ダルビッシュ有は、なぜTwitterで議論するのか「賛否両論あるということは、自分らしく生きられてる証拠」

全4回にわたる独占インタビュー、第1回でメディアへの本音を、第2回で日本野球界の問題を語ってくれた、ダルビッシュ有。

続く第3回のテーマは、「Twitter論」だ。

スポーツ選手の中でもいち早くTwitterを始め、自身の考えを発信するだけにとどまらず、野球のことも、野球以外のことも、さまざまなことについて一般人とも議論を交わしてきた。

なぜダルビッシュはこうしたスタイルを貫いているのだろうか? また、貫くことで新たに何が見えてきたのだろうか? 日本の社会全体にも通じる想いを明かしてくれた――。

(インタビュー・構成=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、撮影=小中村政一)

「言いたいことを言いたい時に言うし、言いたい人に言う」

Twitterについて聞かせてください。ダルビッシュ選手は、Twitterで一般の人とも積極的にやりとりしています。野球の技術論などのやり取りを一般の人とすること自体も革新的ですが、野球とは全く関係ないことについても、とにかく積極的にコミュニケーションを取っていますよね。なぜ、ああいうスタイルでTwitterをやっているんでしょうか?

ダルビッシュ:だって、普通の人たちだって、Twitterで他の人とコミュニケーション取ってるわけじゃないですか。それと同じです。プロ野球選手って、晩ご飯食べに行ったり、飲みに行ったりすると、その存在だけで、「すげえ」って見られるわけですよ。でも、実際はそうじゃなくって、ただ単純に野球が上手いだけじゃないですか。なのに、勝手に「すごい人たち」と見られるのがすごく嫌で、決して自分たちがすごいわけじゃないし、他の普通の人たちと同じだし、良いところもあれば悪いところもある。

ただ、僕がTwitterを始めた2010年頃は、まだプロ野球選手でSNSを使って発信している人はほとんどいなかった。当時の野球選手は、ヒーローインタビューや記者会見でも、当たり前のことばかり言ってたから、「それって言ってて面白いんかな」というのがすごくあって。だから、(Twitterで)素の自分をしっかり見せることによって、欠陥とかも見せていくことによって、自分という人間がどういう人間なのかをわかってもらえるかなと思って。

個人的には、ダルビッシュ選手のTwitterは、まさに「人間臭さ」を感じることができて、すごく好きです。ただ、Twitterでの一般の人とのやり取りを見ていると、「野球選手は野球だけやっていればいいんだ」という人も、一定数いますよね。そして、そういう人が絡んでくると、ガッツリ返すスタイルじゃないですか。炎上上等のストロングスタイルというか。

ダルビッシュ:だって、普通に道を歩いていて、「お前何なん?」って言われたり、「お前、顔気持ち悪いねん」とか変なこと言われて、「なんで何も言い返さないの?」って僕は思うから。Twitterについては、周りの人からもよくアドバイスされます。「まあ、無視していればいいんだよ」って。でも、自分はなんか、そうじゃないんですよ。別に、言いたいように言えばいいやろうし、と。自分はもう、本当に好きなように、思ったように生きることにしているので、自分の言いたいことを言いたい時に言うし、言いたい人に言うことにしてます。

もちろん、いろいろな人がいるから、賛否両論あるのはわかりますよ。自分は昔からそうで、高校の同級生の間でも、「賛否両論が服を着て歩いているような男」というふうに言われてました。人間って本来、パーフェクトな存在じゃないわけですから、賛否両論であるべきなんですよ。だから、みんなが賛否両論あるということは、自分が何も包み隠さず自分らしく生きられてる証拠だと思うので、僕自身にとって、すごくうれしいことなんです。

ここ最近では、スポーツ選手に限らず、数多くの著名人が、TwitterをはじめとしたSNSで自分の考えをしっかりと表に出すようになってきています。僕はサッカーが一番の専門ジャンルなんですが、サッカー選手たちも以前とは比べ物にならないくらい、SNSを通じて自分たちの考えを発信するようになってきて。そうすると、やっぱり、これまで以上に選手たちの素顔や魅力も見えてきて、ファンからしても、より楽しめるし、より応援できる。とても良い相乗効果が生まれていると感じます。

