【寄稿】「対立深まる日韓関係」 主張に耳傾ける寛容さを 谷村隆三

 ほろ酔いでタクシーに乗った時、運転手さんが「韓国の大統領のことどう思いますか」と話しかけてきた。文在寅(ムンジェイン)氏がわが国に「盗っ人猛々しい」と言った直後のことだった。
 確かに、一国のトップが使う言葉ではなく無礼な表現で、聞いた時には翻訳間違いかと思ったほどだった。私だけでなく、日本国民の多くが耳を疑ったはずだ。
 隣国との摩擦や混乱は刻々とメディアに取り上げられ、テレビ番組では識者やお笑い芸人があきれたり、怒ったり、面白がったり、留飲を下げたりと騒々しい。釣られて、こちらも、だんだん性格が悪くなってくる気がする。
 一方で、昨今は、世界の大国の代表が、平気で制裁とか報復とか物騒な言葉を使うので、皆がそうした強い言葉を使うことに鈍感になってきている。交渉を有利に進めるブラフ(はったり)なのかもしれないが、私たちの国は誠実さを忘れず、節度を持った対応を心掛けてほしい。
 人が物事を見る尺度は多種多様だ。法律的な制約や基準。宗教に遡る教え。科学的な合理性。損か得かの経済合理性。歴史認識。勝ち負けの世界。何となく身に付いている道徳と常識-。これらが混然と絡み合った中で、その時々の判断を下している。本人の中で矛盾することもあるが、「それはそれ、これはこれ」と柔軟に仕分ける寛容さは、複雑に絡み合った問題を解決する一つの知恵だろう。
 「何々すべきだ」という極端な「正義」のぶつかりあいでは解決に至らないことも多い。「話しても分からない」ことは、それを前提にしか進めようがない。「なるほど」「一理ある」と認め合うことから解決の道を探りたい。そんな知恵を大切にしたい。
 私たちは今より明日が良くなることを期待して、変化を望む。しかし、変わることによって、それまで築いてきたものが崩れてしまうこともある。個人も社会も対立など望んでおらず、これまでのようにやっていければいいと考える人が大多数だろう。
 歴史問題の根深さを考えれば、日韓関係はどちらも納得できる形での早期の完全解決は不可能だろう。であるならば、互いの主張に耳を傾ける中で「なるほど」「一理ある」と認め合える部分を見い出しながら、事態を落着させる方策を探りたいものだ。
 対馬では、江戸時代、朝鮮王朝が日本に送った外交使節団「朝鮮通信使」行列を再現したイベントが40年近く続いており、今年も韓国の舞踊団などの参加を得て華やかに開催できた。両国の間に確かに存在している友好の絆を強くすることに心を砕きたい。

 【略歴】たにむら・りゅうぞう 1949年長崎市出身。星野組代表取締役会長。2005年から県建設業協会長。建設業労働災害防止協会県支部長、県建設産業団体連合会長なども務める。武蔵野美術大造形学部商業デザイン科卒。

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