ぎりぎりブラックホール未満?観測史上で一番重い中性子星を発見

アメリカのグリーンバンク天文台は9月16日、観測史上最も重い中性子星を発見したとするThankful Cromartie氏らの研究成果を発表しました。研究内容は論文にまとめられ、同日付でNature Astornomyに掲載されています。

■太陽2個分の質量が直径30kmの球体に凝縮

研究対象となったのは「PSR J0740+6620」(または「MSP J0740+6620」)と呼ばれるパルサーで、白色矮星と連星を形成しています。パルサーとは、恒星の超新星爆発によって誕生した高密度の天体である中性子星のうち、電波、光(赤外線や紫外線も含む)、X線といった電磁波がパルス状に観測される天体を指す言葉です。

PSR J0740+6620の自転周期は、わずか2.89ミリ秒しかありません。1秒あたりの自転回数は約346回に達します。このように自転周期がミリ秒(1000分の1秒)台と極めて短いパルサーは、特にミリ秒パルサーとして区別されています。

今回Cromartie氏らの研究チームは、グリーンバンク天文台に設置されている直径100mの電波望遠鏡を使った観測データなどを用いて、PSR J0740+6620の質量を測定することに挑戦しました。その方法は、規則正しく地球に届くパルサーの電波に現れる、わずかな変化を検出するというものです。

連星のペアである白色矮星がパルサーの手前を横切ると、白色矮星の重力がもたらす相対論的効果によって、パルサーの電波が地球に届くまでの時間にわずかな遅れが生じます。これは「シャピロ遅延」と呼ばれる現象で、白色矮星に限らず太陽など他の天体でも生じます。

今回の観測では1000万分の1秒台という非常にわずかな遅れから、まずは白色矮星の質量が求められました。連星を構成するもう片方のペアであるパルサーの質量は、この白色矮星の質量をもとに導き出すことができます。

観測と分析の結果、白色矮星の質量は太陽の重さの約26パーセントと判明しました。そしてペアを成すパルサーは、直径わずか30kmほどのサイズで太陽およそ2.17個分の重さを持つことがわかったのです。

皇居を中心に直径30kmの円を描くと、東京都の23区がおおむねそのなかにおさまります。PSR J0740+6620は、それほどのサイズに太陽2個分以上の質量が凝縮されているのです。

■ブラックホールになってしまう限界はどこ?

パルサーを含む中性子星の性質には、超流体が流れているともされる内部の様子をはじめ、未解明の部分が数多くあります。そのひとつが、ブラックホールとの境界です。

中性子星は自身の質量がもたらす強烈な重力と、構成する物質がもたらす斥力のバランスによって形を保っています。伴星から物質を奪ったり他の天体と合体したりするなどして中性子星の質量が増えると、どこかの時点で重力に逆らいきれずブラックホールになると考えられていますが、その限界となる質量がどれくらいなのか、正確な値はわかっていません。

発表では、重力波検出器「LIGO」などによる中性子星どうしの合体にともなう重力波の観測によって、限界の質量についての研究にも進展があったとしています。今回判明した太陽2.17個分という重さは、LIGOを用いた研究が示唆する限界の質量にきわめて近いとみられています。観測された質量の最高記録が更新されたことで、謎めいた中性子星の理解が深まることが期待されています。

Credit: BSaxton, NRAO/AUI/NSF
source: greenbankobservatory
文/松村武宏

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