は涙を見せながらも、最後まで声がヨレることなく、フルコーラスを歌い切った。この夜、岡田有希子は本物の “シンデレラ” になった――。

彼女が天国へ旅立つ、463日前の話である。

歌詞引用: さよなら・夏休み / 岡田有希子 彼はハリケーン / 岡田有希子 丘の上のハイスクール / 岡田有希子 憧れ / 岡田有希子 ソネット / 岡田有希子

※2018年9月5日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 指南役

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