藤田恵名(シンガーソングライター)- 『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』憑依して演じた純粋な殺し屋

撮影後もしばらく目つきが殺し屋でした

――まずは西村(喜廣)監督とタッグを組むことになった経緯を伺えますか。

藤田:MVはホラーを得意とされている監督たちに撮っていただくことが多かったんですが、その縁もあって西村監督にMVを撮っていただけることになりました。以前に出演させていただいた大畑(創)監督の『EVIL IDOL SONG』の現場スタッフのみなさんが西村監督とご一緒される方も多くて、「いつかやることあるんじゃない」と話しをしていたんですけど、今作で伏線の回収ができた気持ちになりました。

――実際に組んでみての感想を聞かせてください。

藤田:作品やルックスはインパクトのある方なんですけど、実際はとても気さくな方です。どう演じたらいいか不安だったのですが、良い・悪いかをはっきり言ってくださるので、うまく導いていただけました。

――今回の映画の話しを最初にいただいた際のことを伺えますか。

藤田:私は映画を見たり本を読んだりすると、その世界観に入り込んでしまって辛くなるんです。大丈夫かなと不安があったのですが、今回も案の定のめりこんでしまって、撮影が終わってもしばらく目つきが殺し屋でした。

――脚本を読んだ時の感想を伺えますか。

藤田:最初は、ビジュアルや日の丸や弁当箱で人を殺すってどういうこと、ってビックリしました。西村監督ならではの世界観をどう体現できるかなと悩んだりもしましたが、やるからには思いっきりやろうと思いました。運動神経にはそれほど自信がないんですが、「死に物狂いで殺そうとしている姿が伝わればいい」という開き直りで、なんとかいけました。

――今回演じられた、キカというキャラクターについて伺えますか。

藤田:悪を罰する、その点にすごく忠実で、実際に殺してしまえる強さを持っているんですけど、本当はすごく純粋なキャラなんだと思います。物語の中で、キカが女の子に出会って、キカの知らなかった世界を知って、心の変化が起こって人間としての優しさが垣間見えるシーンがあるんですが、そういうシーンを客観的に見て、可愛い女の子だと思っています。そして純粋すぎるがゆえに虚しい・悲しいキャラだとも感じました。演じているときは感情移入しすぎて泣いてしまうくらい憑依しましたが、キカを演じられてよかったなと思います。

尖っている人と尖っている人

――MVと長編映画で演じる中で、違う部分はありましたか。

藤田:どちらも監督がしたいことを表現しようと演じるので、基本的な部分は同じです。MVを見た方から怖い人だと思われることも多いですし、今回も殺し屋なので同じように受け止められてしまうかもしれませんが、実際の私は違うということは言っておきたいですね(笑)。

――(笑)。『言えない事は歌の中』という楽曲・MVから生まれた作品とのことですが、最初にあのメイクを客観的に見られていかがでしたか。

藤田:「うそでしょ、ギャグかな?」と思いました。実際に初めて鏡で顔を見たときは、主演映画なのに私じゃなくてもいいじゃないか、と多少の絶望がありました。今となってはこの世界観じゃないとできないメイクなので、愛着も湧いてきてかわいらしくも思っています。ただ、洗ってもところどころ髪に白い粘土が残ってしまったり、アザをつくってしまったこともあり、グラビア活動に支障が出てしまったので、その面では大変でした。

――キカという名前はMVの時点からあったのですか。

藤田:ありました。その点からも、西村監督はこの作品にすごく強い思いを詰め込んでくださっているんだと感じています。

――キカも斬新な役ですが、作品の世界観も西村監督の思いが反映されていて凄いですね。

藤田:そうですね。武器にわかりやすい拳銃とかではなく、日本のお弁当という文化を置いている点も西村監督なりのメッセージが込められているのかなと思っています。私もキカを説明しやすいです。「弁当箱で人を殺します。」でつかみはOKみたいな(笑)。

――インパクト大ですね。キカのがっちり髪を固めて日の丸メイクは大変だと思いますが、メイクをしてのシーンはいっぺんに撮ったのですか。

藤田::いえ、撮影期間中はほぼあのメイクで撮影しました。撮影後にお風呂を探すのも大変だったので、「家で落とします」と言ってフードをかぶってメイクのまま帰ったこともあります(笑)。

――今作では主演とともに主題歌も担当されていますがその点について伺えますか。

藤田:役も奇抜で、攻め続けているという点で後には引けない恐怖もありますが、MVと映画を一緒にやるということはなかなか出来ることではないのでありがたいです。MVや映画の映像作品としてのコンセプトは監督のもので私のものではないですけど、尖っているという点では私もビキニでライブしているので、尖っている人と尖っている人のおかしなことになったかなと。すごく面白い作品になったと思います。

――アクションシーンで弁当箱で戦うというのは本当に奇抜でした。

藤田:本当に大変でした。弁当箱を武器にするという発想もビックリです。

――そうですよね(笑)。

藤田:中に入っている弁当も手を抜いていなくて、そこからも監督のこだわりが垣間見えます。アクションも坂口茉琴さんが丁寧に教えてくださったんですけど、私の運動神経が追い付いていない部分もありご迷惑をお掛けしてしまいました。最終的に一生懸命やるしかないなと割り切って全力で取り組みました。ケガも負い、いろいろと体を張りました。

――アクションシーンもそうですが、キカはセリフが少ないキャラなので演じるのは難しかったのかなと思います。

藤田:そうですね。セリフがない代わりに表情で感情を訴えるのは大変でした。でも、入り込めたのでよかったです。

実際にキカが憑依しました

――「自分自身がどんどん憑依していきました。」とのことですが、その点を具体的に伺えますか。

藤田:実際にキカが憑依しました。愛すべき子が亡くなってしまったシーンでの涙は心からの涙でしたし、歌を聞かせるシーンでも、相手の子に刺されと念を込めて訴えかけながら歌いました。

――本当にキカが憑依していたんですね。監督の独特の世界観の作品なので役との切り替えが大変なのかなと思っていましたが素晴らしいです。

藤田:さすがにお寺でのアクションシーンはビックリしました。そこは、「やりたいけど無理だよね」をやってしまうのが西村監督の世界観なので流石ですね。撮影が終わってからしばらく祟られないか怖かったですけど(笑)。

――確かにインパクトはありましたね。

藤田:ほかの撮影シーンでも、撮影を見ている方から「男なの、女なの」という声は聞こえてきました。

――確かにあのメイクだと小柄な男性か女性かわからないですね。

藤田:性別も不確かにさせてしまうくらいのインパクトはあったみたいですね。コスプレをしている感覚で楽しかったです。

――そんな尖った映画が、これからいよいよ映画祭で公開ですが。

藤田:去年のライブで解禁して、発表から公開までが長かったので、やっと公開できますね。かなりじらして、ファンの方も1年待っての公開なので、怖さもありますが皆さんの感想が楽しみです。

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