どんどん膨れ上がる東京五輪の予算 映画『アルキメデスの大戦』は現在を描いていた|プチ鹿島

映画「アルキメデスの大戦」公式サイトより

8月15日の終戦の日に読んだ記事がずっと気になっていた。日刊ゲンダイの「舘ひろしインタビュー」である。映画『アルキメデスの大戦』に山本五十六役で出演ということで資料を読みなおしたら以下のことを思ったという。

《みんな戦争のことを話したがらないけれども、実はここをもう一回総括するべきだと思う。なぜかというと、太平洋戦争というのは日本のエリートたちが犯した失敗の宝庫だから》

《どうしてうまくいったのか、なぜ失敗したのかを検証しないんですね。失敗したことに関して、傷口に塩を塗るなみたいな風潮がある。日本人にとって気分がいいのかもしれないけれど、それは戦争について真剣に考えていないんじゃないかと思うんだよね》

質問者に『日本では政治を語る風土があまりなく「芸能人はノンポリであれ」という暗黙のルールがあります』と問われると、

《これは政治的に発言しているんではなくて、歴史から学べることが大いにあるということ》

と答える舘ひろし。素晴らしい言葉。

で、先日やっと『アルキメデスの大戦』(山崎貴監督)を観にいった。「これは、帝国海軍という巨大な権力に立ち向かい、数学で戦争を止めようとした男の物語」とあった。

映画冒頭ではいきなり戦艦大和が撃沈する。しかし戦争シーンはこれだけ。舞台はそこから12年前の1933年(昭和8年)へ。海軍省が会議をやっている。

巨大戦艦を建造したい派と「今後の海戦は航空機主流。大艦巨砲主義はもう古い」という山本五十六(舘ひろし)派。しかも山本派から見て巨大戦艦の見積もりはやたら安いのだ。

見積もりがインチキであることは明白だが相手は詳しい資料は見せてくれない。国家予算の無駄遣いを証明するために本当の見積もり価格を算出するしかない。そう考えた山本五十六は天才数学者に会う。それが菅田将暉演じる元帝国大学の数学者だった。

これは史実から着想を得たフィクションだけど「結論ありきの会議やお手盛り予算」とか「隠ぺい」とか、もっと言えば「絶対に日本は負けない、失敗しない」というシーンを次々に見ると、ああ、これは「今」を描いているのかなと思えて仕方なかった。東京五輪の膨れ上がる予算や酷暑開催を見てもそうではないか。

他にもこんな記事が目に入った。

『首相掲げた目標、集計方法変え「達成」 対アフリカ支援』(朝日新聞デジタル8月29日)

この記事は「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)」について書いたものだが、後半に目が留まった。

首相は前回のTICADで「16~18年の3年間で官民総額300億ドル規模の投資を行う」考えを表明した。ところが、河野太郎外相は昨年10月、約160億ドルにとどまっていることを明らかにした(18年9月時点で)。

目標達成は困難とみられていたが、しかし外務省は先月28日に目標を「ほぼ達成した」というのである(※ODAが100億ドル、民間投資などODA以外が256億ドルで、計356億ドルになったという)。

実は、計算方法を変えていたのだ。

外務省によると、

《従来は日本からアフリカに渡った金額から、アフリカから日本に戻った金額を差し引いて計算していた。今回のTICADに向けて集計方法を変更。日本からアフリカに渡った金額だけで計算したという。従来通りの集計方法の場合は総額208億ドルで、目標には達していなかった》(朝日・同)

集計方法を変えて首相が掲げた目標を達成したかのように説明することをめぐっては、

《政府内でも「そもそも目標値を作ったときとベースを変更していいのか、という声が出ているという》(朝日・同)

ああ、アルキメデスが現代にも。とても小さな記事だったのでこういうことはちょいちょいあるのだろう。厚労省で統計不正問題もあったのもつい最近である。

『アルキメデスの大戦』は2019年の映画です。そういう意味で。(文◎プチ鹿島 連載『余計な下世話』)

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