【台風15号】ハウス倒壊、水質悪化… 漁業、農業被害深刻

県栽培漁業協会が水槽で飼育するアワビは停電による被害を受けた=三浦市三崎町城ケ島

 首都圏を直撃した台風15号は、漁業や農業にも深刻な被害を与えている。三浦市内では停電が長引き、サザエやアワビを飼育する水槽の水質が一時、悪化。三浦、伊勢原両市内では、強風でビニールハウスが倒壊するなどした。関係者は被害に頭を抱え、今後の影響に気をもんでいる。

 三浦市・城ケ島にある県水産技術センターは、サザエの栽培漁業を行っている。稚貝や育ちきっていない貝を水槽に入れ、水を掛け流して水質の悪化を防ぎながら育て、県内の漁業協同組合に配布、放流している。現在、稚貝数百万個、約2センチまで育った貝約10万個を計30~40の水槽に分け、飼育している。

 センターによると、9日午前0時半ごろに停電。復旧まで数時間と見込んだが長引き、急きょポンプで海水をくみ上げ、水槽の水を交換する作業を夜通し、行った。結局、復旧したのは約31時間後の10日午前7時40分ごろ。担当者は「大量死する状況にはならなかった」としつつ、水質が一時、悪化した影響については「まだ何とも言えない」と説明する。

 センター近くで、アワビなどの栽培漁業を行う県栽培漁業協会でも、電力供給が30時間以上、止まった。アワビ約30万個などを育てる屋外の水槽に発電機で酸素を送り込んだが、雨が降り注いだ水の交換は風が弱まった朝までできなかった。10~2月の放流を前に、今後被害を確認するといい、担当者は「これから1、2週間は注視しなければ」と話す。

 強風による被害は、農業にも及んでいる。

 三浦市農業協同組合は12日までに、ビニールハウスや農業用倉庫の6割が被害を受けたことを確認した。

 松原農園(同市南下浦町上宮田)は枝豆の苗などをより多く育てるため、2月に建てた鉄骨造のビニールハウス(約6ヘクタール)が倒壊。来春に出荷するために種をまいたばかりのキャベツも、4割ほどが台無しになった。代表の松原弘和さん(45)は「約25年営農しているが、こんなにひどい被害は初めて」と明かし、「資金繰りは苦しいが、ハウスの再建に向けて取り組みたい」と前を向いた。

 同所の農家加藤雅基さん(45)も作業場や堆肥小屋の屋根が飛ばされ、年末にかけて出荷を予定していたネギが根っこから倒された。加藤さんは「この規模の台風は、個人で対策することはできない。台風が来ないのを願うしかない」とお手上げの様子だった。

 「自然相手なので諦めるしかない」。そう肩を落とすのは、伊勢原市下平間の農業大谷仁さん(44)。ピーマンとインゲンを栽培するパイプハウス3棟が強風で押しつぶされ、骨組みも曲がるなどし、2棟が大破した。

 「強風で骨組みまでやられたのは初めて」と大谷さん。建て直しに500万~600万円ほどかかるとみられる上、来年の作付けが早くできなければ、被害額が1千万円まで膨らむ可能性もある。それでも大谷さんは「農業は今後何十年も続けたい。だから、ハウスを再建しなければ」と語った。

 市とJAいせはらによると、市内では10日現在、47件の被害が確認されている。

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