【U-18W杯】侍J最強投手陣も国際大会で露呈した課題 惨敗の裏にあった曖昧さと不透明さ

侍ジャパンU-18代表は世界一を逃した【写真:荒川祐史】

豪州に敗れ決勝進出を逃した日本 最終順位は5位で大会を終えた

 韓国・機張(きじゃん)で開催されている「第29回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」(全試合テレビ朝日系列・BS朝日・AbemaTVで放送)は7日、スーパーラウンドの最終戦が行われ、野球日本代表「侍ジャパン」は豪州に1-4で敗れ、決勝進出を逃し、今大会は5位で幕を閉じた。今回も悲願の世界一は達成できなかった。各部門で多くの課題が残された。

 国際大会で課題とされていた木製バットの対策は、ボールをバットにコンタクトさせるという面では改善されたように見えた。今大会の打率.259も、5本塁打はカナダに並ぶトップの本数。永田裕治監督も「だいぶ対応はできるようになっていたと思う」と語るほど、下馬評を覆す打撃を見せたといってもいい。

 もうひとつ注目すべき点は犠打の数。日本は10個を数え、これも全チームの中で最多をマークしている。日本のライバルとされていたアメリカ、韓国、台湾は順に0、5、3と確実に1アウトを消費する犠打を好まなかった。今大会では球数制限が設けられ1試合49球以下は連投が可能。50~104球は中1日が必要となり、105球に達した場合は中4日の間隔が必要となった。高校野球では1球で送りバントを決めることで「流れを作る」と言われるが、球数制限のある国際大会にその常識は通用しない。むしろ相手投手を助けることにつながる。スーパーラウンド初戦のカナダ戦では制球に苦しむ相手投手に簡単にバントでアウトをひとつ与えてしまったように見えた。

 ストレートの四球で出塁した次の打者が初球を送りバント。1死二塁と得点圏に走者を送ったが8、9番の下位打線は凡退し得点はならなかった。この日の先発は奥川。1点あれば十分という考えもあっただろうが、無死一塁の得点機を何度も逸するケースが多かった。今大会は台風の接近に伴い、降雨コールドが想定されていたため、早い段階でリードする必要があった。だが、パワーで勝る相手が多い国際大会では最少得点で乗り切れるほど甘くない。実際にアメリカ、韓国、台湾の打線は簡単にアウトを与えず打ってつなぎ、ここぞの場面での集中打が目立っていた。

 投手陣の起用方法には現場の選手には戸惑いがあった。当初は佐々木朗希、奥川恭伸、西純矢、宮城大弥の4人を先発の軸にして戦うプランだったが、佐々木は右手中指のマメ、奥川は甲子園での蓄積疲労がひどく、計算が狂った。甲子園の決勝を戦った奥川の状態を見てから決めることになったが。奥川の合流は3日遅れた。8月26日の大学壮行試合では佐々木が右手中指の血豆で投球ができなくたった。期待していた2人の起用が白紙になった。

何度も肩を作っては…登板せず、佐々木の緊急降板は前日の投げすぎだった

 そのため、投手の起用はスクランブル。日本を代表する投手陣が揃い「どんな状況で適応する能力が必要」と言われればそれまでだが、ブルペンでは数人が慌ただしく肩を作る場面が多く先発、リリーフ、抑えと役割がはっきりしないまま出番を待つ投手が多かった。何人かの投手が試合後「作るタイミングが難しかったですが…」と口にしていた。肩を作ってはベンチに戻り、また作って、起用されず。前日でブルペンでたくさん肩を作った投手が次の試合で登板し、ボールに力がなかったり……。佐々木もそれで完治したと思われた右手中指の血豆が再発。しっかりと登板の役割ができていた米国との差は明らかだった。

 国際大会ならではのドタバタ劇もあった。韓国戦に敗れ自力での決勝進出が途絶えると、決勝進出の条件に注目が集まった。7日のオーストラリア戦に勝ち、台湾、アメリカが敗れれば4チームが3勝2敗で並ぶ可能性があった。WBSCのレギュレーションではまず優先されるのが当該の対戦成績だったが、4チームになった場合は急遽それは適用されずに平均得失点差の「TQB」での比較になると通達された。

 それをオープニングラウンドを通じての当該チームの試合の計算か、それともスーパーラウンドの試合の計算かの明文化がなく、チームも何度も確認作業に追われた。日本のチーム関係者が「どうやったら日本は決勝に行けるの?」と試合前に報道陣に尋ねるほど。チームはそれがわからないまま、豪州戦に入って行った。試合に負けた直後に永田監督はTVインタビューで「明日も試合がありますので」と口にしてしまったのは、その不透明なルールのせいだった。

 守備の不安定さも露呈した。一番の敗因は8試合で9個あった失策だ。7失策が内野手。本職が遊撃手を多く集めたが、一塁手が本職の選手はいない。失策には表れないミスも多くあった。選手は20人しか選べない。その中でどこを優先するかで偏りが出るのは仕方がない。

 投手もできて、複数ポジションができる選手が主に選ばれたが、野手で出場した試合に打者でも出る西や宮城にかかる負担は大きかった。2人は本当によく頑張った。だからこそ、もっと心の準備をする時間を与えて、よりよいパフォーマンスを発揮してほしかった。メンバー選考は多くの日本高野連スタッフ、首脳陣が長い時間をかけてやってきた。今回の敗戦を糧にしなくてはならない。

 すべてに共通するのは「曖昧さ」「不透明」「戸惑い」。これを監督、スタッフ、コーチ、選手が感じていた。明確にできないとまだまだ日本のこの世代が世界一になるのは遠い。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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