空間に絵が立ち上がる? 鉄で線を描く「鉄筋彫刻」

 ジャズに魅せられた木版画家がたどりついた場所

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鳥取砂丘で撮影された「鉄筋彫刻」

 鳥取市の徳持耕一郎さん(62)は、幼い頃から浮世絵が大好きで、お小遣いをもらっては浮世絵が描かれた切手を買い集めていた。成長し、いったんは地元の鳥取大工学部に進学するが中退。東京の専門学校で木版画を学ぶ。浮世絵は木版画で刷られていたからだ。そして、浮世絵の魅力に取りつかれた木版画家の徳持さんがたどり着いたのは、「鉄筋彫刻」だった。

 鉄筋彫刻とは、鉄筋だけを使い、溶接などの技術を駆使して造形する徳持さんの「オリジナルの表現」だ。現在の主なモチーフはジャズ。なぜジャズなのか。

 木版画家として活動していた1989年、米ニューヨークで開いた個展で現地の日本人アーティストから「あなたの作品は誰かのものに似ているね」と言われた。「自分の作品にはオリジナリティーがないのか」。失意の中、偶然入ったナイトクラブで出会ったのがジャズだった。迫力ある生演奏に酔いしれ、気がつけば手元のナプキンにスケッチしていた。

 帰国後「一からやり直そう」と木版画をやめた。地元のジャズクラブに通い詰め、スケッチに明け暮れた。「描いている時は自分もセッションに加わっている感覚」と徳持さん。テンポに合わせてペンを走らせ、臨場感やプレイヤーの息づかいまで閉じ込めるのだという。そしてライブのポスターなどを手掛けるうちに、ジャズ専門誌からイラストを頼まれるようにもなった。

 ニューヨークでジャズと出会ってから4年後の93年。スケッチやポスターを展示する個展を開いたときのことだ。展示スペースを見ると、部屋が広く、壁に飾るイラストだけでは中心の空いたスペースが寂しい。何か置いてみたらどうだろう。鉄製の椅子をヒントに、知り合いの鉄工所にスケッチを持ち込んで、鉄線で像を作ってみた。

 輪郭線だけのシンプルな像。だが、平面に描いた絵がまるで空間に立ち上がってくる。面白さにのめり込んでいった。鉄筋彫刻誕生の瞬間だった。

 直径3~13ミリの鉄筋を切ったり、曲げたり、溶接したり。設計図となるスケッチに描かれた線の太さの違いを、鉄線を使い分けて再現する作業は、木版画で下絵を彫刻刀で彫る行程と同じようだった。だから「彫刻」なのだという。

 完成すれば鳥取砂丘などに運び写真を撮影する。「夕暮れの砂丘に置くと、バラードが聞こえてくる気がする」。太さの違う鉄線がスケッチのような濃淡を生み、線が背景に溶け込む。時間や光の当たり方によって異なる表情を見せる。これまでに250体以上を作り上げた。

女性ジャズシンガーの鉄筋彫刻とその設計図となったスケッチ

 7月には「線で奏でるJAZZ」(B5判、青幻舎刊)と題した作品集を発売。鉄筋彫刻の写真だけでなく、ポスターやスケッチなども収めた。受賞歴はないにもかかわらず作品集を発売できたことに「オリジナリティーが認められたのかな」と笑う。だが「あくまでも通過点。これからもどんどんオリジナルの表現を生み出したい」。徳持さんの創作意欲は尽きない。(共同通信=川口マヌエル)