平成中村座がついに九州初上陸! 中村勘九郎が小倉城天守閣の「空中取材会」に登場

11月1日より、北九州・小倉城勝山公園で上演される「平成中村座小倉城公演」。小倉城の天守閣で行われた「空中取材会」に出演の中村勘九郎が登場し、公演への意気込みなどを語った。

小倉城天守閣再建60周年と博多座20周年の特別公演として開催する「平成中村座小倉城公演」は、「江戸の芝居小屋」にタイムトリップしたような時空を超えるエンターテインメント空間となっており、小屋の周囲には長屋を模した屋台も併設されている。同公演中、長屋は一般客にも開放され、誰もがお祭り気分を味わうことができる。

これまで東京・大阪などの主要都市でしか行われていなかった平成中村座公演が、九州で開催されるのは今回が初めて。勘九郎は「本日はお暑い中、お集まりいただきありがとうございます。19年前に浅草で産声を上げた平成中村座が九州の地に上陸するということで、楽しみでしかありません。そして、一生懸命やらなければならないなという身が引き締まる思いでいっぱいです。皆さまにも楽しんでいただけるような舞台にしたいと思います。どうぞよろしくお願いします」とあいさつした。

──(取材会場の)天守閣からは、小倉の町を一望できますが、いかがですか?

「夜の部で『小笠原騒動』という演目がありますけれども、まさにこの地で行われていたものを題材にした作品です。そんな芝居をこの場所でできるというのはなかなかないことですからうれしいですね」

──九州・博多座では、多く歌舞伎公演に出演してこられましたが、平成中村座として「九州初上陸」という思いは?

「父(故中村勘三郎)は常々『まだ歌舞伎を見たことがないという方がたくさんいらっしゃるので、面白い芝居を見せたい』と言っていました。中村座は仮設の小屋で、どこでも行けるのが強みです。九州のお客さまに見ていただきたいという気持ちも、もちろん父の中にありましたので、その思いを兄弟、中村座のメンバーで果たすことができるというのはすごくうれしいです」

──平成中村座ができての19年間はどう感じていますか?

「父は19歳の時、唐十郎さんの紅(あか)テントを見て『これが歌舞伎だ、これをやりたい』と、2000年にテントを立てて芝居をしました。本当にうれしそうだった父親の横顔は今でも忘れません。その舞台に立ったからには、皆さまに楽しんで喜んでいただけるものを作らなければいけない。はじめの頃は空調が効かずに暑かったり寒かったり、テントも薄くて、雨が降るとセリフも聞こえませんでした。椅子や平場の座布団の厚さなども、いろいろと試行錯誤を重ねて今の形になっています。父の夢をみんなで作り上げてきた結晶がこの中村座だと思っているので、それがこの後も続いていけばと思います」

──現在まで続けられている理由は?

「中村座は、足を踏み入れた時から江戸時代にタイムトリップできる。靴を脱いで、芝居小屋の中で芝居を見る。舞台だと、どうしても舞台と客席の間に壁ができてしまいがちなんですが、芝居小屋(中村座)ではその壁が一切ない。よく『中村座用に分かりやすく演出とか変えたの?』って言われるんですけど、一切そんなことはしていないです。やはり見る方がどれだけリラックスして見られるか、楽しめるかっていうのが大事なのだと思います」

──いろいろな席がありますが、座席にも工夫が?

「そうですね。平場で(床に)直に座って見る席もありますし、椅子もあります。少し窮屈なんですけれども、密着して見ていると笑いだとか心揺さぶる作品は伝染しやすかったりするので、舞台からも小屋全体が揺れている感じがよく見えます。2階もお大尽席という席がありまして、ここは通常の値段より随分高いんですけれども、なぜかこの席から売れるんですよね。もちろん席数が少ないというのもあるとは思うんですけど、世の中お金持ちが多いんだなぁと(笑)。あと、桜席といいまして、舞台の幕内の見切れ席があるんですけれども、そこは舞台裏転換などが見られるお得な席でもあります」

──「十八世勘三郎」にちなんだものもあると聞いていますが?

「父が亡くなって以降、中村座をやる時は見守っていてほしいという思いもあり、父の目の絵を18カ所、中村座内に散りばめています。小倉城の中にも『隠れ勘三郎』がいる予定です。それを探していただくのも小屋を楽しんでいただける要素の一つになるかと思います」

──長屋について

「今までは中村座の敷地内でチケットがないと買えなかったんですけど、今回は開放してお祭りのように20軒長屋を展開する予定です。いつもは(テナントが)5軒なんですけど、一気に増えました(笑)。歌舞伎を見たことがない方も、江戸の文化に触れていただくいい機会なんじゃないかなと思います。そして芝居はテント小屋なので、音漏れがすごいんですよ。長屋からでも芝居をやっている声が聞こえると思います」

──もしラーメン店があったら、逆にテントに匂いが入ってくるのでは?