ダルビッシュ:それは僕もすごく感じていて、近年、特に去年ぐらいからですかね、著名な人たちがTwitterでもガンガンやり合うみたいなことを目にすることが多くなってきて。さっき言ったように、スポーツでも賛否両論含めていろいろとやり合うことで、良い部分も悪い部分も見られるし、それによって試合を見ていても、もっと感情移入ができるだろうし、話題も増えるやろうし。もっと面白く見られるんじゃないかなとは思います。

とはいえ、アメリカのメジャースポーツのトッププレーヤーと比べると、SNSの活用においては、まだまだ大きな差を感じます。日本全体でいえば、スポーツ選手がSNSを活用することへの理解はまだあまりない。純粋な炎上ではなく、議論が盛り上がって話題を提供しただけでもマイナス、というようなことなかれ主義の考え方が大多数を占めています。スポーツ選手が自分の考えを積極的に発信していくことによって、そういった根深い問題を、本当に変えていくきっかけになればいいんじゃないかと思っています。

ダルビッシュ:まあ、日本には日本のやり方があって、考え方があって、今までずっとそうやってきているんでしょうけれど、国際的にいえば、そもそも議論というのは絶対に必要なわけで。
ただ、日本人の場合は議論を避けたがるし、基本的に、黙って何も言わずに地道に努力をし続けてて、苦しい道を歩いた結果、成功するというのが美徳とされているところがあるから。でもそれってすごく遠回りだし、中にはそういう人がいてもいいとは思うけれど、みんながそうでなくてもいい。個人的には、そういうのはすごく遠回りだと思うし、もっとできることいっぱいあると思うので。

「自分の人生なんだから好きに生きたらいい」

Twitterでの話題でいうと、先日、10歳のYouTuberの少年についてTwitterでコメントした内容が大きな話題になりました。「自分の好きなように生きればいいよね。責任も取れないのに他人の人生に口挟まなくていいと思うわ」というツイートに対して、賛否両論入り交じって本当に大騒ぎになって。特に、ああいった教育が絡んだ話題だと、普段はあまり発言しない人も含めて、本当にいろいろな人が出てきていろいろな意見を言うんだなと、改めて感じました。ただ、個人的にも、ダルビッシュ選手は当たり前のことを言っただけなのにな、とも思いましたが(笑)。

ダルビッシュ:当たり前ですよね? だって、自分がしたいように、自由に生きたらいいじゃん、と言っただけですから。みんな、自由なわけだから。僕は、学校に行くなと言っているんじゃなくて、(彼が)自由に生きたらいいと言ってるだけです。
もちろん、義務教育の問題だったり、親としての責任という問題はあるかもしれない。
でも、それじゃあ、その家庭の事情も知らずに、義務だからっていって、無理に学校へ行かせて、それが本当に嫌やったのに無理に行かせて、例えばその結果、自殺ってなった時にはどうするのか、という話にもなるし。極端な例ですけど。

「じゃあ、本当に自由にしろって言って、学校に行かへん人が増えて、それであかんかったらお前が責任取れよ」って言う人いるけど、じゃあ、そもそも国が用意している義務教育を受けた結果、「全然ダメでした、何も成功しませんでした」っていう人を国は責任を取らなあかんのかっていう話になってくるじゃないですか。
だから、そういうこともひっくるめて、自分の人生なんだから好きに生きたらいいし、他人は他人の人生に責任を持てないわけだから、何も言うべきではないっていうのが、自分のスタンスです。

そうですよね。つまり、他人がとやかく言う問題じゃないよ、ってことなんですよね。ダルビッシュ:本当、そうなんですよ。浮気とか不倫についての報道もそう。「他人に何の関係があるの?」って。全く会ったこともない、喋ったこともない人たちが、人格否定も含めて、言いたい放題言うでしょ。当人たちが言うんやったらまだわかるけど、関係のない人たちがどんどん出てくるでしょ、日本って。

