Eスクーターはドイツの都市交通を変えるか?  登場から2カ月で安全性や環境問題の壁にぶつかる

米国生まれのパーソナルモビリティー

ドイツ国内でEスクーター(電動アシスト機能付きキックスクーター)を見かけるようになって早2カ月。その目新しさで人々の注目を集めると同時に、新聞やテレビではEスクーターによる事故のニュースも目立つようになった。それにもかかわらず、購入するには何カ月も先まで待たなければならないほどの人気ぶりで、Eスクーターのシェアリング企業は次々と国内の都市に事業を展開している。

そもそもEスクーターは、「パーソナルモビリティー」の1つとして米国で誕生。パーソナルモビリティーとは、街中での近距離移動を想定した1~2人乗りの小型電動コンセプトカーなどを指す未来型の乗り物だ。昨今、自動車メーカーが徐々にガソリン車やディーゼル車を廃止。プラグイン・ハイブリッドや電気自動車が主流になろうとしている一方で、二酸化炭素(CO2)排出量が少ないといわれるEスクーターは、都市部での新しい移動手段として現在欧米を中心に急速にシェアが拡大している。

2017年の登場以降、瞬く間に人気を博し、パリやイスラエルの首都・テルアビブにも米国発のE スクーターシェアリングの企業Limeが参入。やがてドイツもそれに目をつけ、交通・デジタルインフラ相のアンドレアス・ショイアー氏(CSU)は、Eスクーターが「非常に大きな将来の可能性」を秘めているとして、国内でEスクーターを解禁することを決定。同氏は「私たちの都市は、近代的で環境に優しく、クリーンな移動手段を求めていた」と話し、「(Eスクーターは)車に代わって、駅やバス停から自宅、職場までのラストマイル(*)にとって理想的だ」と述べた。

*駅やバス停から自宅などの目的地までのことで、比喩的に「マイル(約1.6キロ)」という言葉が用いられている

「環境に良い」はウソだった?

ドイツでは、今年6月15日にEスクーターの一般道路使用に関する規制が発行され、7月15日から公道を走ることが法律で認められた。Limeやベルリン発のTierをはじめ、シェアリングタイプのEスクーターが突然街中を走り始めたことは、記憶に新しいだろう。しかし、実際に蓋を開けてみると、多くのドイツ人が予想していたようにEスクーターによる事故が発生し、その安全性について疑問の声が上がった。

交通ルールを知らずに利用する人が多く、飲酒運転や交通違反も後を絶たない。また、歩道に駐車されたEスクーターが車椅子利用者や視覚障がいのある人々の通行の妨げになっていることも指摘されている。それどころか、本当は環境に良くない、という専門家まで登場した。

IOP Publishingで公開された米国の研究報告によると、1キロメートルあたり自動車が257グラムのCO2を排出しているのに比べ、Eスクーターは126グラムと少ない。しかし、電動自転車の25グラムやディーゼルバスの51グラムと比較すると、より多くのCO2を排出していることが分かる。そこには、Eスクーターの製造過程、充電のための回収作業などで発生するCO2排出量も含まれるからだ。

Eスクーターの今後の課題

こういった批判にさらされながらも、Eスクーターシェアリングを展開する企業は着々と前進しているという印象だ。本当のエコフレンドリーを実現するために、企業の共通課題として、再生可能エネルギーのシェアを100%にすること、現在数カ月と言われるE スクーターの寿命をできるだけ延ばすこと、集配距離を短縮し効率化を図ることなどが挙げられる。

また、Tierの共同設立者であるユリアン・ブレージン氏は、ビジネスサイトGründerszeneのインタビューで、Eスクーターは車やバイクに比べてはるかに事故が少ないことを指摘。事故件数を減らすために、Tierではアプリを通じて安全トレーニングを実施しているという。さらにデンマークでは、広い自転車道のおかげでE スクーターによる事故件数が少ないため、ドイツにおける都市のインフラ整備も必要があると語った。

全体的に辛口の意見が多いドイツだが、Eスクーターが登場してまだ2カ月あまり。Eスクーターの導入が成功か失敗か、判断を下すのは時期尚早と言えそうだ。むしろ、より良い都市生活の実現のために、市民を巻き込みながら試行錯誤している段階と言えるかもしれない。そのなかで一人ひとりができることは、ルールを守り安全運転を心がけること。まずは、この近未来的な乗り物に試しに乗ってみるところから始めてみるのはいかがだろうか。

Tierについて

2018年10月にベルリンでスタートアップしたEスクーターの会社。オリジナルのEスクーターを開発し、ドイツの17都市をはじめ、欧州各地や中東でシェアリングサービスを展開している。www.tier.app

ドイツ国内:ベルリン、ビーレフェルト、ボーフム、ボン、ケルン、デュッセルドルフ、フランクフルト、ハンブルク、ハノーファー、ハイデルベルク、インゴルシュタット、ルートヴィヒスハーフェン、マインツ、マンハイム、ミュンヘン、ミュンスター、ヴィースバーデン(2019年8月現在)

Tier利用料の目安
1ユーロ(ロック解除料)+0.15~0.19ユーロ/分(都市によって異なる)
※1回の利用料の目安は3~4ユーロ(10分程度)

Eスクーターの詳しい乗り方やルールは、ドイツニュースダイジェストの記事でご覧いただけます。

参考:Tagesspiegel「Entscheidung zu Elektromobilität / Regierung macht Weg frei für E-Scooter」(2019年4月3日)、Forbes JAPAN「eスクーターは便利でも賛否両論 欧州の都会から見る危険性と事例」(2019年7月14日)、Süddeutsche Zeitung「Viele Unfälle und wenig Umweltnutzen」」(2019年8月10日)、Gründerszene「Tier-Mobility-Gründer „Leider ist die E-Scooter-Debatte oft recht einseitig“」(2019年8月10日)

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