やる気が出ないのはテストステロン不足のせい? “仕事力”と男性更年期

男性ホルモン「テストステロン」の急激な減少は、男性更年期に代表される様々な病気を引き起こすだけでなく、“仕事力”にも大きく影響します。そこで、テストスロンに対する理解とテストステロン不足への正しい対処法を、メンズヘルスの第一人者である順天堂大学泌尿器科の堀江重郎教授に教えていただきました。テストステロンは女性にも大いに関係のあるホルモン、男性のみならず女性も必見です。


うつ患者の7割がテストステロン不足

やる気が出ない、イライラする、よく眠れない、疲れやすい――。最近、このような症状に悩まされている人はいませんか。仕事でミスも増え、まだ若いのに記憶力も悪くなった、もしかしたらうつ病かもしれないといった疑いを抱いたり……。でも実は、その精神・体調不良はあなたの男性ホルモン「テストステロン」が減っているせいかもしれないのです。

最近存在が知られるようになった「男性更年期」(LOH症候群=加齢男性性腺機能低下症候群)。いわゆる女性の更年期障害と症状が似ており、何となくだるかったり、怒りっぽく、仕事もはかどらない(図1)。このLOH症候群は、年齢に関わらず、まさにテストステロンが著しく減ってしまうことで引き起こされます。症状が精神的なものに及ぶため、一般的なうつ病と誤解されがち。

男性更年期の症状は?

日本で初めて男性更年期外来を設立し、メンズヘルスの第一人者である順天堂大学泌尿器科の堀江重郎教授によれば、「うつとLOH症候群はよく似ていて、密接に関係もしています。実際、うつ患者の7割以上にテストステロン不足が見られる。それにも関わらず、テストステロン値を下げてしまう抗うつ剤でかえって悪化させているケースがある」。

ただ休むだけでなく、具体的にテストステロンを補充しないと症状は良くならない場合があります。

「最近笑っていない、新聞が読めなくなった(世の中に関心を持てない)、よく眠れない。この3つの自覚症状がある人は特に要注意」。(堀江教授)

ほかにも、小言が増えた、ちょっとしたことで腹を立てる、昼夜を問わず頻尿になる、何をするにも億劫などの症状があった場合、男性更年期やテストステロン値の低下を疑ってみることも大事だそう。

精神症状だけではありません。テストステロンは血管や筋肉、神経をしなやかにするNO(一酸化窒素)を出す働きがあります。そのため、テストステロンが減るとNO不足が起き、血管のしなやかさが失われて老化が進行。高血圧、糖尿病、がん、心臓病などの身体の病気のリスクも軒並み上昇すると考えられています。

近年、患者が増加傾向にある、非ウイルス性・非アルコール性の肝障害も、テストステロン値の低い人に多く見られることが判明するなど、今、テストステロンは、心身ともに健康上、重大な影響を及ぼすホルモンとして、その研究が注目されています。

やる気と長寿に関わるホルモン

そもそも、テストステロンとはどういうものなのでしょうか。なぜ、「やる気」といった精神にまで影響を及ぼすのでしょうか。どんな理由で減り、どうしたらその減少を防げるのでしょうか。

テストテロンは男性ホルモンの一種のため、あたかも男性のためのホルモンというイメージがあるかもしれません。しかし、男女ともに持っている基本的なホルモンです。男性の場合は、精巣(睾丸)と副腎、女性の場合は、卵巣、脂肪、副腎でおもに作られています。最近では、脳の海馬でも作られていることが判明しました。

男性ホルモンと名付けられているだけに、テストステロンは筋肉を作る、骨格をがっしりさせるなど男らしさを形作る重要な働きをしています。一方で、前述したように血管や神経をしなやかにすることに関係し、脳における認知機能に大きく影響を与え、女性にも同じように作用します。

より具体的には、睡眠に関係する体内時計を調整し、記憶を司る脳の海馬でも作られることなどから記憶力にも強い関わりがあります。テストステロンが多いと、情報をたくさん引っ張り出すことができます。こうした特性のため、テストステロンは身体はもちろん、精神面でのやる気、判断力、決断力に大きく影響を及ぼします。

「大昔であれば、狩りに行って獲物をとって戻ってくる、現在でも大胆にリスクをとる行動の源、挑戦したり、自分を表現したり、意思を主張したりといったときに必要なのが、テストステロンです」(堀江教授)

テストステロン値が上がると、自己主張したり、大胆に行動するようになり、その結果、周囲に自分を認めてもらって、やる気が出たり、元気になります。

「同時に、縄張り意識や仲間意識も強くなり、公平さや正義を大事にするようにもなる。余裕ができて、他人のことがいい意味で気にならなくなり、いい意味での鈍感力も生まれる。逆にテストステロン値の低い人は、鈍感になれず、他人のことを考え過ぎてしまい、それがストレスとなって、うつ病を発症しやすくなることが考えられます」(堀江教授)

さらに、テストステロンは、前述したように病気のリスクを左右するだけでなく、長寿にも直接関係することがわかっています。

長寿に関係する染色体を伸ばす働きをするのです。また、女性の場合、特に閉経後の女性にとっては、テストステロンは女性ホルモンを補充する働きもします。そのため、女性にとっても健康上、女性ホルモン同様に無視できない重要なホルモンなのです。

では、なぜテストステロンは減るのでしょうか。また維持するにはどうすればいいのでしょうか。続きは近日公開。

取材協力

堀江 重郎(ほりえ・しげお)

順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科外科教授。日本泌尿器科学会指導医。日本Men's Health医学会理事長。1960年生まれ。東京大学医学部卒業。日米で医師免許を取得し、帝京大学医学部泌尿器科主任教授などを経て、2012年より現職。日本初の男性外来であるメンズヘルス外来を開設した。2012年より現職。著書に『うつかな?と思ったら、男性更年期を疑いなさい』(東洋経済新報社)『ホルモン力が人生を変える』(小学館101新書)、『ヤル気がでる!最強の男性医療』(文春新書)など。

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