最近だと、ピエール瀧さんの大麻所持事件についての時もすごかったです。電気グルーヴの相方の石野卓球さんに対して、「謝れ」という意見がすごく出て。それに対して、石野卓球さんが自身のTwitterアカウントでストロングスタイルでやり返したのは痛快でしたが、あの「謝れ」という圧力は本当にすごかったです。ダルビッシュ:そもそも、誰に「謝れ」って言ってるのか、という話ですしね。もちろん、ピエール瀧さんがスポンサーや関係者といった、迷惑をかけた人たちに謝るのは必要だとは思いますよ。でも、関係のない世間の人たちに謝る必要とかは、全くないと僕はずっと思ってます。

そうですね。だから、今回の10歳のYoutuberの件でも、「本当にそれで責任取れるのか」というようなことをダルビッシュ選手に言ってくるのが、本当にすごいなと。ダルビッシュ:本当に、単純にアホなんだと思います。でも、実際にそういう人たち、多いじゃないですか。本当にわからへん。いや、やっぱり、暇なんでしょうね。暇で仕方なくて、もうなんやろ、たぶん自分の人生に不満を感じてるから、ああやって人に対して、「あーだこーだ」言いたいし、マウントを取りたがるというか、そういう部分がすごくあるような気がします。

これって根本的には、日本という国の問題ですよね。以前と比べて、日本には幸せを感じながら生きている人がすごく少なくなっているんじゃないかという気がします。ダルビッシュ:数年前にアメリカで育った人から聞いた話があって、日本では美術の授業で「この花瓶の絵を描いてください」と言われるのが、アメリカだと「自分の好きな絵を描いてください」と言われると。その時点でもう、全然想像力が違ってくるわけですよ。僕は、中学も高校も学校で野球やってるわけですけれど、もう自主性なんて実質ゼロなわけなんですよ。
基本的には、99.9%の高校生は自主性なんかゼロなわけです。たぶん、教育ですべてそうなってしまってる。だから、大人になってからも、自主的に行動できない。つまり、そういう環境から、自分たちで自分たちを守るしかない、という話なんですよね。

自分と絡むことによってチャンスにつながるのは「すごくいいこと」

ダルビッシュ選手のTwitterでのやり取りで、楽しく拝見させてもらっているのが、お股ニキさん(@omatacom)やraniさん(@n_cing10)といった、野球について独自の視点で発信している人たちとの絡みです。そもそも、プロスポーツ選手と一般の人が、野球の技術論や分析について、ガチでやり取りする、ということ自体が革新的でした。しかも、やり取りを続けていくうちに、彼らもだんだんとダルビッシュ選手へのリスペクトがちゃんと高まっていって、とても良い関係になってきたように思えます。今では、そのやり取り自体が、より深く野球を楽しむためのコンテンツになっているなと。ダルビッシュ:自分のようにプロの現場でやっている選手とそうじゃない人たちのつながりというのはこれまで全くなかったわけじゃないですか。でも、それがこうやってつながってくると、お互いの信頼関係も出てくるし、向こうもよりちゃんと自分の姿勢を正して接してきてくれる。
僕からしても、やってる当人たちにはわからない、実際にプレーしてない人たちにしか見えないものもたぶんあるだろうから、そこには学びがある。そういう意味で相乗効果は間違いなくあるし、こういったことも野球界を活性化していけるきっかけになれば。

しかも、お股ニキさんに関しては、野球評論家として本まで出版しました(『セイバーメトリクスの落とし穴 マネー・ボールを超える野球論』/光文社新書)。ダルビッシュ:いや、それが本当にけっこう売れているみたいで。本人からは、「もう一回死んだような人間が、またこうやって何かチャンスをもらえて、本当にありがとうございます」なんて言われて。なんというか、もう本当にダメだったらしいんですよ。いろいろと結構波乱万丈な人生だったらしくて。
詳細についてもいろいろと聞かせてくれて。それがこういう形で本も出せて、印税でそこそこ儲かっているらしくて、本当にそれは良かったなと。自分と絡むことによって、ああやって本を出せたり、ビジネスのチャンスにつながったりすることによって、積極的にいろいろと発信する人もまた出てくるかもしれない。そういったことも含めて、すごくいいことだと思います。

