「子どもたちに本を」 遺族が受け継いだ“思い” 元五島市議・野口さん(享年58) 図書館への寄付

寄付金で購入された児童書の一部。背表紙には「野口善朗文庫」と記された黄色いシールが貼られている=五島市立図書館

 4月に急逝した元五島市議、野口善朗さん(享年58)の「五島の子どもたちに、もっと本を読んでほしい」という願いを継ぎ、遺族が市立図書館に児童書の購入費を寄贈した。葬儀で寄せられた香典などから拠出。妻の珠美さん(58)は「五島の未来のために皆さんの気持ちを使わせていただいた。本人が一番喜んでいるはず」と話している。
 珠美さんによると、読書家の野口さんは大量の本を買い集め、出掛ける際には必ず1冊は携帯した。旅行先でも本屋や図書館を見つけるとふらりと立ち寄り、数時間入り浸ることも。市が2021年度の開館を目指す新市立図書館の完成も心待ちにしていた。
 野口さんは市役所を早期退職後、17年2月の市議選に出馬し初当選。まちづくりや子育て支援、新図書館の建設促進などに熱心に取り組んだ。だが1期目の折り返しを過ぎたころ、自宅で突然倒れて帰らぬ人となった。
 葬儀を終え、家族が参列者の名簿を作ろうと自宅のパソコンを立ち上げると、野口さんが残したファイルの中に「読書のすすめ」と題した文章を見つけた。自身が所属する「図書館友の会」の会報に寄せたメッセージだった。
 「本は、幼児から大人まで、幅広い世代をつなぐ」「心が折れそうな時、私たち自身を励まし応援してくれる」「全市民へ読書の輪が深く広がることを期待します」-。そんな思いがつづられていた。口癖のように「子どもたちに本を読んでほしい」と語っていた夫の姿が目に浮かんだ珠美さん。寄付を決心し、子どもたちも賛同してくれた。
 浄財は5月、市教委に寄付。図書館職員らが購入する本を選び「野口善朗文庫」と名付けて8月から貸し出している。現在、絵本や図鑑などの児童書約650冊が本棚に並び、最終的には700冊ほどになる見込みという。
 家にいないかと思えば、いつの間にかごみ拾いに出掛けている-。野口さんはいつも地域のために汗を流した。珠美さんは「普段から家にいなかったから、まだ亡くなった実感がない」とほほ笑む。まだ図書館には足を運べていない。「本を見てしまうと、どうしても思い出してしまうから…」と声を詰まらせた。

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