カナダ戦で8回1失点18Kの快投、抜群の制球力で無四球「見ていて全く心配がない」
■日本 5-1 カナダ(5日・機張)
韓国・機張(きじゃん)で行われている「第29回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」(全試合テレビ朝日系列・BS朝日・AbemaTVで放送)は5日、スーパーラウンド初戦が行われ、野球日本代表「侍ジャパン」高校代表はカナダに5-1で勝利した。大会初登板初先発の奥川恭伸投手(星稜)が7回18奪三振無四球、2安打1失点と快投。ハイレベルな投球内容でプロを唸らせ続けている。
今夏の甲子園でも圧倒的な投球を見せ、星稜を準優勝に導いた奥川。この日は21個のアウトのうち実に18個を三振で奪った。ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜の4球団で捕手としてプレーし、昨季まで2年間はヤクルトでバッテリリーコーチを務めた野球解説者の野口寿浩氏は、今秋のドラフトで競合が予想される右腕について「やはり力は1つ抜けた投手」と絶賛。楽天時代の田中将大(現ヤンキース)を彷彿とさせると評価した。
カナダの打者は手も足も出なかった。4回にソロ本塁打を浴びて1点を失った奥川だが、その他は完璧な投球。2回と6回の3者連続三振、5~7回にかけての6者連続三振を含む18奪三振。奪ったアウトの86%が三振という信じられないピッチングだった。
野口氏は「初めは真っ直ぐ中心で、途中からスライダー2種類を使い分けていました。大きく曲がるスライダーと小さく曲がるスライダー、あの2つをしっかり投げ分けられますし、大したもの。本当にすごい投球でした」と絶賛。8月22日の履正社との甲子園決勝以来、14日ぶりのマウンド。疲労の回復に専念していたため、今大会の登板はこれまでなかったが、直球、変化球ともに申し分のない切れ味だった。
さらに圧巻だったのは、甲子園の投球から絶賛されてきた制球力。野口氏も奥川の最も素晴らしい点について「コントロール」と言い切る。
「150キロオーバーの真っ直ぐを投げられて、スライダーもキレている。それであれだけコントロールされたら、まあバッターは打てないでしょう。逆に、カナダは4投手で四球を10個も出していました。だから、日本はヒットを3本しか打てていないのに5点を奪えた。四球はピッチャーのエラー、ミスです。そういう点を踏まえても、奥川の投球は見ていて心配が全くない。2ボールになっても、絶対に四球がないと思えますから」
ドラフトでは競合が確実「1つ抜けた存在」、高い完成度も「まだまだ伸びそう」
野口氏が奥川の投球を見てすぐに頭に思い浮かんだのが、楽天時代にNPBの打者たちを圧倒し、2013年に24勝0敗という空前絶後の成績を残してメジャーに活躍の舞台を移した田中だという。
「あれだけのスピード、切れ味のあるスライダーがあって、あれだけコントロールがいい投手というのは、プロでもなかなか見ません。楽天で投げていた頃の田中を思い出します。田中も四球を出さないでバンバン勝っていました。あの頃の田中と同じくらいの逞しさを奥川には感じます。そういう雰囲気を感じさせるピッチャーですね。将来が楽しみです」
オープニングラウンドでは西純矢投手(創志学園)も快投を見せてチームを牽引。ドラフトでは「(西の)単独指名もありえる」と予想していた野口氏だが、奥川は高校時代の松坂大輔投手や田中に匹敵するような、即戦力として魅力的な投手だという。163キロ右腕の佐々木朗希投手(大船渡)とともに、ドラフトの目玉となることは間違いない。
「(力が)1つ抜けているなと、この試合の投球を見せて再認識しました。西も素晴らしいと思いましたが、奥川はやはり1つ抜けている。あとは獲得した球団がどうするのか。1年目はオールスターまでは出さないとか、そういう形になるかもしれませんが、体さえ大丈夫であれば、開幕から先発ローテーションで回していきたい投手です。田中もルーキー時代から体の強さは抜群でしたから。故障のリスクさえなければ、奥川も最初から使いたい」
まさに絶賛の言葉が並ぶが、奥川の“課題”を挙げるとしたら「落ちる球」が必要になってくると野口氏は言う。ただ、それすらも奥川の“魅力”。これだけ完成された投手でありながら、まだまだ伸びしろがあると感じさせる。
「落ちる球というか、“抜き球”の精度がもっと上がればより良いでしょう。フォーク、チェンジアップは左打者対策としてあったほうがいい。今日は相手が初見で、スライダーを内側と外側に投げ分けていました。左打者には内角へのスライダーが効いていましたが、逃げていく球、落ちていく球もあったほうが幅が広がります。あれでフォークがあればまず打たれないでしょう。完成度が高いけど、まだまだ伸びそうな投手です。落ちる球、“抜き球”を覚えて、体力をつければ……。安心感があって、ワクワクさせてくれる。そんな投手ですね」
智弁和歌山戦での23奪三振、この試合での18奪三振など、甲子園から度肝を抜く投球を続ける奥川。元々高かった評価は、さらにうなぎ登りとなっている。(Full-Count編集部)