【特集】「NO日本」 韓国国民の本音はどこに?

7月26日、ソウルの日本大使館前で日本製品の不買運動をする韓国の高校生ら(共同)

 韓国が文在寅政権下になって以来、日韓の対立はかつてないほど鮮明になった。これに追い打ちを掛けたのが、日本が7月に始めた韓国に対する「輸出規制強化」だった。現在の日韓関係は悪化の一途をたどっている。両国の報道が異常なまでにヒートアップする中、韓国に在住する日本人である筆者の目線から見えた韓国、そして日本の今を伝えたい。

▼日本で感じた韓国への印象

 7月末に夏休みを兼ねて日本に帰国した。釜山からの成田便は行きも帰りもほぼ満席で、日本人よりも韓国人の乗客で占められていた。この時点では日韓関係の悪化による影響が広がっているようには感じられなかった。

 東京では新大久保の「コリアンタウン」を訪れたが、その印象は変わらなかった。相変わらず多くの人でにぎわっているだけでなく、10代や20代を中心とする若い世代はKポップを始めとする韓国の芸能やファッション、メークなどに夢中になっていたからだ。表面上だけかもしれないが、そこに変化を見つけることはできなかった。

 だが、今回の帰国ではっきりと感じたことがあった。それは、韓国に対する怒りや不信感を率直に口にする日本人が明らかに増えたということだ。友人や知人、親戚との会話では必ずと言って良いほど、「日韓関係」が話題に上った。そして、次のような言葉を掛けられるのだ。「こんな時に韓国にいて大丈夫なのか?」。韓国に住み、家族を持つ者としては決して心地よいものとは言えない。しかし、彼らの言葉を冷静に分析すると「韓国という国や国民に対して」というよりも、多くは現在の文在寅政権の言動に対するフラストレーションが表出したもののように感じられた。

 いずれにしても、現在の日韓関係はこれまで「韓国」という国をそれほど意識していなかった人々の隣国に対するイメージを悪く変えてしまったのは疑いようがないだろう。

▼地域で違う「NO日本」

 日本の「輸出規制強化」に対抗するかのように、韓国では「日本に行かない、日本製品を買わない」ことをうたう「NO日本」運動が拡大している。この取り組みは、マスコミによる過剰報道とネット上で繰り広げられる過激な論調が相まって、日韓両国の対立感情をさらにあおる事態につながっている。

 しかしながら、「韓国に住む日本人」である筆者が「日本人である」ことを理由に、被害を受けたり、嫌な思いをしたことはこれまでのところ皆無である。

 釜山にある自宅近くで「NO日本」と書かれた横断幕をほとんど目にすることはなく、スーパーやデパートの食料品売り場などでも撤去されることなく日本の製品が売られているのを目にすると、ニュースでの報道がどこかひとごとのようにも感じられてしまっていた。

韓国釜山市の自宅近くで唯一見かけた「NO日本」の横断幕。8月末には撤去されていた=8月20日、原美和子撮影

 また、偶然入ったカフェで隣り合わせた50代とおぼしき女性客のグループが、日本との歴史問題を蒸し返す文大統領の姿勢や一連の対応を非難しているのを耳にしたときは正直驚かされた。

 このように、ソウルや釜山といった日本からの観光客に人気の都市では「NO日本」の動きは少なく、平穏を保っているようだ。

 それに対し、過疎化が進む地方の町や村では「NO日本」の横断幕が至るところで掲げられている。当然のことながら地方の町村にも日本人は在住している。加えて、韓国企業に勤務する日本人社員もいる。彼らに取材すると、周りの人から何かを言われた訳でなくても街中で横断幕を見たり、日本人が少ない環境というだけでストレスを感じるという声も聞かれた。

 このような地域による温度差はどうして起きるのだろう。韓国人のKさん(40代・男性)は「韓国は政治絡みの地域対立が昔から激しい。加えて、日本以上に都市と地方の経済や教育などの格差が大きいことが今回の『NO日本』の温度差を生み出しているのだと思う」との分析を教えてくれた。

▼国民の本音はどこに

 ほんの一部ではあるが、今回の騒動について韓国の人がどう思い、感じているかについて、紹介したいと思う。

 日本の大学に留学をするAさん(20代)。日韓の関係が悪化している中、どのような思いで日本での留学生活を送っているのか気がかりであったが、彼女の会員制交流サイト(SNS)には日本語と韓国語を駆使して日本での楽しそうな生活の様子を数多く投稿されている。実際のところ、彼女はどう感じているのだろうか? 尋ねてみた。「日本に来てから日本がもっと好きになった」とAさん。日本の懐メロが大好きだというから驚きだ。彼女の両親も日韓関係の先行きを案じながらも娘が日本で充実した留学生活を送っていることを誇りに思っているという。

 一方、妻が日本人のRさん(30代)と韓国人の夫Sさんの間に流れる空気は少し複雑になった。「日韓関係の悪化は好ましくない」という点では一致しているものの、不買運動に対する意見がかみ合わないのだ。「不買運動を国が主導する形で行うのは理解できないし、韓国のためにも良いことは一つもない」。Rさんがそう考えているのに対し、Sさんは「不買運動などはあくまで安倍政権に対するものであり、日本人個人に対してではない」とする。

 しかし、Sさんは文大統領の言動に賛同しているわけではない。中でも「北朝鮮との経済協力で日本に追いつく」との構想には「日本に勝てるなんて国民は本気で思っていません」と手厳しい。それでも、「ここで日本に屈した姿勢を見せれば国民の非難を浴びることにもなるので、大統領の自尊心にかけて国民を鼓舞するようなことを言っているのでしょう」と一定の理解を示す。

 さまざまな人に取材する中で見えてきたのは、韓国の人々も文大統領に対するいら立ちを強めているということである。中には「まだ朴槿恵大統領の時がマシだったのではないか?」と話す人さえいる。これらのことを踏まえると、日韓のマスコミは今こそ冷静な報道に徹して、両国民の融和をはかることに力を注ぐべきだと強く思う。

 疑惑があるにもかかわらず側近である曹国氏の法相就任を強行したことに対する批判の声がさらに高まっていても強気の姿勢を崩そうとしない文大統領。その姿勢を維持することに躍起になってしまうがあまり、日本に対する姿勢と政策がさらに迷走してしまうことも懸念される。このように日韓関係はまだまだ予断を許さない状況にあり、関係悪化の解消は先になりそうだ。

 だが、そのことは真の意味で国民のためになるのだろうか? 疑問でならない。(釜山在住ジャーナリスト・原美和子=共同通信特約)

日本製品を販売しないとの案内文を売り場に掲げるスーパー=7月12日、ソウル(聯合=共同)

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