大学での工学教育を充実させるための「初年次教育」

学生に学びを習慣づける「初年次教育」の工夫

本学は1967年、工業高校生が推薦で進学できる日本で唯一の大学として開学した。2018年には工学部1学部体制から改組を行い、現在は、機械工学科・電気電子通信工学科・応用化学科による基幹工学部、ロボティクス学科・情報メディア工学科による先進工学部、建築学科(建築コース・生活環境デザインコース)による建築学部と3学部6学科2コース体制となっている。

また、同時に共通教育である「初年次教育」の改革も行い、“やらないでは済まされない”環境をつくり、学生が理解できるまで勉強する習慣をつけるための「クォータ制」と「学習基盤科目」を導入した。これは(1)学習習慣や自学自習の定着、(2)経験や体験の強化、(3)大学での学びへの忍耐力の強化、を主眼とした取り組みだ。

小ゴールを連続して設定する「クォータ制」

まず「クォータ制」とは、学生個々の習熟レベルに沿った講義から始め、段階的に基礎力を身に付けさせるシステムである。

以前までは、工業科出身者用の工学発展コースと普通科出身者用の工学集中コースを用意し、入学後1年から1年半を高校時代の学修履歴を活かしたプログラムで実施してきた。しかし、工業科、普通科を問わず学生の多様化が進み、既定のコースでは対応しきれなくなったため、卒業学科を問わない新たなカリキュラムを設定したのである。

具体的には、プレースメントテストで学生一人ひとりの能力を把握し、工学の基礎となる「数学」、「物理」、「英語」では習熟度別クラスを編成した上で、1年を4期に分けて履修する。科目ごとに学びの質を保証する基準科目が必修として定められ、これは第4クォータまでに合格しなくてはならない。さらに、各レベルにその必修の下位科目の修得が条件となる「履修縛り」もある。

また初年度のクォータ科目を含め、各学年で進級条件に満たない学生は留年となる。わかるまで繰り返し学べるが“やらないでは済まされない”環境を提供することで、授業への集中力を上げ、学生一人ひとりの自己実現をめざす。

専門科目を意義あるものにするための「学習基盤科目」

「学習基盤科目」とは、学生の積極的かつ自律的、自立的な学習態度を育て、専門科目の学習基盤となる知識を身に付けさせる科目だ。本学では「スタディスキルズ」、「日本語リテラシー」、「学修と実工学」を開講している。

「スタディスキルズ」では、講義を聞き、教科書を読んで理解し、資料から必要な情報を読み取り、レポートを書く、という大学で必要な日本語力を身に付ける。「日本語リテラシー」では、文章を書く技術と日本語の知識を学び、文章作成の課題に取り組む。「学修と実工学」では“話し合い作りながら考える”、“自分の手で作ったものを発表する”など課題を通じてコミュニケーションカを向上させる。

授業は、自律性や自立性を高める予習重視型の演習授業とし、次回の授業準備や授業後に行う疑問点などを調べるポートフォリオ整理など時間外の学修も重視する。またアクティブラーニングによる「調べる・まとめる・討議する・発表する」を基本に、ペアワークやグループワーク、クラスワーク、プレゼンテーションを行いコミュニケーション能力の向上を図っている。

実際に受講した学生アンケート(2018年度春学期、受講生518名中回答403名)では、84%の学生が「(授業を通じて)成長した」と回答するなど一定の効果を見せている。こうした初年度の基礎の積み重ねこそが、4年間の大学生活を有意義にすると言えるだろう。

学問の意欲と興味を伸ばし、学び続ける技術者に

学生それぞれの習熟度合いにも幅があるため、“やらないでは済まされない”環境では、学生のサポートが不可欠だ。そのセーフティネット役を担うのが、学修支援センターである。常駐する10人のチューター(数学5人、英語3人、物理2人)がクォータ科目の補習を実施するほか、各クォータ科目担当教員とチューターが連携を行いながら補足指導をきめ細かく行う。加えて学部生からは「学修支援ボランティア」を募り、学生同士による気軽なピアサポートの充実も図っている。

目的意識、学習意識が高い学生の学問への興味や意欲を伸ばすことはもとより、基礎力のある技術者を育てるため、今一度「工業高校生が推薦で進学できる日本唯一の大学」という原点を大切にしたいと思う。学修履歴に捕らわれず、学生自らがわかるまで繰り返し勉強できる初年次教育。この取り組みを深化させながら、生涯学び続ける技術者の育成に向け、本学ならではの工業教育を推進していきたい。

日本工業大学

学修支援センター長・教授

岩﨑 利信 先生

宇都宮大学工学部卒業。埼玉県工業校長会会長、関東地区工業高等学校長会会長、関東地区電子機械教育研究会会長、公益社団法人全国工業高等学校長協会副理事長を経て現職。専門分野は工業教育、学修支援。

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