「リアルサカつく」いわきFC・大倉智社長が語る、“夢のクラブ”の現在と未来。

サッカーファンにはお馴染み、SEGAの人気ゲーム「サカつく」シリーズ。

自身が創設したサッカークラブの代表に就任し、クラブ運営や試合采配などを行いながら世界最強を目指すクラブ運営シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!」として、1996年2月に第1作目が登場。以降様々なプラットフォームで多くのシリーズ作が発売されている。

現在はスマホ向けのゲームアプリ『サカつく ロード・トゥ・ワールド(サカつくRTW)』が配信中。いつでもどこでも楽しめる同作も人気となっている。

だが、そんな時代だからこそ改めて問いたい。

「サカつく」とは何なのか?

Jリーグには2019年現在、55クラブが加盟している。1993年にスタートした際は10だったチーム数は四半世紀を経て5倍以上になったが、各クラブの道筋には、一つとして同じものはなかった。

そこで今回Qolyは、今現在「サカつく」のようにJリーグを目指してサッカークラブを運営している人たちを直撃!

サカつくプレゼンツの企画として「リアルサカつくチーム」を紹介していきたい。

第一弾は、福島県いわき市をホームとする「いわきFC」。

現在東北1部リーグで首位を走る彼らは、天皇杯でJクラブを破るなどピッチ上でのパフォーマンスに加え、フィジカル強化に積極的に取り組むチームコンセプトでも話題だ。

『スポーツを通じて、いわき市を東北一の都市にする』というミッションを掲げる同クラブ。その代表を務める大倉智氏(下写真・左)に、「サカつく」のプロデューサーである宮崎伸周氏(同・右)とともに話を聞いた。

(取材日:2019年8月28日)

――本日はありがとうございます。

まずは、おそらく様々なところで話されていると思いますが、福島、その中でもいわき市にクラブの拠点を置いた理由を教えてください。

私は以前、Jリーグのセレッソ大阪と湘南ベルマーレでGMや社長を務めていました。そうした立場でリーグ全体を俯瞰したとき、今のJリーグは地域貢献やプロサッカーリーグと謳っている一方で、“勝利だけ”を目標にしている会社の活動が重視され、本来はもっと人がスポーツを通じて成長しなければいけないはずなのに、そこがずれ始めている。

そうした中で出会ったのが、株式会社ドームの安田秀一だったんです。いわきFCを運営するいわきスポーツクラブの親会社であるドームの会長を務める安田と私は同期。彼は法政大学のアメフト部出身で、昔から知っている関係でした。

ドームは『スポーツを通じて社会を豊かにする』という理念を掲げていて、今の欧米はこんな風になっていて、という話をしてくれました。私も感覚的には理解していたのですが彼はそれを言葉にしていて、「スポーツは慈善事業ではない」「スポーツで稼がなくてはいけない」など、結構強めなことを言われたんですが当たっていると感じる部分が少なくありませんでした。

【大倉智(おおくら さとし)/1969年5月22日生まれ。早稲田大学から日立製作所へ入社し、その後プロとして柏レイソルやジュビロ磐田などでプレー。1998年に現役を引退した後、バルセロナのヨハン・クライフ大学でスポーツマネジメントを学び、2001年にセレッソ大阪のチーム統括ディレクターへ就任。2005年に移った湘南ベルマーレでは強化のトップから代表取締役社長まで務めた。2015年12月、株式会社いわきスポーツクラブの代表取締役兼総監督に就任】

彼らがいつも「スポーツの本質」と言うのは、健康や地域貢献もありますが、やはり大事なのは経済だと。誰もが分かっていながら、誰もそういうことを言わない。これまで定義されてこなかったことを彼らは定義していて、その通りだと思いました。

そして、「実はいわきに物流倉庫を作っている。震災復興の雇用創出や経済活性化。でもそれだけではつまらない。スポーツで地域に何かをしたい」といった視点から安田と色々な話をしていたところ、「サッカーチームを作ったらどうか?」という方向にどんどんなっていきました。

安田と出会った2013年頃、今のいわきFCパークがある土地に一度来てみたんです。元々「いわき電子」という会社の社屋があったので土地は広く、東日本大震災の後は広野町の仮役場が置かれていた歴史もある場所でした。

