農地バンク5年 借り受け 希望の6割、需要過多

基盤整備して利用しやすくなった農地。「産地を復活できた」と喜ぶ山脇さん=西海市西彼町白崎郷

 高齢化などで耕作が難しい農地を意欲のある農家らに貸し出す農地中間管理機構(農地バンク)の集積制度が始まって5年が過ぎた。長崎県内ではバンクを通して借り受けを希望する人の累計面積は7542ヘクタールあったのに対し、実際に貸し出したのは約6割の4509ヘクタールで、需要過多の状態が続く。制度の趣旨である耕作放棄地の解消に一定効果を上げてはいるが、専門家はマッチング率をより高めるために基盤整備を進め、土地の魅力を高める必要性を指摘する。

 「約40年ぶりに産地を復活できた」。ミカン畑が広がる西海市の白崎地区。土地改良区の山脇初良理事長(69)はバンクを利用して規模を拡大した。今年3月に植栽したミカン苗を眺めながら、数年後の収穫を楽しみにする。
 高齢化に伴い、山のように荒れ果てていたが、基盤整備事業で園内道を確保。機械化が可能になり、作業効率が格段に上がったことで規模を拡大したい農家も集まった。「条件が悪い農地を借りる人はいないが、仕事をしやすくなると農業をやりたい人はいる」。山脇さんは放棄地になるかどうかの境界線は耕作条件が大きく影響すると実感している。
 農地バンクは政府が掲げる農業分野の成長戦略の柱として都道府県に設置。本県は2014年に発足した。離農者の農地や耕作放棄地を借り受け、法人経営や集落営農など地域の担い手に貸し出す。各市町と協力してマッチングを図っている。
 制度は人手不足が進む農業分野への新規就業を後押しする側面がある。佐世保市鹿町町でキクを栽培する大円坊慶子さん(29)は制度によってスムーズに就農できた一人。新規就農での農地の貸し借りはトラブルも懸念されるが「バンクが間に入ったことで安心感があった」と話す。
 さらに外国人材を受け入れる際の受け皿としても可能性を秘める。島原市の増田青果は3年前、ベトナムから実習生を4人受け入れた。年内にもミャンマーからの実習生を受け入れる予定で、取締役の木原夏代さん(54)は「新たに農地を借り、耕作面積を広げられた。今後軌道に乗せることができれば」と好循環を期待する。
 一方、課題は需要過多が続いている点。5年間で農地の借り受けを希望した農家は約5700戸。対して実際に借りたのは約4400戸で農家らの需要を満たせていない。
 背景には本県が地理的に中山間地域が多いことがある。小口分散している農地は機械搬入による省力化が難しく、借り手が見つかりにくい。ここ数年の県内耕作放棄地の解消面積は年間目標の535ヘクタールに満たず、17年度の耕作放棄率は28%と全国平均の6%を上回っている。
 みずほ総合研究所政策調査部の堀千珠(ちず)主任研究員は、利用しやすい農地を増やす必要性を挙げ「小規模農地の所有者に対し、複数の農地をまとまった形に集約化していくように働きかけることが行政に求められる」としている。

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