山本周五郎の傑作小説!2020年のドラマ化にも注目!

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本作は、小説『樅の木は残った』(もみのきはのこった)や『日本婦道記』(にほんふどうき)などで知られる、山本周五郎の時代小説です。1963年の刊行以来、映画・ドラマ・舞台と数々の展開を見せ、2020年1月以降には、テレビドラマ化も予定しています。今回は、長く愛され続けてきた傑作『さぶ』のあらすじ・見所を紹介していきます。

小説『さぶ』が面白い!ドラマ化決定!【あらすじ】

江戸の表具・経具(ひょうぐ・きょうぐ)の名店・芳古堂(ほうこどう)に奉公する2人の少年、さぶと栄二。目端が利き、見た目もよく仕事もできる栄二と、不器用ながら心根の優しいさぶ。対称的な2人は、支え合いながら深い絆を育んでいきます。

しかし、23歳になった栄二に思わぬ苦難が襲いかかります。

突然、彼は窃盗の濡れ衣を着せられ、罪人として人足寄場(にんそくよせば)へ送られてしまうのです。心身ともに深く傷ついた栄二は、人間不信になり、自分を不当に扱ったすべてに復讐することを誓うのでした。

そんな栄二を信じて待ち続けるさぶや、栄二を慕う女たち。復讐のために断ち切ろうとした「絆」が彼をつなぎ止め、寄場の人間たちとの新しい絆が生まれることで、彼の心は再生し始めるのでした。

しかし、希望を見いだしたその行く先に待ち受けるのは、栄二の人生を狂わせた「冤罪事件の真相」。事件の犯人が明かされ、すべてを知った栄二が下す決断は、復讐か、それとも……?

さぶ (新潮文庫)

作者:山本 周五郎
出版社:新潮社
出版日:1965年12月28日

見返りを求めない人と人との結びつき、強さと弱さという矛盾を抱えた人々の織り成す心のつながり。さぶと栄二の友情を主軸に、絆を描く本作は、過去に2回もテレビドラマ化されています。

また、複数回の舞台化もされており、多くの人の心に訴えかける作品だといえるでしょう。

2020年には、NHKのBSプレミアム「山本周五郎ドラマさぶ」として、3度目のドラマ化放送も決定しています。キャストは、栄二役を俳優・モデルの杉野遥亮(すぎのようすけ)、さぶ役を俳優・森永悠希(もりながゆうき)が演じると報じられ、若手俳優のW主演ということもあり、さらに注目が集まっています。

作者・山本周五郎とは?

著作の多くが映画・ドラマ・舞台・オペラ化などされ、長く、そして深く愛されてきた作家・山本周五郎の魅力とは、どんなところにあるのでしょうか。

1903年生まれ、本名・清水三十六(しみずさとむ)。広く知られるペンネームは山本周五郎で、1926年「文藝春秋」に掲載された『須磨寺附近』(すまでらふきん)がデビュー作。1967年に享年63歳で亡くなり、2017年には没後50周年を迎えました。

1943年、『日本婦道記』で第17回直木賞に選出されるもこれを辞退。同賞を受賞決定後に辞退した史上唯一の人物となります。

以後も賞とされるものは辞退し、「面白いという読者の声が一番の賞で、それを十分にいただいているから」という趣旨の声明を出されています。

ながい坂 (上巻) (新潮文庫)

作者:山本 周五郎
出版社:新潮社
出版日:1971年07月19日

すぐれた物語性を有する小説・文芸書に贈られる文学賞に、山本周五郎賞があります。このことからも、彼の残した著作は非常に良質な物語として、評価を受けていることがわかります。

なかでも「人間の究極の姿」を求め続ける作品の気風は、読者の心を掴み、老若男女を問わず現在も愛されているのです。

代表作のひとつに数えられる『ながい坂』は、下級武士の子として生まれた主人公の、孤独で厳しい半生を描いた作者最後の長編小説。

人生をながい坂道のように歩き続ける、主人公の苦難の道のりのなかで、絶えず人間らしさを求める心は「周五郎文学の到達点」を示すとも言われています。

小説『さぶ』の面白さをネタバレ解説!:個性的な登場人物を紹介!

本作品には、魅力的な登場人物が数多く登場します。彼らの魅力を紹介していきます。

さぶ

表題にもなっている主要人物・さぶ。「おら、思うんだが」という口癖に表れるように、要領が悪く人に使われやすい、損な性分の持ち主です。

しかし、彼の愚直なまでの誠実さは、本作のなかで一際輝く「人間の美しい側面」を見せてくれます。さぶの安心感は、物語の根底に温かい血を通わせてくれるでしょう。

栄二(えいじ)

本作の主人公、物語の視点でもある人物です。イケメンで仕事もできる男ですが、なまじ能力があるだけに、ついワンマン思考になりがちな一面も。そして、強いカリスマ性を持つ栄二は、その反面、自身の上から目線ぶりには無自覚です。

若さゆえのアンバランスさ、危うい雰囲気を隠しもしない尖った男。しかし、見えないところで自分を支えてくれている、多くの人々の存在に気づくとき、彼の心の成長が促されることになります。

本作は、人と人との絆の在り方、そして栄二の心の成長の物語でもあるのです。

おのぶ

冒頭、まだ15歳のさぶと栄二が出会った少女・おのぶ。成長して再会した後は、さぶと栄二を支える男前っぷりが強く印象に残るでしょう。頭の回転が早く口達者なので、偏りがちな栄二の思考に「別の解釈」を語ってみせてくれます。