それで、いよいよ本当にサッカーチームを作ろうとなった時、ひとつ大事なこととして私が言ったのは、施設についてでした。Jクラブでも行政頼みになりがちなのですが、自由に使える施設があることが、やはりスポーツビジネスの原点です。

そこは嫌と言うほどベルマーレで感じていたので、それを安田へ伝えたところ、「よし、分かった」と言ってこのグラウンドやクラブハウスができ、後戻りができなくなりました(笑)。

※3階建てのクラブハウス正面。デザインも非常にクールだ。

※クラブハウスの裏にはよく整備された人工芝のグラウンド。奥に見えるグレーの建物がドームの物流倉庫で、クラブハウスも大きいがそれ以上に巨大。

――「サカつく」ではゲームを始めて、まず何に投資をしていくかユーザーにとって悩みどころです。いわきFCの社長に就任し、クラブを一から作っていく中で一番気をつけたことは何でしたか?

やはり、まずは施設。スタジアムも含めたファシリティですね。結局そこがないと人が集まれないですし、アイデンティティも生まれません。

このクラブハウス「いわきFCパーク」も、選手のロッカーとグラウンドのみというスタートから、“人が集まれる場所”としてどんどん発想が大きくなっていきました。

ビジョン・ミッション・バリューや、そこに紐づく現場と会社の方針などはもちろんクラブにとって大事ですが、先ほども言ったように私はファシリティを持っていることがスポーツビジネスの原点だと考えています。

いわき市の人口は約35万人です。ホームタウンとして「人口が少ないのでは?」という声も聞くのですが、スポーツはローカルなものだと思っていて、福島民友さんや福島民報さんという福島県の主要メディア2社もいわきに支社を置いています。こういったマスコミの反応がどういう風に広がっていくかも最初から注視していました。

現在の「いわきFC」というクラブ名、そして「株式会社いわきスポーツクラブ」という屋号を付けることに関しては、実は相当な議論がありました。現在、東京や大阪とともに世界的に知られるようになった福島県の名を入れた「株式会社福島スポーツクラブ」なども候補に挙がっていたんです。

しかし最終的には約35万人のいわき市にターゲットを絞った、ローカルスポーツビジネスとして「いわきFC」が誕生した経緯もあるので、やはり施設として“自由に使えるファシリティ”はものすごく大事ですね。

本来クラブはそこへ最優先に投資しなければならないと思っているのですが、選手の給与などにより後回しになりがちです。そして行政に「お願いします」となり、結局は比較的お金のある親会社を持つクラブが先に施設を建ててアドバンテージを持ってしまう。

難しい面があるのは事実ですが、いわきFCではとにかくまずはファシリティを重視しました。

※充実した設備のトレーニングルーム。手前は通路になっており誰でも中の様子を見ることができる。

※グラウンドは周囲を山に囲まれ、サッカーに専念できる環境が整っている。

※いわきFCの素晴らしい施設に圧倒される「サカつく」宮崎伸周プロデューサー。

(中略)

――宮崎さん、「サカつく」にも『地元を愛し、地元チームを育てる』というテーマがあります。

宮崎 ともに成長していくというか、クラブを大きくしていくと共に、サポーター(ユーザー)側も成長を体験できるといったところをゲームコンセプトの一つにしています。いわきFCさんとも通じる部分があると思っていて、お話を伺っていてもやはり震災直後で、単に勝っていくことではなくクラブの成長をともに実感していくことを大事されていると感じました。

私は湘南ベルマーレのファンですが、初めてスタジアムへ行った時、バックスタンドに商店街のおじちゃんやおばちゃんたちがいて、細かい戦術などを話している姿にビックリしました。なんてリテラシーが高いんだと(笑)。

一緒に育っていくという中で、スポーツの見方を含め生活のルーティーンの一環になっていく。このいわきという土地でも同じようなことが今後生まれていくのかなと考えると、すごく楽しみです。スマホの「サカつく」でもこういった部分はぜひ実現していきたいです。

――大倉社長は、クラブが“ハブ”になることで地域において変わってきたと感じられることはありますか?

