静寂破る夜の電話 未明に保護、朝から会議 児童虐待対応 長崎の現場 非行など含め年間1人110件超

ケースワーカーは夜も黙々と机に向かっていた=長崎市橋口町、県長崎こども・女性・障害者支援センター

 子どもが虐待で命を奪われる事件が全国各地で相次いでいる。そのたびに児童相談所(児相)の対応に注目が集まり、時には厳しい批判にさらされるが、現場の職員たちは日々、どのように業務に当たっているのだろうか。児相機能を持つ県長崎こども・女性・障害者支援センター(長崎市橋口町)を取材した。

 8月下旬、センター1階のフロア。午後9時を過ぎると大半の部署は職員が退庁し暗かったが、中央部の照明だけはついていた。そこには虐待相談・通告に対応する児童福祉司(ケースワーカー)らの机が向かい合わせに計20台並び、7人が黙々とパソコンに向かっていた。

 「プルルッ」。静寂を破るように卓上の電話が鳴った。夜間当番の男性ワーカーがワンコールで受話器を取ると、電話の声に耳を傾けながら、懸命にメモを取る。ワーカーは「われわれもできることを提案させていただきたいと思います。遅い時間にお話を聞かせていただき、ありがとうございました」と言うと、静かに受話器を置いた。20分弱のやりとり。既に介入している家庭からの相談だった。センター内にある子どもの一時保護所の職員に夜間対応を引き継ぐ午後10時を回っても、4人のワーカーがまだ残っていた。

 虐待相談・通告対応のワーカーは全部で18人。指導係の班長と5人のワーカーの計6人で一班を構成し、3班体制。県内21市町のうち長崎、島原、諫早、大村、五島、西海、雲仙、南島原の8市と、長与、時津、新上五島の3町の人口計90万人超のエリアを担当する。日中は家庭訪問や関係機関との協議など外勤も多く、この日、センターにいたワーカーは全体の半数弱だった。彼らもまた、電話対応や書類作成に追われていた。

 ■未明に保護、朝から会議 非行など含め年間1人110件超

 児童虐待相談・通告の件数は年々増加しており、そのすべてを受理会議にかけて対応を協議している。2018年度、県長崎こども・女性・障害者支援センターが対応した相談・通告は553件。この年度のワーカーは班長を除いて12人で、年間1人当たり46件を担当した計算になる。だが、虐待対応だけが業務ではない。非行や保護者不在の子どもたちへの対応なども含めると1392件を受理会議にかけており、ワーカー1人当たり年間110件超となる。

 ある日、40代の男性班長が残業をしていた。午後10時ごろ、警察から連絡があり、虐待被害の子どもへの対応を求められた。現場に出向いて関係機関に保護してもらい、センターに戻ったのは翌日午前3時半。朝9時から、このケースの受理会議に臨んだ。こうした現場業務以外にも、審議会の準備など事務作業があり、班員の相談にも応じる。週末も班長が交代で公用携帯を持ち、センターに寄せられた虐待相談・通告への対応を迫られることもある。

 児相は忙しさを増しているが、東京都目黒区の女児虐待死事件を受け国は昨年7月、虐待通告から原則48時間以内に安全確認を徹底するよう促す通知を出した。本県は独自に24時間以内の確認を定めており、センターの柿田多佳子所長は「約9割は確認できている」と説明する。ただ、居場所の情報があいまいだったり、お盆や年末年始に長期帰省して不在だったりする場合、確認が難しいという。

 現場のワーカーは関係機関との役割分担・連携の重要性を訴える。中堅の男性職員は「ワーカーは増員されているが、相談件数も増え続けており、今後もっと増えると思う」と述べ、市町との役割分担の促進や、長崎、佐世保両中核市への児相設置を提案する。

 若手の女性職員も本県の離島の多さを指摘し、「離島で虐待通告があっても長崎からすぐには行けない。緊急度の判断など市町の力量が重要になる」と話す。

 連携がスムーズに進まない場合もある。若手の男性職員によると、学校から虐待通告された子どもが一時保護を強く拒んだ時、ワーカーが保護者に状況確認をしようとしても、学校側が保護者との関係が悪化することを懸念して、難色を示すこともあるという。こうした子には危険を感じたら児相の全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」に電話して「SOS」を発信するよう安全教育をするしかない。

 8月下旬、鹿児島県出水市で4歳児が溺死し、虐待が疑われている。痛ましい事件が起きるたび児相の対応が適切だったか厳しく問われるが、中堅の男性職員は「自分が抱えているケースでも最悪の事態が起きるのではないかという不安はあり、そのことを常に考えながら動いている」と打ち明ける。

 虐待疑いのある子どもを職権で一時保護すると、保護者がセンターに来て「しつけだ」「返してくれ」と訴えることもある。「子どもがいないと生きていけない」と、自殺をほのめかす親も。だが、虐待のリスクをぬぐえなければ、子どもを自宅に戻すことはできない。ワーカーは児童心理司や上司らと会議を重ねながら、子どもと家庭への援助方針を決めていく。

 中堅の男性職員は「子どもを保護するだけでなく、家族の元に返して楽しく生活できるようにするまでが仕事。そうした姿に接した時、ワーカーをやっていて良かったと思う」と言う。

 柿田所長は「子どもと家庭を中心に置き、児相と関係機関が連携してそれぞれの機能を発揮し、支援することが重要。結局のところ地道な努力を続けるしかない」と話した。

虐待対応に臨む際の思いを語るケースワーカー=長崎市橋口町、県長崎こども・女性・障害者支援センター

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