歯に衣着せぬ物言いと勝ち気な性格。しかしそんな彼女は、栄二を一途に恋慕うという乙女心も持ち合わせています。

強くたくましく、存在感を放つ彼女ですが、ある場面でたった1回だけ「弱さ」を見せます。その涙は、彼女の持つもの哀しさを、ひしひしと感じさせてくれるでしょう。

おすえ

栄二は、多くの女性から想いを寄せられます。しかし、彼が選んだのはおすえでした。おのぶほど強気でなく、さぶほど気弱でもないおすえ。彼女は、栄二への狂おしいほどの恋心を秘めて、ひっそりとそこにいるのです。

さぶ、おのぶと比べるとインパクトがあまりない……と感じることもあり、人によっては「なぜ栄二が選んだのは、おのぶではないのか?」と思われるかもしれません。

しかし、栄二が彼女以外を選んだ場合、本作の読了感である「いとおしさ」「もの哀しさ」は失われてしまうのではないでしょうか。

闇落ちともいえる栄二の変貌、そして救済と再生は、彼女と心の底から夫婦になることで果たされるため、じつはもっとも重要なキャラクターでもあります。

小説『さぶ』の面白さをネタバレ解説!:俺様男子VS男前女子?栄二とおのぶの掛け合いが面白い!

本作の見所のひとつに、栄二とおのぶの掛け合いが挙げられます。キレ者同士ではありますが、2人の考え方はまったく違うもの。

そのため、栄二の意見におのぶが異を唱えるという場面が多くみられるのですが、この掛け合いが面白く、とても読みごたえがあります。

基本的に「俺様思考」の栄二と、清濁あわせ飲む柔軟さをもつおのぶ。意外と乙女のような潔癖発言をする栄二を、バッサリと言い含めるおのぶ、なんて場面では思わず笑ってしまいます。

どちらの意見もどこか共感できる部分があるので、ぶつかり合う2つの意見のどちらに軍配を上げようかと、つい考えてしまうでしょう。

小説『さぶ』の面白さをネタバレ解説!:いつまでも心に残る名言を紹介!

本作には、たくさんの名言が登場します。選りすぐりの名言を紹介していきます。

「(中略)、どんなに賢くっても、にんげん自分の背中を見ることはできないんだからね」
(『さぶ』より引用)

栄二を心配して、人足寄場にまで訪問を重ねるさぶ。栄二はそんなさぶに対して、癖のようにきつく当たります。そのとき、寄場での彼を支えてくれる父のような存在・与平(よへい)は、上記の言葉をかけるのです。

人より頭の回転が早い栄二は「鏡を使えば自分の背中は見える」と反発しますが、それでもこの言葉は、彼の心に深く残るものでした。

「人間どうしの問題では、急いで始末しなければならない場合と、辛抱づよく機が熟するのを待つ場合とがある」
(『さぶ』より引用)

寄場の役所元締役・岡安喜兵衛(おかやすきへい)が、寄場で起こった問題を「暴力で解決した」栄二にかけた言葉です。

栄二は、単独の力技で物事を解決しがちなところがあります。しかし、解決方法は暴力一択ではなく、自分だけですべてを解決できるというのは、思い上がりだと気づかされるひと言です。

「夫婦になれば一心同体とさえいうじゃないの、女房が稼げば男はだめになるなんて、それは男が稼いで女を養ってやる、っていう思い上がった考えよ、亭主が仕事にあぶれたとき、女房が稼いでどうして悪いの、男だって女だっておんなじ人間じゃないの、この世で男だけがえらいわけじゃないのよ」
(『さぶ』より引用)

ついに寄場を出た栄二ですが、生活はまだかつかつの状態。栄二の妻となったおすえは内職を始め、苦しい家計を助けますが……

「女房に稼がせるようでは、男は終わりだ」という考えを持つ栄二は、自信をなくしていきます。そんな彼を一刀両断する、おのぶのこの台詞……男前ですね。

小説『さぶ』の面白さをネタバレ解説!:物語の結末は……?冤罪事件の犯人はまさかの……?

さぶ (新潮文庫)

作者:山本 周五郎
出版社:新潮社
出版日:1965年12月28日

プライドの高い栄二は、己に着せられた濡れ衣を晴らすことにこだわり、そのために順風満帆だった彼の人生は狂い始めます。冤罪ひとつですべてをひっくり返され、罪人となった絶望は、栄二を復讐へと駆り立てるのです。

しかし、いくつもの絆や自分を支える存在に助けられ、自身の人間としての未熟さを見つめ直し、成長しようとする栄二。

この事件の真相は、成長し始めた栄二が人足寄場から帰還し、ようやく真っ当に生活をする目処が立った矢先に明かされます。

多くの人が自分を支えてくれている……その人たちのために、もう復讐は考えないと心を新にした栄二の前に、唐突に示されるのです。

彼に濡れ衣を着せた犯人、その意図とは?そして、それを知った栄二が取る行動とは。それは、ぜひ本作を読んで知ってほしい名場面です。

「芝居は主役ばかりでは始まらない。脇役あってこそドラマは成り立つ。」と、作者・山本周五郎が述べています。この物語のタイトルが『さぶ』であることの意味は、栄二視点で語られますが、それは読了後に深く心に染み入るものでしょう。

山本周五郎作品をはじめて読むという方にもおすすめです。