「震災復興のために地域を元気にします」という思いもあってクラブを作ったものの、半年くらい経った頃、「僕らが地域を元気にする、というものじゃないな」と気づいたんです。

外様の私たちが突然現れて「あなたたちをスポーツで元気にします」と言っても、もっと苦しいことを皆さん体験されているわけですから。

そこからは、スポーツの魅力やスポーツがもたらす子どもたちへの影響、健康といった視点に変わっていきました。地域の皆さんに最初から100%理解されていたかというと、おそらくそうではなかったと思うんですが、いわきFCが試合で結果を残すことによって伝わっている実感を少しずつ持ち始めました。

たとえば、いつ誰がどういった形で「サポーター」として現れるのだろう?と、私と監督の田村は話していました。今でも覚えていますが、ある日カメラを持った少年が一人ポツンと木陰から練習を見ていたんです。すると、練習の様子がブログやSNSに載るようになって、見に来る人が一人二人と増え始めました。

今ではここのグラウンドで試合を行うと、1,000人以上の人が赤いユニフォームを着て応援してくれています。

また、少し前に居酒屋で呑んでいた時、年配のご夫婦に「大倉さんですよね?」と声をかけられたんです。そこで「いわきFCを作ってくれてありがとうございます。応援できるチームができて、生き甲斐が増えました」と仰っていただいて。この時は本当に作ってよかったと感じました。

突然現れた“非日常空間”で、老若男女問わず皆がユニフォームを着てチームを応援する。私が平日よく行くゴルフ場のキャディーさんなども週末には試合に来てくれるんです(笑)。

もっともっとそういったものを感じてもらいたいですし、サポーターと話していても新しいコミュニティが生まれていると聞きます。私たちも最初は正直どんなふうになっていくのか想像はできなかったのですが、宮崎さんが仰ったような世界が生まれつつあります。

ただ、まだまだいわきFCが本当に好きな層とそうではない層、そしてその間のちょっと迷っている層がいるので、これからどうやってより多くの人たちの心を掴んでいくのかが課題ではあります。

そのためには、“勝利”も必要だと思います。そして『魂の息吹くフットボール』と表現していますが、気持ちが昂る内容のサッカーという商品、それ以外にやっている活動も掛け合わせて、さらに広げていかなければと感じています。

※クラブハウスの「いわきFCパーク」には複数のテナントが入っており、3階のレストラン街にはグラウンドを見渡せるテラス席も。ランチやスイーツを食べながらのんびり時間を過ごすことができる。こうしたプラスアルファが今後さらに重要になってきそうだ。

※取材した時は8月だったので、「RED&BLUE CAFE」の夏季限定メニュー、サマートロピカルパンケーキをいただいてきた。素敵な見た目、かつ美味でした。

※1階にはアンダーアーマーのアウトレットショップやスポーツ医療施設、2階にも英会話スクールにトレーニングジムと、まるでショッピングモールのよう!正直これらだけでも行く価値ありである。

Qolyで今回お届けするのはここまで!

途中で(中略)とあったように、大倉社長にはほかにも選手を見る時に一番注目する点、『日本のフィジカルスタンダードを変える』というモットーの真意やアカデミーについて、さらにはスタジアム建設を含む将来的なことなど様々なことを伺った。こぼれ話もいろいろ出てきたぞ。

それらについては、9月16日(月・祝)20時から「サカつくRTW 2019年秋アップデート記念」として生放送される特別番組内でお届け予定。

「リアルサカつく」的な新企画なので、サカつく好きやいわきサポーターはもちろん、多くのサッカーファンにもぜひチェックしてもらいたい。

番組は、3連休最終日!9月16日(月・祝)の20時からYouTube LiveとPeriscopeで配信される予定だ。

「サカつくRTW」公式生放送「2019年・秋 アップデート記念生放送」概要

■放送日:

2019月9月16日(月・祝) 20:00~21:30(予定)

■視聴URL:

YouTube LIVE:
https://www.youtube.com/watch?v=RYZp3Ut6myA

Periscope:
https://twitter.com/sakatsuku_com(※放送開始後ツイートされます)

地元を愛し、地元チームを育てる「サカつく」のテーマから生まれた新コーナーでは、実際に地域とともに成長する「リアルサカつく」チーム「いわきFC」を紹介。「いわきFC」の紹介は、20時45分頃を予定。

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