<突如コケる・倒れる>は強し 上田慎一郎監督『スペシャルアクターズ』

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『スペシャルアクターズ』(c)松竹ブロードキャスティング

▼映画『カメラを止めるな!』で、スターが出なくとも面白く観客が押し寄せる映画が日本でも生まれうると知らしめた上田慎一郎監督の、新作『スペシャルアクターズ』(10月18日全国公開)初回試写に駆け付けた。今回もスターはいない、が、いろいろと楽しめる。特に「主人公は極限まで緊張すると気絶してしまう」。この設定にとてもくすぐられる―。※ネタバレはないのでご安心ください。

▼【あらすじ】

 俳優事務所「スペシャルアクターズ」は、葬式の参列者でも、劇場での笑い屋でも依頼があれば何でも引き受ける。そのスペアクに、売れない役者・和人が、弟に誘われて入る。ある旅館から、カルト集団による乗っ取りを阻止して欲しいと依頼され、役者たちは綿密な計画を立ててリハーサルを重ねるのだが、実は和人には、極限まで緊張すると気絶してしまうという弱点があった…。

▼【プレッシャー】

 脚本も、もちろん上田監督。試写後、「『カメ止め』の次の作品ということで、こんなプレッシャーは人生で初めてという状況で、何度か気絶しそうになりました」と笑わせた。脚本初稿に気絶設定は存在せず、最後の決定稿で盛り込んだそうだ。気絶設定があるとないとでは大違い、よくぞ思いついてくれました。<突如コケる・倒れる>は万国共通、シンプルで強いアクション。サイレント時代までさかのぼらずとも、近年の映画で挙げますと、新垣結衣さんと瑛太さん共演の映画『ミックス。』(2017年)に、お見事な場面がある。

▼【すばらしき倒れ】

『ミックス。』中盤。田畑の間を走る電車の中、元ボクサー役の瑛太さんが、卓球クラブで仲良くなった元天才卓球少女役、新垣結衣さんにちょこっとボクシングを教える場面がある。

・瑛太:「一発ぐらい殴ったっていいよ。ちょ、立って立って」

・新垣:立ち上がる。

・瑛太:「こう脇絞って、体重のせて、こう、アゴ打てば、女の力でも倒れる、パンパン」。右左とワンツーをして見せる。

・新垣:「アゴ…」。拳を構えてワンツーをまねしてみる。

・瑛太:横で「そうそう」と言いながら、新垣の正面に回り「こう、ここ」と自分のアゴを指さす。

・新垣:「こう?」。ゆっくりと伸ばした右の拳が瑛太のアゴに触れる。

・瑛太:「そうそう」と再度アゴを指さす。

・新垣:「こう」と、もう一度ゆっくり伸ばした右の拳が瑛太のアゴに触れる。

・瑛太:崩れ落ちる。

▼【アドリブ】

 筆者が新垣さんへのインタビュー時、「あれは台本に?」と尋ねると、なんとアドリブだったという。「アゴに当てれば倒れるから」といったせりふは台本にあったが、立って実践してみるというくだりは台本になく、瑛太さんのアドリブ。その即興に新垣さんが応じた形だ。新垣さんは「(2回目に拳を伸ばした時)そこで倒れるとは思わなかったです。もう1回ぐらいやったら倒れるのかなって思ったかも知れないけど」。意表を突かれたそうで、観客であるコチラはなおさらである。

▼【加藤茶】

 ザ・ドリフターズの加藤茶さんが先日、同僚記者の取材に、笑いの神髄についてこう語った。「基本は簡単。一定のリズムを刻み続けて気持ちよくなった頃、ちょっと外すと面白く感じる。これだけです」。それは<突如倒れる・コケる>に通じる。

▼【何度も】

 意表を突けば突くほど効果的。だが、『スペシャルアクターズ』での気絶は1回ではない。となると、意表を突けずに難度が上がる。一方、繰り返してこその笑いと変奏の楽しみが生まれる。上田監督はどんな倒れ方をさせるのか、観客が忘れた頃にまた繰り出すのか、観客に「来るぞ来るぞ」と思わせておいて期待通りに気絶させるのか。いずれにしても、こんなにも「featuring気絶」な映画も珍しい。

▼【全員オーディション】

 キャスト15人は、約1500人の応募者からオーディションで選ばれたnot star。主演に抜擢された大澤数人さん(35)は、過去10年で演技の仕事は3回だけという。上田監督は15人を決めてから、それぞれの個性を生かすような物語を組み立てたという。

 主役以外にも、カルト集団教祖の父で、口八丁手八丁な幹部を演じた三月達也さん(46)がまず目についた。『カメ止め』でブレイクを果たした濱津隆之さんがTBS日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』にレギュラー出演しているように、三月さんは企業モノでも即戦力になれるのではないか。

 スペアクの一員でシナリオ担当を演じた上田耀介さん(27)は、新井浩文被告の不在で空いた席を埋めるかもしれない。若い教祖を演じた淡梨さん(たんり。22)はモデルが本業らしい。ユニセックスな印象で、劇中ではちょっと槙原敬之さん似に見えたり、斉藤和義さん似に見えたりと、移ろい、気を引く雰囲気がある。教祖役をあてがうとは上田監督、妙案。

 他にも、グラビアアイドルから俳優に転身した櫻井麻七さん(9月15日で27歳)、人気俳優たちが所属する事務所のホープ・小川未祐さん(18)、是枝裕和監督の映画『誰も知らない』(2004年)で柳楽優弥さん演じる主人公の妹を演じた北浦愛さん(26)など、さまざまなキャリアの人が入り乱れ、光っている。試写後、キャストの皆さんが現れて並び、あいさつしたのだが、旅館の女将役・津上理奈さん(9月17日で27歳)は会社員。撮影もこの日の試写も、有給休暇を取って参加したという。『カメ止め』メンバー同様、『スペアク』メンバーも、映画を観客に見てもらうところまで楽しんでいる模様。上田監督の仕掛け、人を見る目、生かす目は今回も存分に発揮されているようだ。

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第127回=共同通信記者)