経済政策の現状維持が“安倍政権の土台”を揺るがしかねない理由

9月11日に第4次安倍再改造内閣が発足しました。事前に報道されていたとおり、2012年の発足以来の安倍内閣の“骨格”といえる菅義偉官房長官、麻生太郎財務大臣が続投となったことを踏まえると、経済・外交などはこれまでと同様に政策運営が続くことになるでしょう。

今回の内閣改造で13名が初入閣となりましたが、安倍晋三首相と一定程度関係がある、あるいは能力・実績を踏まえた人選、との印象を筆者は受けました。2021年半ばまでの安倍首相の自民党総裁任期を見据えて、次世代のリーダーとして人気が高い小泉進次郎氏を含めポスト安倍の候補者を、大臣や自民党の重職に軒並み配置しており、次期首相争いがスタートしたと位置付けられるといえます。

経済政策運営はほとんど変わらないことなどから、今回の内閣改造が経済や金融市場に及ぼすインパクトはほぼ皆無とみています。今後、次期首相ポストを意識しながら、閣僚や重要ポストの政治家が競い合いながら成果を出そうとするでしょう。そうした中で、安倍政権のレガシーとして、東京オリンピックの成功、そして憲法改正の実現に重点が置かれそうです。

2013年からの金融・財政政策の転換によって日本経済の安定成長と脱デフレが始まり、それがこれまでの長期政権を支える土台になってきました。ただ筆者は、この土台が揺らぐリスクを警戒しています。


2020年にかけて成長率は減速する

現状、安倍政権は経済成長を最優先させることに力点を置いていないとみられ、それが引き起こすであろう経済情勢の変化が政権の地盤を揺るがしかねないとみています。このリスクは、すでに金融市場の価格形成に反映されています。

日本株の日々の値動きは、米国株市場にほぼ連動して動いています。ただ、2018年から米国と比べて日本株はアンダーパフォームし、2018年初をピークに日本株(TOPIX、東証株価指数)が緩やかな下落基調にあります。日本の経済政策がうまく作用せず、経済が冴えない状況が続いていることが最大の背景です。

経済最優先を掲げていた安倍政権の政策が2018年からはっきり転換したことの象徴は、今年10月の消費増税を決断し、財政政策が明確に緊縮方向に転じたことです。2%インフレという経済正常化を実現する前に財政政策を逆噴射させるのは、2014年の消費増税と同様で、成長率を押し下げてデフレ圧力を高める政策対応とみられます。

もちろん、消費増税への対応政策として補正予算策定などが検討されています。3兆~5兆円規模の補正予算などの手当てが想定されますが、可処分所得の伸びが極めて低い中で、2兆円を上回る家計に対するネットの増税負担への手当てとして十分な対応はほとんど見当たりません。

このため、2020年にかけて個人消費を中心に成長率は大きく減速する、と筆者は予想しています。

景気減速対応で出遅れる日本

また、安倍首相は新設する検討会議において、「全世代社会保障改革」に全力で取り組む、としています。新たな検討会議での議論は、社会保障制度や税制の将来の姿につながるという意味では重要でしょうが、長期的な政策枠組みの話がメインとなり、予想される景気減速への対応には直結しないとみられます。

他国に目を転じると、米国や欧州などほとんどの国で、経済成長の下振れリスクが高まりインフレが停滞する中、経済成長率を押し上げる拡張的な経済政策を行っています。

米国では、ドナルド・トランプ大統領が議会と財政合意にこぎ着け、2020年までの歳出の上限を引き上げました。フランスは4月に減税などを行い、EU離脱を控えた英国ではボリス・ジョンソン首相が政府債務を拡大させる大規模な財政政策を表明しています。そしてドイツでも、景気低迷を受けて、減税などの財政政策についての議論が活発になっています。

マクロ安定化政策が各国の経済成長率を左右し、それが株式市場のパフォーマンスにも影響します。デフレ脱却の途上にあり、各国と比べても成長率を押し上げる経済政策が必要である日本だけが緊縮的な経済政策を行っていることへの、投資家の不信感はかなり大きいと思われます。今後景気が減速する中で、この不信感は強まるとみています。

いま日銀が取るべき策は…

緊縮的な経済政策は、財政政策だけではなく、日本銀行の金融政策についても同様に位置付けられる、と筆者は考えています。

現状、米連邦準備制度理事会(FRB)が2019年7月から利下げに転じる中で、新興国を含めたほとんどの中央銀行が金融緩和を強めています。こうした状況下、インフレ目標の実現が先送りされる中で日銀が金融政策の現状維持を続けていることは、円高を引き起こし、金融引き締め的に作用しています。

2%インフレ目標の達成可能性が低下する中で日銀が同じ政策を続けているのは、安倍政権と足並みをそろえ、経済軽視の政策を行っているからかもしれません。いわゆる「金融緩和の副作用」というのが具体的に何であるのか、筆者は従前から懐疑的でしたが、最近はこの副作用という声が小さくなってきたように、筆者にはみえます。

マイナス金利政策を続けることで政府による国債発行を増やして、財政政策を拡張することをサポートしているともいえますが、その必要性を政府に強く訴えることはできるでしょう。そして金融政策についても、円高リスクを低下させるために、マイナス金利の深掘りが有力な金融緩和のオプションが必要になる、と筆者は考えています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己 写真:ロイター/アフロ>

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