さわやか恋人一年生、北原佐和子はひとつ年上の憧れのお姉さん♡ 1982年 9月10日 北原佐和子のシングル「土曜日のシンデレラ」がリリースされた日

秀でた新人アイドルが多数輩出された1982年デビュー組。松本伊代、石川秀美、早見優、堀ちえみ、小泉今日子、中森明菜… etc.

年下のアイドルが多かった中で、北原佐和子は自分より一学年上ということで少し見方が違っていた。ちょっとでも年下だとすごく若く思えるし、薬師丸ひろ子のように同い年(同学年)の場合は同志的な思い入れが派生する―― ひとつでも年上というのは、かなり眩しい存在となる。友達のお姉さんに憧れる感覚に近いだろうか。

「マイ・ボーイフレンド」「スウィート・チェリーパイ」に続く北原佐和子のサードシングル「土曜日のシンデレラ」は、82年の夏休みが明けて間もない9月10日にリリースされた。デビュー曲「マイ・ボーイフレンド」よりもっとほんわか感が増した「スウィート・チェリーパイ」にすっかり魅了されていた自分にとって、一転してマイナー調で疾走感が加味された新曲「土曜日のシンデレラ」は正直期待していた方向ではなかった。でも、歌っている本人がどんどん綺麗になって輝きを増していたことに満足していた。

今改めて聴くとせつない乙女心が綴られた佳曲であり、萩田光雄の手練のアレンジが冴えを見せる。ちなみにここまでの作曲陣は、梅垣達志~タケカワユキヒデ~川口真というヴァラエティに富んだ人選。さらに次の「モナリザに誘惑」は売野雅勇と芹澤廣明のコンビに作詞と作曲が委ねられた。チェッカーズがデビューする8ヶ月前のこと。当時のアイドルポップスは実に贅沢な作家陣に支えられていた。

楽曲の魅力はもちろんのこと、モデル出身の北原佐和子のルックスはヤバかった。ファッション誌『mc Sister』のオーディションで優勝したのをきっかけに、モデル事務所のオスカープロモーションにスカウトされた彼女は、高校在学中にミス・ヤングジャンプに選ばれてグラビアデビューを果たすなど、我々男子高校生にとって憧れの存在だったのだ。

埼玉の上福岡に在住し、県立朝霞高校に通っていた彼女と同じ私鉄電車で通学していた自分は偶然の遭遇に淡い期待を抱きつつもついぞ逢える機会はなく、初めて生の姿に接したのはデビューしてから。アルバイトで訪れた芸能人水泳大会の収録現場、大磯ロングビーチであった。なので当然の如く水着である。学生アルバイトの分際では話しかけることはおろか、男子校育ちの自分には刺激が強すぎて直視することも出来なかったが、死ぬほど可愛かったのを憶えている。

歌手デビューする前から、同じ事務所だった真鍋ちえみ、三井比佐子とのユニット “パンジー” が組まれ、それぞれがソロデビューしてから三人で主演した映画『夏の秘密』は、82年9月18日に松竹系で封切られ、もちろん劇場に足を運んだ。考えてみれば「土曜日のシンデレラ」が発売されてから8日後に公開されている。同時上映が MIE 主演の『コールガール』という、なかなかパンチの効いた二本立てだった。

『夏の秘密』は小林久三原作の青春ミステリー。エンディングでは、真鍋ちえみがシングルリリースした主題歌「ナイトトレイン・美少女」を3人で歌う貴重なシーンがあったり、ビートたけしもチョイ役で出演していたと記憶する。だいぶ昔に VHS でソフト化されたきりで DVD は出ておらず、なんとかもう一度観たい作品である。

アイドル卒業後は女優として活躍し、現在は芸能活動と並行して介護士としても働いている彼女であるが、わずか3年ばかりの歌手活動期間中に出された、10枚のシングルと6枚のアルバムは80年代アイドルポップスの至宝と断言してしまいたい。

ファンだからこそ、ここで言わせてもらうと、決して上手くはないけれども、それらの音盤には絶対的に惹きつけられる魅力的な歌声がしっかりと刻まれている。当時のスタッフに特に感謝したいのは、84年に大瀧詠一のエヴァーグリーン「夢で逢えたら」をシングルリリースしたこと。萩田光雄のアレンジも秀逸なカヴァーは、贔屓目ではなく、アイドルが歌った「夢で逢えたら」の最高峰である。

さらに素晴らしいのは、その1ヶ月後に出されたアルバム『TWENTY』で「ボーイハント」「ジョニィ・エンジェル」「レモンのキッス」といったオールディーズを歌い、5月リリースの次のシングルで「砂に消えた涙」をカヴァーしたことだった。

これもまた優れもので、なんともいえない浮遊感に満ちた彼女の歌声にピタリと填っていた。まるで大瀧プロデュースかと思わせられるような見事な展開に、ナイアガラーの端くれでもあった自分は嬉々としてレコードを買いに走ったものである。

欲を言えば、もう少し歌手活動を続けてくれれば、さらなる面白い展開があっただろう。今も美しい北原佐和子からアイドル時代の想い出が語られる機会は残念ながら無いようだ。だが、もう一度歌って欲しいとは言わないまでも、せめて歌手時代の話を聞きたいと願う向きは少なくあるまい。彼女の歌には癒しの効果もあるはず。「スウィート・チェリーパイ」のアルバムヴァージョンの良さといったら!

35年以上に亘るこの想いがいつか通じますように。

※2018年9月10日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 鈴木啓之

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