「おなかがすいてる時だったらキツいなぁ(笑)。でもラーメン店は入れたいですね」

──昼の部の演目について

「中村座を九州でやるとなった時に、お客さまにどういう演目を持ってきたら楽しんでもらえるかというのを一番に考えて今回の演目立てになりました。最初の『神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)』は、本当に古典的な舞台です。(中村)七之助のお舟はこれが意外にも初役なんですよね。僕も、七之助でいつか見てみたいと思っていた演目なので彼が矢口をチョイスしたのは面白いなと思いました。『お祭り』は、夢の世界に連れて行ってくれるような作品。父や祖父のお祭りも見てきましたが、37歳の僕が今できるお祭りを見ていただけたらなと思います。芝居は一生修業・勉強です。そして、(中村)獅童さんが『封印切』をやりたいと言ったのは意外でした。獅童さん、七之助、僕の3人が小倉でこの封印切をできるというのは感慨深いです。最初僕は(小倉らしい名前の)『井筒屋おえん』の役をやりたいと言ったんですが、ダメでしたね(笑)」

──夜の部・小笠原騒動について

「小倉で中村座が決まった時に、まずこれしかないと思いました。私自身、小笠原(騒動)のファンで、いつかは中村座でやりたい演目の一つだったので、ご当地でできるのはとてもうれしいです。小笠原騒動は上方で初演された作品なので、上方歌舞伎のこってりとした演出が入っています。(小倉藩の)お家騒動ものにキツネが出てくる芝居でファンタジーな部分もあり、水車小屋の立ち回りなんかもあります。その中でも小悪党の(勘九郎演じる)岡田良介は、お客さまの心をつかむというか揺さぶる役なので、物語の核となる親子の愛情や悲しみ、愁嘆場についてはみんなで相談しながらやりたいなと思っています」

──小倉城を生かしての演出は?

「小倉城が後ろに見えますから、テントを開ける演出はしたいと思っています。また、夜の部の小笠原騒動では何日間か花火を上げるみたいで…すごいですよね(笑)」

──元号が変わり、“令和”初の“平成”中村座ですね。

「平成のままですか? というお問い合わせがたくさんありました(笑)。19年前に平成中村座ができましたが、僕らは父の意思を引き継いで平成中村座のままでいいとなりました」

──小倉の印象は?

「僕もマラソン(1月の北九州マラソン)の時と、若い時に数回来たことがあるくらいなのですが、ディープな街だなっていう印象ですね(笑)。もちろん食事は楽しみです。前回博多座に出演した時は去年の2月で、大河ドラマのために食事制限をしていたので、一歩も中洲に足を踏み入れなかったんです(笑)。ホテル、ジム、博多座という感じでおいしいものを食べられていなかったので、北九州ではいっぱい食べたいと思います」

──熊本・玉名にも行かれたとか?(NHK大河ドラマ「いだてん」の舞台)

「偶然なんですけど(取材日の8月20日は)金栗四三さんの128回目のお誕生日で、このタイミングでお参りに行ける!と思い、プライベートで行って参りました。そしたらお墓の駐車場で、おじさんがびっくりしてましたね(笑)。『よくいらっしゃいましたねー…あれ?』って。それで金栗さんの命日にも行けたらなと思っていたら、11月(13日)なので、ここ(九州)にいるんですよ!」

──改めて、大阪以西に初上陸することについて

「東京、大阪、名古屋など大きな街には劇場があって(歌舞伎を)見に行けるじゃないですか。福岡にも博多座はありますけど…芝居をあまり見られない方々に多く来てもらいたいなっていう思いがあります。西でこそ劇場はありますが、逆に東京から上は歌舞伎の劇場がないんですよ。なので、ぜひ今後の夢としては各地でやりたいなと思っています」

──個人的に行きたい場所は?

「仙台で『先代萩』の通しをやったら面白いですよね。中村座を使うことで、いろいろ夢が広がります」

──今後の夢や北九州でやることに対する意気込みを。

「これからも続いていくためには最初が肝心です。来てくれるお客さまのその日が一期一会だと思っております。裏方含め、この公演をするために携わってくれた方々全員がやってよかったなと思える公演(にしたい)。お客さまを笑顔にすることを心掛けたいなと思います」

──七之助さんへの思いを聞かせてください。

「一心同体。(お互い)芝居のため中村座、歌舞伎のためにやっている人間です。8月なんかは撮影の関係で納涼歌舞伎に出られなかったのですが、(私の)子どもたちが出ていて七之助に面倒を見てもらっているので、本当に感謝しかないです」

──最後に

「本当に楽しんでいただきたいなと思います。今は家にいながら何でもできる時代なので、高いお金を払って生の舞台を見に来てくださる以上、絶対に後悔はさせたくないという思いでやっています。生の魅力、舞台の魅力、歌舞伎の魅力を伝えるために一生懸命やります」

──ありがとうございました。

【公演情報】

小倉城天守閣再建60周年「平成中村座小倉城公演」
日程:2019年11月1日(金)~26日(火)
会場:福岡県北九州市 勝山公園
出演:中村勘九郎 中村七之助 中村獅童 坂東彌十郎ほか
主催:博多座/テレビ西日本
企画協力:ファーンウッド、ファーンウッド21
製作:松竹

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