山陽時事懇 羽生善治九段が講演 大山名人の偉大さについて

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講演する羽生善治氏

 山陽時事問題懇談会(会員組織、代表世話人・松田正己山陽新聞社社長)は13日、山陽新聞創刊140周年と岡山会場第900回を記念した岡山、倉敷、津山、笠岡の合同例会を岡山市北区駅元町のホテルグランヴィア岡山で開き、将棋の羽生善治九段が「将棋界の未来、大山名人の偉大さについて」と題して講演した。要旨は次の通り。

 6月、倉敷市出身の故・大山康晴15世名人が築いた最多勝記録を更新したことで注目された。ただ大山名人の全盛期だった昭和30~40年代は、棋戦の数が今より大幅に少なく、単純な比較はできない。

 例えば大山名人は、(1957年から67年にかけて)50期連続でタイトル戦に出場した記録がある。途方もない強さだったことが分かる。

 大山名人のすごさは、プレーヤーとして活躍しただけでなく、(53歳から)日本将棋連盟の会長を務めて組織運営を両立させたところにある。午前10時ごろから対局が始まるとすぐに中座。持ち時間の中で、連盟会長として打ち合わせや来客の対応などを済ませ、午後から対局室に戻っていた。

 将棋の普及活動にも熱心で、私も対局やイベントで全国各地に足を運んでいるが、大山名人が訪れたことのない場所はほとんどなかった。それほど寸暇を惜しんで仕事をしていたのではないか。

 大山名人ら先人の努力によって続いてきた将棋界は、私がプロになった85(昭和60)年から大きく変化した。当時、戦術の研究、分析はほとんどなく、未知の局面での力比べが大切という時代だった。それが3、4年もすると様変わりする。最も変化を与えたのはインターネットの登場だ。

 家にいながら、全国各地の人と対局ができるようになった。それまでは指導者、対局相手が多い大都市圏に住んでいる人が棋力の向上に有利だったが、ネット対局で腕を磨けるようになり、格差がなくなった。今も岡山に住む菅井竜也七段も、ネット将棋を数多く指し、強くなった一人だと思う。

 近年は人工知能(AI)。96年、チェスの世界チャンピオンにコンピューターソフトが勝ち越し、2016年には、囲碁ソフトの「アルファ碁」がプロを撃破し、衝撃を与えた。アルファ碁は、過去のデータを参考に、ソフト内で対局を繰り返して、自分で強くなっていく。その数は約3千万局。人が生涯、どんなに頑張っても10万局が限度と言われており、それをはるかにしのぐ学習量で強くなった。

 AIは今後、さらに進化していくだろう。ではソフトの方が強いと言われる中で、人間の対局に魅力がなくなるのか、と言われれば、そんなことはない。大山名人の対局に、一つのヒントがある気がする。

 名人戦への挑戦権を争う順位戦A級にいることがトップ棋士の証しだが、大山名人は晩年、「この一番に負けたらA級から降格」というピンチに立たされた。この対局を見ていた私は終盤、「大山名人の負けかな」と思ったのだが、午前零時を過ぎて最後の最後でうっちゃり、大山名人が逆転勝利した。

 (機械では味わえない)人間同士が指す将棋は、勝負の背景、人間性など、さまざまなことが問われてくるようになると思う。

 (高校生棋士の)藤井聡太七段に代表される、若い世代が台頭してきた。これからも将棋界は変わっていくだろう。その中で、将棋が日本の文化や伝統として位置づけられていくよう、脈々と続く歴史の重みを次世代につないでいきたい。

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 はぶ・よしはる 1985年、15歳で史上3人目の中学生プロ棋士に。96年に史上初の全七冠独占、2017年12月、初の「永世七冠」を成し遂げた。タイトル獲得は計99期で歴代1位。18年2月に将棋界で初めて国民栄誉賞を受賞。19年6月、公式戦1434勝目を挙げ、故大山康晴15世名人(倉敷市出身)の最多記録を抜いた。埼玉県出身。故二上達也九段門下。48歳。