Twitterでの発信を見ていても、お股ニキさん、すごく元気が出てきて発信の質や量も上がってますよね。ダルビッシュ:だから言ったんです。「調子に乗って、『俺はわかってる』とかそういうことは絶対に言わないようにしたほうがいいですよ」って。うまくいった時こそ、謙虚にいるべきだと思うので。本人も、「わかりました。絶対に謙虚にいきます」って。おそらく、自分より年上なんですけどね。

そこまでコミュニケーション取ってるんですか! すごいですね。ダルビッシュ:DM(ダイレクトメッセージ)でやり取りして、いろいろと聞いてますよ。「今、何万部売れてるんですか?」とかも聞いてます。「今、何万部くらいで、良い感じです」と返事が来るので、「じゃあ、引き続き謙虚にいきましょう」と。やっぱり、いきなり日の目を浴びた時って、人間ってガッっていっちゃうじゃないですか。そういう人、たくさん見てきたので。で、そうなると周りに引かれて、結局うまくいかなくなる。だから、とにかく謙虚にと。

この『REAL SPORTS』でも、お股ニキさんやraniさんへの原稿のオファーも含めて、ぜひ進めたいと思います。ダルビッシュ:いいと思いますよ。ああいう人たちのコーナーだったりをやることで、彼らにもビジネスチャンスが生まれるだろうし、メディア側も得るものがあるだろうし。
あと、ぜひやってほしいのは、メジャーリーガーへのインタビュー。それも、超メジャーな大御所じゃなくて、例えば(カイル・)ヘンドリックス(シカゴ・カブス所属)とか。
彼はカブスのブルペンの中でもコントロールが図抜けてるわけですよ。例えば、彼のあのコントロールはどうやって培ったのか、うまくいかなくなってコントロールが乱れた時にはどうやって修正したのか。あとは、1週間のルーティーン、過ごし方を細かく聞くとか。
今の流れだと、メジャーで流行ったトレーニングや技術論が、3年遅れくらいで日本に来てるから、メジャーの選手たちが今何を意識して、どんなトレーニングをやっているのか、というのは日本の選手たちも絶対に知りたがってるわけですよ。もちろん、こっちのメディアではそういう記事も出るけれど、英文の記事を読めない人もいっぱいいるし、絶対に需要はあると思います。

あと、トレバー・バウアー(クリーブランド・インディアンス所属)というピッチャーが、今年のオフ、11月に日本に行くみたいなので、そのタイミングに合わせて菅野(智之/巨人所属)との対談を組むとかも、絶対に面白いと思う。まあ、どれくらいお金がかかるかわからないですけれど(笑)。
でも、単純に「対談を組ませてくれ」と言ったら高いだろうけど、「あなたたちのインタビューでの、対談での発言が、日本の野球を成長させるきっかけになるんです。
日本の野球の未来のために必要なんです」って言ったら、意外と「じゃあ俺、頑張る」となると思いますよ。粋に感じて。とにかく、そういうチャレンジをぜひメディアでもしてもらいたいです。

面白いアイデア、ありがとうございます! 確かにハードルは高そうですが、ぜひ、前向きに進めさせてもらいます。

<了>

PROFILE
ダルビッシュ有(ダルビッシュ・ゆう)
1986年生まれ、大阪府出身。MLBシカゴ・カブス所属。東北高校で甲子園に4度出場し、卒業後の2005年に北海道日本ハムファイターズに加入。2006年日本シリーズ優勝、07、09年リーグ優勝に貢献。MVP(07、09年)、沢村賞(07年)、最優秀投手(09年)、ゴールデングラブ賞(07、08年)などの個人タイトル受賞。2012年よりMLBに挑戦、13年にシーズン最多奪三振を記録。テキサス・レンジャーズ、ロサンゼルス・ドジャースを経て、現在シカゴ・カブスに所属している。

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