米中貿易摩擦問題の勃発を皮切りに、ドナルド・トランプ大統領の発言に再び注目が集まっています。渦中のトランプ氏をリアルタイムで追う個人投資家にとって、欠かせない情報源の1つになっているのが、彼のTwitterアカウントです。
トランプ氏のTwitterアカウントには延べ6,000万人以上ものフォロワーが存在しており、たびたび突飛なツイートを行っては株価を乱高下させることから、トランプ氏のツイートを解析するアルゴリズムを使って取引する機関投資家もいるのではないか、とうわさになるほどです。
トランプ氏のツイッターアカウントをフォローしている投資家も多いかと思いますが、はたして彼のツイートは、投資家が無視できないほどの影響力があるといえるのでしょうか。
効率的市場仮説から考える
驚くべきことに、トランプ氏のツイートが株価にどれほどの影響を与えているかというテーマで、いくつかの大学から論文が出ています。その中でも、同氏のツイートを「効率的市場仮説」という理論から検証する、米ノースイースタン大学の論文を紹介したいと思います。
その内容に踏み込む前に、まずは効率的市場仮説という言葉の概要をおさらいしておきましょう。語感は一見難しいものの、実は単純な理論です。
効率的市場仮説とは、「株式の価格は世の中の公開情報をすべて加味している」という仮説のことをいいます (なお、公開情報だけでなく、インサイダー情報のような非公開情報であっても、株価に織り込まれているという立場もあります) 。
実証が難しいことから仮説の域を出ていないこの理論ですが、場中に決算情報が開示されると即座に株価が反応し、おおよその市場関係者が妥当であると考える水準に落ち着いたという経験をされた方も多いのではないでしょうか。この動きは、効率的市場仮説の考え方からいえば、公開と同時にその内容は株価に織り込まれたという説明のされ方となります。
ツイートは確かに市場に影響を与えていたが…
実は、決算の開示情報はトランプ氏のツイートと類似する側面があります。どちらも、私たちが事前に関知できない情報であるからです。
そればかりか、公平性の観点からいえば、トランプ氏のツイートのほうが優れていそうです。企業の業績は、公開までにたくさんの人が関与し、インサイダーが挟まる余地があるからです。
効率的市場仮説から考えると、インサイダーの関与余地が非常に少ないトランプ氏のツイートは、株価が織り込めない情報であるといえそうです。そうすると、同氏のツイートが市場の先行きを決定してしまうほど絶大な影響力をもっているのではないか、という問いが生まれるのも納得できます。
ノースイースタン大学のジェフリー・A・ボーン教授が発表した「トランプ氏のツイートと効率的市場仮説」という論文によれば、トランプ氏のツイートがポジティブであろうとネガティブであろうと、ツイートした日には対象銘柄の取引高が平均87%も上昇し、Google検索のボリュームの増加も発生しました。
一方で、トランプ氏のつぶやきが最も株価に影響を与える期間は発表日の終値まででした。その後の株価への影響は漸減していき、少なくとも3〜5営業日という短期間で消滅していることがわかりました。
他にも米イリノイ大学をはじめとした複数の研究機関で、トランプ氏のツイートと株価の連動性を検証した論文があります。しかし、効率的市場仮説の観点から、トランプ氏のツイートに対して長期的な株価への影響を否定する立場が有力のようです。
<写真:ロイター/アフロ>
トランプ・ツイートは無視して問題ない?
数本の論文の中でも「トランプ氏は、市場がすでに株価に織り込んでいる内容を反復しているだけである」という記述が目立ちます。効率的市場仮説の立場から考えると、トランプ氏のツイートで言及されている情報自体はほとんどすでに世の中に出回っており、長期的な市場の先行きを決定するものではないということになります。
このように考えれば、トランプ氏が発したツイートの影響力が短命に終わることも説得的であるといえるでしょう。
これらの有力な立場からすると、トランプ氏のツイートが市場に影響与える期間は、かろうじて非常に短期的な取引で有効となる可能性があります。
もし、短期取引を行う投資家の場合、トランプ大統領の発言をどうしても投資判断に使うのであれば、逆張りの投資方法が有効なのかもしれません。トランプ氏のツイートによる株価の影響はツイート時に集中し、その影響が徐々に打ち消されていく傾向にあります。したがって、ツイートが示唆する方向感が長時間維持されるとは考えにくいでしょう。
中長期目線の投資家がとるべき行動
しかし、これまでにご紹介した統計的な結果を知らない投資家の多くは、トランプ氏の発言を必要以上に重要視してしまうかもしれません。つまり、市場の過剰反応を逆手にとった取引を行うことが、短期目線の個人投資家にとっては有効なのかもしれません。
たとえば、トランプ大統領が中国市場に対してネガティブなツイートを行った場合、即座に人民元や中国関連株を売却するのではなく、ツイートに基づく値動きがいったん落ち着き、反発を示した段階で買いを入れるというような戦略です。
結局のところ、中長期目線の投資家にとってノイズ程度の認識で問題はないでしょう。中長期の投資判断を行うにあたっては、各種の経済指標や企業の業績といったファンダメンタルズ分析を行うことが有効です。
もし直近のトランプ氏のツイートで長期目線の株を売却しようか悩んでいる場合は、本当にその判断が合理的なのか、一度立ち止まって考えてはいかがでしょうか。トランプ氏のツイートだけを根拠にして、向こう数年の景気が悪くなる、または良くなるといった投資判断はできないのです。
<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>