「直接民主制」とN国党・立花氏の目指すもの(海保けんたろー)

NHKから国民を守る党(以下、N国党)代表の立花孝志氏がNHKのスクランブル放送を目指していることと、マツコ・デラックス氏や週刊文春などとバトルを繰り広げていることをご存じの方は多いだろう。しかし、彼が「インターネット投票による直接民主制の導入」を目指している事はご存知だろうか。本記事はこれについて掘り下げるものである。

ネット投票による直接民主制を実現してNHK改革へ

直接民主制と間接民主制の違いのイメージ図(編集部作成)

「インターネット投票による直接民主制」とは、政治家が検討すべき一つ一つの議題について国民(党員など)がネット投票を行い、議員はその結果の通りに行動するという政治手法である。

現在、日本を含む多くの国では「間接民主制」が導入されており、これには多くの利点がある一方、欠点もある。その一つが「選挙の際に争点となっている議題については投票により国民が意思表示することができるが、選挙がない時期に新たに持ち上がった議題については丸投げ状態になってしまう」というものである。

「インターネット投票による直接民主制」はこの問題を解決することができるのだ。

また、直接民主制であれば政治の“腐敗”を抑制できるとも考えられる。例えば「議員報酬の増額」は否決されるだろう。その他にも、政治家が「(国民ではなく)自分たちのメリットのためにやろうとすること」の多くを否決することができる。

それでは、NHK問題と直接民主制はどう関連しているのか。

立花氏の発言を見る限りでは「直接民主制を導入することができれば、自ずとNHKのスクランブル放送も実現できる」と考えているようだ。事実、2012年に産経新聞が行った調査では「NHKの地上波放送はスクランブル化を導入すべきか」に88%がYESと答えている。

政党として直接民主制を導入し、それを武器にしながら勢力を拡大することでNHKのスクランブル放送を実現しようということなのだろう。

ちなみに、インターネット投票による直接民主制導入に挑戦するのはN国党が初めてではない。

これまでにもスウェーデンの「Demoex」、ハンガリーの「インターネット民主党」、国内では松田公太氏らが立ち上げた「日本を元気にする会」や、一部で話題になった「支持政党なし」などがある。

筆者も「日本を元気にする会」の投票システム構築をお手伝いさせていただいた経緯があるが、残念ながらどれも大成功とは言い難い。

>> 参考:日本を元気にする会 直接民主制に関連する記事「マスコミが報じない世界初の「割合投票」と労働者派遣法改正案の可決」

「衆愚政治化を防ぐため、投票権に差をつけてもいい」

直接民主制の欠点としてよく挙げられるのは「衆愚政治になってしまう」という点だ。

例えば、何の前提知識もなしに「消費税5%と10%どちらがいいですか?」と聞かれて「10%がいい」と答える人は少ないだろう。しかし本来は、5%にした場合にどんなデメリットがあり、10%にした場合にどんなメリットがあるのか、という点も総合的に天秤にかけた上で判断するべきである。

だが国民全員に一つ一つの議題について深く学ばせる、というのは現実的ではない。その結果、多数決であっさりと消費税5%が選択されてしまう(5%にした際のデメリットが無視されてしまう)、というような状態が衆愚政治の典型だ。

そのあたりについて、立花氏はどう考えているのだろうか。

実は先日選挙ドットコムで公開された立花氏のインタビューの際、私も同席させていただいた。

その際に彼は「国民の多数決と、専門家である政治家の多数決に差が出るのは仕方がない。しかし、そのずれがある合理的な理由を説明する義務が政治家にはある」と語っていた。そのずれを可視化するためにも、インターネット投票による結果を公開していくことが重要だと考えているようだ。

また立花氏は「法律や政治の勉強をしっかりしている人には5票、全くしていない人には1票、などと差をつけても良いと思う」という発言もしている。このようないくつかの施策を通して国民全体の政治リテラシーが高まっていくことこそが、長期的な直接民主制の成功には不可欠だということだろう。

NHK、マツコ、崎陽軒、文春、などのキーワードで語られがちな彼だが、これを機に直接民主制について考えてみてはいかがだろうか。

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